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ようこそ!異世界ペンション・アイリスへ~ペンションとともに異世界転移したら、いつの間にか伝説のドラゴンを倒していました~  作者: 西園寺紗夜


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8.神様扱いと謎の声

「ごめんね、シーヴァ君!まさか鍵を渡しただけで、こんなことになっちゃうなんて……」


知らなかったこととはいえ、幼気な少年にとんでもない肉体改造をさせてしまうなんて……これじゃあ、虐待で通報されてもおかしくないじゃん!


必死に頭を下げると、


「そんな!どうか頭を上げてください!むしろ、アヤメさんが鍵を渡してくれたこと、本当に感謝しているんです!」


シーヴァ君も必死に宥めてきた。


「でも、シーヴァ君だって困るでしょ!今まで子供だったのに、いきなりこんなに大きくなっちゃったら!」


「そんなことありません!現に……見てください!」


そう言いながら、至る所で縫い目が裂けているスウェットの丸首部分を下に下げた。


「あれ、あの印が……!」


ついさっきまで、胸の真ん中に刻まれていた赤黒い奴隷の紋章。


それが、キレイさっぱり跡形もなく消え去っていたのだ。


「……奴隷紋が刻まれた瞬間、僕は誰かの奴隷として生きていくしかなかったんです。わざわざ奴隷紋を消して僕を自由にしてくれるような人なんていませんでしたから」


自分の胸を優しく撫でるシーヴァ君の声は震えていた。


「全部……全部、アヤメさんのお陰です!本当にありがとうございます!」


蒼い瞳に涙を溜め、それでもシーヴァ君は最上級の笑顔を向けてくれた。


「シーヴァ君……」


(彼がもう一度自由に生きることができるようになっただけでも、ここにやって来た甲斐があったというものよね……)


私も思わずホロリとしてしまった、が。


「やっぱり……アヤメさんは本物の神様だったんですね!」


「えッ?」


涙で目を潤ませていたと思ったら、急に熱っぽい視線が向けられ、思わずたじろいだ。


「この御恩は一生忘れません!むしろ、僕の一生をかけてお返しします!」


「いや、そこまでしなくても……!」


「いいえ!ぜひ、そうさせて欲しいんです!今までは無力な子供でしかありませんでしたが、この体であればきっとアヤメさんの、いえ……アヤメ様のお役に立てるはずです!」


「なっ……なんで急に『様』づけ?!」


「だって、あなた様は神様なんですから!」


「だから違うってッ!」


必死に否定するけど、シーヴァ君は全く聞き入れてくれず、それどころか、


「神様にお仕えする事ができるなんて、これ以上嬉しいことはありません。どうか、このまま僕をお側に置いて下さい」


と、毛布を外してそのまま跪こうとしたので、


「その前に……パンツを履いてッ!!」


すっかり脇に追いやられていた黒色ボクサーパンツを顔に無理やり押し付け、私はその場から逃げ去った。




「ちょっとぉ!どうなっているのッ?!」


私はフロントデスクの下に潜り込んで、苦情をぶつけている最中だ。


「何であの鍵を渡したら、急にシーヴァ君が大人になっちゃったのよ?!」


両開きの本を破れんばかりに鷲掴みにして突っかかる。


“スペア・キーを渡された者はこのペンションからの膨大な魔力を共有することができます。その効果により、獣人が急成長したと思われます”


「そういうことはさ、先に言ってよ!」


間違いなく、この世界に来てダントツで心臓に悪かったんだから!


「ちなみに、あんなに一気に成長しちゃって、シーヴァ君の体の負担は問題ないの?」


“獣人の子供は特に、身体に魔力の影響を受けやすいと言われております。実際、魔力の密度が高いダンジョンに獣人の子供が潜入すると、身体の成長が著しく進むと報告されておりますがこれまで命に関わる障害が出たという報告はありません”


いや、命に関わらなければそれでいいのだろうか。


まあ、シーヴァ君の口から聞く限り、この世界の安全基準は相当低そうだから、極端な話、


『死ななきゃ問題ない』


という判断なのかもしれない。


「それから、彼には奴隷紋っていうものがあったんだけど、それがキレイに消えていたの。それはどうして?」


“契約が上書きされたためと考えられます”


「契約って、キー・ホルダー(スペアキーの管理者)になったこと?」


“はい。この場合、契約する魔力量が奴隷紋よりキー・ホルダー(スペアキーの管理者)の方が圧倒的に高かったため、奴隷紋の契約が打ち消されたのだと考えられます”


要は、契約の強さで奴隷紋が負けてしまったからっていうことか。


「もしここでスペアキーを返してもらったら、シーヴァ君はどうなるの?また小さくなったり、奴隷紋が復活したりするの?」


大人になったり子供になったり急激に変化するのも大変だけど、あれだけ彼を苦しめていた奴隷紋がまた浮かび上がってきてしまうのはどうにか避けたいものだ。


“例えスペアキーを返却したとしても、一度成長した姿が再び後退したり、奴隷紋は元に戻ることはありません。よって、シーヴァからスペアキーを返されたとしても、今の状態に変化はありません”


