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ようこそ!異世界ペンション・アイリスへ~ペンションとともに異世界転移したら、いつの間にか伝説のドラゴンを倒していました~  作者: 西園寺紗夜


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17.Sランク冒険者『紅蓮』

「それではぁ、こちらの冊子が冒険者ギルドの詳細や注意事項をまとめた物です。もし分からないところがあれば、いつでも私、セリに聞いて下さいね。シーヴァさん!」


上目遣いでシーヴァ君を見るが、当の本人は、


「アヤメさん、後で一緒に確認しましょうね!」


とこれまた受付嬢セリさんを無視して私に話しかけた。


そのせいで、また凄い目で睨みつけられるが、そこはOL時代に培った処世術『笑顔でやり過ごす』だ。


「あ、それからぁ。冒険者に登録した方への初めての依頼は、ギルドが指定したものをして頂くことになっておりまぁす。これは、冒険者がしっかり依頼をこなせるかのテストのようなものになりまぁす」


パンと手を叩いて切り替えたセリさんは、カウンターから2枚の紙を取り出した。


「こちらがシーヴァさんのでぇ……こっちがあなたです」


(どうでもいいけど、いちいち語尾伸ばすの止めた方がいいんじゃない?)


もちろん、そんな不毛なことは言わず、大人しく依頼書を受け取った。


「僕は、森で薬草採取ですね。期限は3日後までです」


採取する薬草の絵もご丁寧に描かれている。


「私は……え?」


思わず、依頼書の内容を何度も見返した。


「早く返して下さい。さっさと受注手続きしますので」


セリさんがほくそ笑みながら、私に手を突き出した。


「いやでも、この依頼、無理がありますよね?!」


流石に笑顔で受け流すことはできなかった。


シーヴァ君も私の依頼書を覗き込み、目を見開く。


「『ヒカリゴケの採取』って……これ、ダンジョンに潜らないと採取できないじゃないですか!しかも期限は……今日?!」


私も黙っていられず、


「確か、Eランク冒険者はダンジョンに入ってはいけないんですよね?それなのに、どうやって採取しろって言うんですか!」


と抗議すると、


「そんなの、他のDランク以上の冒険者に頼んで同行させてもらえばいいじゃないですかぁ。ちょっと考えれば分かることでしょお?」


セリさんは鼻で嗤った。


(ハァ……ダメねこれは)


自分好みのイケメンが自分には少しも靡かず、私ばかり気にかけているのが面白くない。


それは理解できる。


(でもこれは、明らかに公私混同でしょうに)


そして多分、私とシーヴァ君のやり取りから、私達がこれから一緒に冒険者をやりそうだから、それを阻止するために、敢えてこんな期限ギリギリの依頼を出したのだろう。


私が今後、冒険者として活動できないようにするために。


(何というか……浅はかだなあ。というよりも、冒険者ギルドの職員がこんなことしたらマズいんじゃないの?)


それはシーヴァ君も思ったようで、


「冒険者ギルドの職員が、こんなことをしていいんですか?冒険者登録したばかりの冒険者をダンジョンに潜らせるよう仕向けたり、こんな期限ギリギリの依頼を受注させようとしたり!」


と険しい顔で声を荒げた。


「な、なんでシーヴァさんが怒るんですか?!こんな鈍臭いオバサンのことは放っといてさっさと依頼を受注しちゃいましょうよぉ!」


(ハァッ?!)


まだ30歳にもなっていないのに『オバサン』呼ばわりはカチンとくるが、


(落ち着け、私。大人の対応、大人の対応……)


こんな浅はかな女をまともに相手にするだけ時間の無駄だ。


(ここは冷静に、他の係の人を、できればこの人の上司を呼んで……)


バンッ―――!


突然、カウンターを叩きつける音が室内に響き渡る。


「……今、なんて言った?」


どうやら隣のイケメンに大人の対応は無理だったようだ。


しかも完全に怒ってしまったようで、瞳孔が開き、コメカミにも青い筋がいくつも走っている。


「お前……よくもアヤメさんに向かってそんなフザケたことをッ!」


「シ……シーヴァ、さ……」


セリさんはシーヴァ君の怒気に呑まれてしまい、怯えたように肩を小さく震わせている。


「シ……シーヴァ君、落ち着いて!私は気にしていないから!」


(これ以上騒ぎを起こすのは避けたいッ!)


肩を掴んで落ち着くよう必死に言い聞かせていた時だった。


「確かにそれは聞き捨てならないな」


いきなり後ろから男の人の声が飛び込んできた。


「あ、あなた様は……ッ?!」


セリさんの顔からサーッと血の気が引いていく。


私とシーヴァ君も揃って後ろを振り向いた。


凛々しい声の正体に相応しい、精悍な顔つきの人間の男性だ。


真紅の髪に金色の瞳が非常に鮮やかで、がっしりとした肩幅と引き締まった体には髪色と同じ真紅のマントを羽織っている。


背丈は、シーヴァ君よりも少し高いくらいか。


(え、誰?)


