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ようこそ!異世界ペンション・アイリスへ~ペンションとともに異世界転移したら、いつの間にか伝説のドラゴンを倒していました~  作者: 西園寺紗夜


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16.冒険者登録しよう……のはずだけど

「アヤメさん、お待たせしました!」


お店から出てきたシーヴァ君は、浴衣姿から随分動きやすい服装に着替えていた。


尻尾が生えている獣人用の服らしく、ズボンにはちゃんと尻尾用の穴も開いている。


「似合っているじゃない!誰が見ても立派な冒険者ね!」


大袈裟ではなく本心だ。


「あ、ありがとうございます!でも本当によろしいんですか?アヤメさんのお金なのに……」


照れながらも気遣わしげに確認してきた。


「いいのいいの。必要なものなんだから、気にしないで!」


ヒラヒラ手を振ると、


「ありがとうございます。アヤメさんも、そのローブ、とてもよく似合ってますよ!」


とシーヴァ君も言ってくれた。


「ありがとう。私の普段着はこの世界ではちょっと浮いている感じがするみたいだから。シーヴァ君の浴衣もかなり周りから見られていたしね」


私の普段着はシンプルなブラウスとスキニージーンズという動きやすい格好だが、どうやらその格好だとこの世界では違和感がある。


だから私もゆったりした臙脂色のフードのついたローブを上から羽織ることにしたのだ。


(町の人達の服装を見ても、なんて言うか……世界史の教科書に載っていた中世ヨーロッパの挿絵にそっくりなんだよね)


女性は基本的にゆったりしたワンピースを着て、頭には三角巾やバンダナみたいな物で纏めており、男性は襟なしのシャツの上にベスト、ゆとりのあるズボンの裾を編み上げの靴で絞っている人が多い。


実際、文明レベルもそれに近いのではないかと思う。


自動車やバイクなんてものはもちろん走っておらず、馬や牛が荷台を引いているし。


電線はなく、道路もアスファルトの舗装なんてものはされていない。


石畳で舗装されている所もあるけど、デコボコしているし。


建てられている家も、多くが木造の平屋で、高くてもせいぜい2階建。


レンガ造りの家もチラホラあるけど、前の世界でお馴染みだった鉄筋コンクリートの高層ビルなんてものは姿形もない。


この風景だけを見れば大昔のヨーロッパにタイムスリップしたのではと思うこともできるんだけど、残念ながら世界史の教科書には絶対に載っていなかった種族がこの世界にはいるのだ。


この世界―――エルディアス大陸には4つの種族が社会を築いている。


1つ目は、私のような人間。


まあ、敢えて説明する必要はないだろう。


2つ目は、シーヴァ君のような獣人。


動物の特徴や能力の一部を持つ種族で、オオカミ以外にも、ネコやイヌ、キツネ、タヌキなどなど、受け継ぐ動物も多種多様だ。


3つ目は、ドワーフ。


成長しても他の種族より背が低いが頑強な体つきの種族で、坑道での採掘作業や、そこから採取された鉱物などの鍛治を得意とする。


4つ目は、エルフ。


見た目は人間とそう変わらないが、決定的に違うところは人間よりも長く先が尖った耳を持つ。


また寿命が3種族の中で最も長く、200年は生きることができるらしい。


この4つの種族は大陸にそれぞれの国を形成し、それぞれの種族の王が執政をしているのだが、別に違う種族だからといって他種族の国に住んではいけない決まりもなく、国家間の往来は非常に活発だ。


なぜなら全ての国にはダンジョンが複数存在し、特定の種族しか居住できないとしてしまうと冒険者が集まらなくなってしまい、結果的にその地域の魔物討伐や魔石などの素材収集が滞ってしまうからだ。


そして、各国には冒険者ギルドが必ず設立されており、冒険者は各地のギルドの拠点としながら仕事の依頼を受けたり、ダンジョン探索に勤しんでいるという訳だ。


ちなみに私達が今いるここは、人間の国・アルセリオン王国にあるダンジョンの1つ、《ヒカリゴケの小路》の近くにあるレンテという町だ。


ダンジョンの近くの町だけあって冒険者ギルドがあり、当然冒険者も集まっている。


最も、ダンジョン自体は名前から察せられる通り難易度は易しく、ぶっちゃけ最低ランクのEランク冒険者でも往復できるくらいなんだそうだ。


もちろんダンジョンに入れるのはDランク以上なので、入場したければDランク以上の冒険者の同行が必要だが。


「これ、お釣りと余ったお金です。今のうちにお返ししますね」


シーヴァ君がポケットからお金を取り出した。


「そんな、わざわざいいのに……」


「アヤメさんにはこれまでもたくさん助けて頂いたのに、お金を掠め取るなんて失礼な真似はできません!」


(本当に、しっかりしているわ……)


シーヴァ君の誠実さに感動しつつ、手の平に乗った銅貨と銀貨をマジマジと見つめる。


材質は違えど硬貨に描かれているデザインは同じ横顔だ。


シーヴァ君によれば、この世界を作った天地創造の神の顔らしい。


だけど裏は同じではなく、銅貨には『1G』、銀貨には『100G』と書かれている。


この世界の通貨単位は、G(ゴールド)という。


1Gは銅貨、100Gは銀貨、10000Gは金貨と、硬貨の材質がグレードアップしていくのだ。


それにしても……なぜ、違う世界からやってきて無一文であるはずの私が、こんなお金を持っているのか。


その答えは、宿泊代のお釣り用に保管していたお金までもが、この世界仕様へと変化していたからだ!