それを読んでホッとした。


(ということは、シーヴァ君は本当の意味で自由になれたっていうことか。よかったよかった)


その時、


「アヤメ様、お待たせしました!」


談話室からシーヴァ君が呼ぶ声が聞こえてきた。


「はーい!というか、『様』付けはやめて!」


デスクから這い出し、談話室に向かった。


「どうでしょうか……おかしな所はありませんか?」


上にはかつてはスウェットだった布切れを、下にはちゃんとボクサーパンツを履いた状態で立っていた。


パンツの後ろからは、髪の毛と同じ銀色のフサフサした毛で覆われた尻尾がユラユラと揺れている。


「尻尾の穴の位置は大丈夫そう?」


「はい。一度履いて位置を確認してから穴を開けましたので」


「それならよかった」


まあこれで、下着問題は解決したとして。


次は、すでにボロ切れと化したスウェットの方だ。


「上の服も脱いでくれる?シーヴァ君が着ても大丈夫そうな服を持ってきたから」


「分かりました」


ボロボロのスウェットの脱ぐと、身につけているのはボクサーパンツだけ。


自分で言っておいて何だが、メチャクチャ目のやり場に困る。


(顔だけでなく、体もイケメンだな)


スラリとした長身は、とっくに私の背を超えている。


並んで立っても、私の頭は彼の肩に少し届かないだろう。


体つきは細くともしっかり引き締まっていて均整も取れており、こういうのを『細マッチョ』というのだろう。


もちろんこのままパンツ一丁で外を歩かせたら、いくらイケメンだからって即逮捕されるだろうけど。


「この服は一着で上下セットみたいなものだから、新しい服を手に入れるまではこれで我慢してくれる?」


「我慢なんてとんでもない。アヤメ様から頂ける物なら、何でも嬉しいです!」


「うん、分かったから『様』づけは止めようか」


(何だか、随分大袈裟な言い方になったな)


浴衣……と言っても本格的なものではなく、いわゆる旅館とかに置かれているような、腰紐を結ぶだけのお手軽なものだ。


やっぱり物珍しいのだろう、私が着せていく様子を興味深そうにジッと見つめている。


「サイズはギリギリ大丈夫、かな?どう?キツくない?」


正直浴衣をどれくらいのお客さんが必要とするか分からなかったので、男性用は紺色、女性用には紫色でMサイズを1着ずつだけ用意しておいたのだけど、ギリギリ足首が見える位の長さで収まってくれた。


「大丈夫です、アヤメ様。これが神様が着られる服なんですか?初めて見ました!」


目を輝かせて、袂を上げたり、背中の様子を見たりしている。


「シーヴァ君」


ため息を吐いて、ジトっと蒼い瞳を見据えた。


「何度も言っているけど、『様』付けは止めて。君が私に感謝してくれていることはよく分かったけど、私はそんな風に大袈裟に呼んで欲しくないの」


「ッ!」


私の不機嫌さが伝わったのだろう、ビクッと肩と尻尾が跳ねたかと思うと、今度は頭の耳と尻尾が力無く項垂れた。


「ご、ごめんなさい……」


すっかり落ち込んでしまったようで、私が意地悪してしまったような気分だ。


「そッそんな、責めている訳じゃないから!それに、さっきも言ったけど、私はこの世界については本当に何も知らないの。だから、これからシーヴァ君から教えてもらうことの方が多いんだから、『神様』だとかあまり持ち上げないで欲しいの」


言い聞かせるように伝えると、


「……分かりました。そうですよね」


ようやく納得してくれたのか、深く頷いた。


「そうそう、分かってくれた?」


「はい……せっかくこの世界にやってきて下さったというのに、僕のせいで周りの人に神様だってバレてしまったら、大騒ぎになってしまいますものね!」


「はい?」


「アヤメさんの正体がバレないように、僕も気をつけます!」


(絶対に分かってないでしょッ!)


もう一度しっかり言い聞かせないといけない、と口を開いた―――その時だった。


“何が、神じゃ……”


「「ッ?!」」


“異世界の……人間の……小娘の、分際で……!”


どこからともなく、地を這うようなおどろおどろしい声が聞こえてくる。


それも、誰がどう聞いても、悪意と憎悪が籠った声が!


「なッ何なの?!」


「……あちらから聞こえます!」


耳を澄ましたシーヴァ君が声のする方を特定したようだ。


指差した方は、食堂への入り口のドアの方だ。


今はしっかり閉じられている。


だけど、


キィ―――……


私とシーヴァ君以外には誰もいないはずなのに、ドアがゆっくりと開いていく!


「ヒッ!」


「アヤメさんは僕の後ろへ!」


咄嗟にシーヴァ君が私の前に出て、開かれるドアを睨みつける。


(シーヴァ君……見た目だけじゃなくて、心もイケメンになっちゃって!)


こんな状況だというのに感動してしまった。


「出てこい!お前は何者だッ!」


ドアの向こうの正体を、私達は固唾を飲んで見つめた。


読んで下さり、ありがとうございます!

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