もちろん、そんな失礼なことをバカ正直に言える訳がない。


「ギルド職員ともあろう者が、冒険者にわざわざ無茶な依頼を受けさせようとするなんて、言語道断だろう」


「ギルバード様!わ、私は決して、そんなことッ


「いや俺たちにもバッチリ聞こえていたぞ?」


赤髪の男性の後ろから、もう一人渋い男性の声が聞こえてきた。


「ヴァッ、ヴァルドン様ッ!」


茶色の髪と髭は境界が分からないくらいモジャモジャしている男性だ。


赤髪の男性の胸の高さくらいの背からドワーフだということが分かる。


自分の背丈ほどもある大斧を手に持ち、背中には大きな盾を背負っており、身に纏っている鎧も、見るからに頑丈そうで、何より重そうだ。


「ねえ。本当に感じ悪かったわぁ」


「ええ、聞くに耐えませんでした」


ギルバード、ヴァルドンと呼ばれた男性に応えるように2人の女性も続く。


女性の1人は、黄色のボブヘアの上に黄色の三角耳がピョコンと付いており、魔女を連想させる黒いひざ上のワンピースを着て、お尻からは黄色の太い尻尾が揺れていた。


オレンジ色の瞳が不機嫌そうにセリさんを睨んでいる。


(キツネの獣人……なのかな?)


もう1人は、緑色の長い髪の毛と空色の瞳が神秘的な美しい女性だ。


服装も白い清楚なワンピースの上に凝った刺繍のローブを纏い、先に結晶のようなものを嵌め込んだ長い杖を抱えている。


そして、彼女の耳が長く先が尖っていることから、その種族がエルフだということが分かる。


「ミリス様……ルティナ様もッ……!」


いよいよ具合が悪くなってきたのか、セリさんの顔色が本格的に青くなっている。


彼女がわざわざ『様』付けするくらいだから、相当のVIPなんだろうけど。


「おい……嘘だろ?!」


「ま、まさか……『紅蓮』かッ?!」


「お、俺……初めて見たぜッ!」


周囲の冒険者からも驚きと憧れが混じったざわめきが聞こえてくる。


「『紅蓮』?!まさか、本当にッ?!」


シーヴァ君でさえ怒りを忘れて、ギルバートと呼ばれた男性を凝視する。


(私だけ、驚きを分かち合えない……)


ちょっと疎外感を抱いていると、


「『紅蓮』の皆様、お待ちしておりました!」


カウンターの奥から、セリさんより明らかに役職が上だろう男性の職員さんがやってきた。


「その、何かございましたでしょうか?」


カウンターを挟んだ私達の空気がよろしくないことを悟ったのだろう、そう尋ねてきた。


「こちらのギルドでは、冒険者登録したばかりの新人にダンジョンに潜らせるような依頼を割り当てるのが普通なのか?」


ギルバートと呼ばれた赤髪の男性が職員さんに尋ねた。


「まさか、とんでもありません!新人の冒険者には、まずは近くの森の薬草などの採取依頼を割り当てるのが通例です。そもそも、ダンジョンに潜ることができるのは、Dランク以上なんですから!」


眼鏡をクイッと上げながら答えた。


「なるほど」


ギルバートさんは頷くと、セリさんに顔を向けた。


「ではなぜ、こちらの受付嬢は冒険者登録したばかりのEランク冒険者に、『ヒカリゴケの採取』の依頼書を渡したのだろうな?」


「ッ!」


金色の瞳に見据えられ、セリさんの肩が大きく跳ねる。


「セリ!あなた、またそんなことしてたの?!」


「ミッ……ミトさ、ん……!」


ミト、と呼ばれた女性職員がズンズン私達の方にやってきて、軽く会釈した。


「申し訳ありませんが、依頼書の方を見せていただけないでしょうか?」


「あっ、はい!」


私達が差し出した紙に目を落とし、ついでに私とシーヴァ君をチラッと見て、大きく溜め息を吐いた。


「全く……男性と女性の冒険者で態度を変えるなとあれほど注意したはずよ!しかも、こちらの女性に渡した依頼書……期限が今日のギルド閉所までじゃない!質が悪いにも程があるわ!」


「で、でも……でもぉ……!」


今にも泣きそうな顔で、それでも何とか言い訳を捻り出そうとしているが、


「これ以上あなたをカウンターに立たせる訳にはいかないわ。私がこのお2人の相手をしますから、あなたは奥の部屋で書類棚の整理をして。いいわね?」


「そッそんな……!」


ショックを受けた表情を浮かべるが、


「これ以上レンテ支部の恥を晒さないでちょうだい」


ピシャリと先輩に言われて、これ以上は反論する気が失せたのだろう。


セリさんはトボトボとカウンター奥の扉の向こうに姿を消した。

読んで下さり、ありがとうございます!

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