(試しに前の世界のお金がどうなっていたのかを確認してみたけど、手持ち金庫の中身が全部硬貨に変わっていたとは思わなかったわ)


しかも1万円札が金貨に変わっていたのだから驚きである。


どうやら、1G=1円換算らしい。


手の平のお金を財布にしまいながら、


「まあ。なにはともあれ、これで身支度も済んだことだし、早速冒険者ギルドに行ってみましょうか」


「はい!」




「ようこそ!冒険者ギルド・レンテ支部へ!」


ギルドに入ると、室内には様々な人種や格好をした人達で賑わっており、奥のカウンターには受付嬢と思しき女性が私達に声をかけてくれた。


(なんか……武器とか、魔法の杖っぽいものを持っていて、鎧とか着ている人もいるし……これが冒険者かぁ!)


気分はすっかりお上りさんである。


シーヴァ君は何度か入ったことはあるのか、慣れた風にカウンターの方へと向かうので私も慌てて着いて行った。


「僕達、冒険者登録をしたいのですが」


とカウンターのお姉さんに声をかけると、


―――ボッ!


途端に頬を赤く染めて、


「は、はい!えぇと……その……ま、まず、お名前と種族を教えていただけますか?」


と非常に歯切れ悪く質問された。


(ああ、そういうこと……)


隣に立つケモミミイケメン男子をチラッと見るが、本人は全く気づいていないようだ。


「僕はシーヴァ。種族はオオカミの獣人です」


と名乗り出ると、


「シーヴァさん……素敵なお名前ですねぇ」


ウットリと夢見る乙女のような瞳を向ける。


当然というか、本人には全く感知されていないが。


(やれやれ、罪な男だねえ)


心の中で同情していると、シーヴァ君に目で促されたので、


「ええと……アヤメです。種族は人間です」


と答えた。


「あっ、はぁ……そうですか」


恐ろしいまでの落差である。


受付嬢さんは手元の何かにサラサラと書いていくと、


「こっちがあなたの、そして……こ・ち・らが!シーヴァさんのカードになります」


ここまで露骨だとむしろ感心してしまうが、少なくともこの人は接客業には向かないだろう。


カウンターの上にぞんざいに突き出された免許証のようなカードを見つめる。


(……日本語でもないのに、なぜか文字が読めることについては考えないでおこう)


これもメイちゃんを倒したことで手に入れた力なのか、はたまたペンションと同じように私も異世界に脅威的に順応しているためなのか。


カードは金属製なのか丈夫な作りになっていて、試しにつついてみると固くひんやりしている。


右側に名前と、その下に種族名が書かれており、左側には中は空欄でマルの形だけが描かれていた。


「無駄に触らないで頂けますか?まだ本登録は済んでいないのでぇ」


「あっ、ごめんなさい!」


慌てて手を引っ込めると、わざとらしく溜め息をつくと、2本の針を出した。


「それではこれから本登録に入ります。このマルの中に血を一滴垂らして頂くと、この冒険者ライセンスはあなただけの物と認識されます!」


『あなた』というところでシーヴァ君を熱い視線を送りながら強調するが、シーヴァ君は完璧にスルーし、


「どうぞ、アヤメさん」


針を私に手渡してくれた。


(スゴく睨みつけられているんだけど……)


負の圧を感じながら針を受け取り、


プツッ―――


人差し指の先を突き刺し、玉のような血をカードの丸い部分につける。


すると、


ピカッ―――!


「えっ?!」


一瞬カードが光り、そしてすぐに収まった。


「これで登録終了です!シーヴァさん、お疲れさまですぅ!」


相変わらず私は居ないものとしてシーヴァ君を全力で労っている。


カードを手にとってマジマジと見つめると、さっきまでは空欄だった丸の中に『E』という文字が書かれている。


「あのぉ、この丸の中に文字が浮き出てきているんですけど」


と質問すると、受付嬢さんは露骨に顔をしかめた。


「今のランクですよ。あなたがそのカードを持たない限り浮き出てきませんので」


(本当に接客に向いていないって。若くて美人だから、カウンターにいるのかもしれないけど)


彼女を見て、OL時代に受付に配属された同期のことを久し振りに思い出してしまった。

読んで下さり、ありがとうございます!

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