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ようこそ!異世界ペンション・アイリスへ~ペンションとともに異世界転移したら、いつの間にか伝説のドラゴンを倒していました~  作者: 西園寺紗夜


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15.天度器

「お風呂、出ました!」


談話室を片付けていると、肩にタオルをかけたシーヴァ君がスッキリした様子で出てきた。


着替えはまだ用意できていないため引き続き浴衣姿だが、湯あがりでさらにしっくりきている。


フロントの奥がスタッフ用のユニットバスや休憩室があり、彼にはそちらを使ってもらったのだ。


正直、こんなダンジョン最下層のペンションに宿泊してくれるようなお客さんがいるとは思えないから、宿泊客用のお風呂を使ってもらっても良かったのかもしれないけど。


シーヴァ君には、申し訳ないけどスタッフ用を使ってもらったのだ。


「使い方、大丈夫だった?」


シャワーや蛇口の使い方は一通り説明したし、シャンプーやボディーソープの区別も教えておいたのだ。


当然だけど、一緒に入るわけにはいかないので。


「はい、大丈夫でした。あんなに温かいお湯で体を洗ったのは本当に久しぶりだったので、とても気持ちよかったです」


とニッコリ笑うけど、境遇が境遇なだけにどこかしんみりしてしまう。


「それにしても、この家にはたくさん魔道具が使われていて本当にスゴイですね!」


「え?別に魔道具なんて置いてないけど?」


キョトンと答えると、


「そんなことありませんよ!お風呂にあった自由にお湯を出したり止めたりできる管もそうですけど。中をずっと冷たいままにしておける棚とか、スイッチを入れると火がつく台とか、勝手に食べ物を温めてくれる箱とか、水を自由に出したり止めたりできる銀色の筒とか!」


「ええと……ひょっとして、キッチンの?」


「はい!」


シーヴァ君は大きく頷いた。


(この世界では、シャワーだけじゃなくて、冷蔵庫やコンロ、オーブンレンジ、蛇口なんかは魔道具扱いになるのか)


最もトリセツ曰く、これらは全て電気や水道の代わりに魔力を動力源にしているらしいので、ある意味魔道具と言えるのかもしれない。


「それに、これも」


シーヴァ君が談話室の方を向いた。


「こんな立派な天度器、お金持ちしか持てませんよ!」


指差したのは、時計からいつの間にか変身していた、例の摩訶不思議な機械だ。


針はいつの間にか月の絵が描かれている下半分まで進んでいて、元の文字盤であれば『4』の辺りを指している。


「て……テンドキ?」


「ひょっとして、アヤメさんの世界では違う呼び方をしているんですか?僕達はこの魔道具を『天度器』と呼んでいるんです」


なるほど、これは『テンドキ』というものなのか。


後でトリセツに漢字に起こししてもらうとして。


「あの、シーヴァ君。念の為、この世界ではこの機械をどういう風に使っているのかを教えてくれる?」


本当なら、そんな回りくどい言い方じゃなくて、


『テンドキって、何?』


と素直に聞きたい所だ。


だけど、正体不明なのに当たり前のように壁に掛けていることを突っ込まれそうで、何となく気が引ける。


ありがたいことにシーヴァ君は特に気にすることなく素直に頷き、


「天度器はですね。太陽と月の魔力を感知して、それらの位置を角度で示した魔道具なんです」


と説明してくれた。


「この世界では太陽と月の位置で時間を確認するんですけど、曇りや雨だったりすると太陽が見えませんし、それこそダンジョンの中だと外の様子が分かりませんから、昼か夜かも分からなくなってしまうんです」


今まさにペンションがその状況だ。


「だけどこの魔道具を見れば、針が指す位置で太陽と月の位置を確かめることができるんです」


シーヴァ君は道具の要所要所を指差していく。


「太陽の絵が描いてある上半分が昼、月が描いてある下半分が夜です。今、針は下半分にあるので夜、月の角度を示しています。針は45度の手前を指しているので、『夜40度』くらいでしょうか」


「『夜40度』?」


「はい。『夜40』とか略して言うことが多いですね」


シーヴァ君は続けた。


「この魔道具の便利なところは、太陽や月の位置が分かるだけじゃなく、みんなが時間を一目で分かり合えることなんです。例えば……」


スッと上半分の『90』と書かれた数字を指差す。


本来の時計なら『12』と書かれていた場所だ。


「太陽が空の一番高い所にきた場合は『昼90』ですが、わざわざ外に出て太陽を確認しなくても、この時間にみんなで休憩したりすることができるんです。『昼135に待ち合わせ』とか、そういう約束もできます」


だんだんこの道具の仕組みが分かってきた。


そうすると、『9』の代わりに書かれている上半分だけの半円、『3』の数字の代わりに書かれている下半分だけの半円の意味も推測できる。


「じゃあ、この2つの図形は……夜明けと日没を示しているってこと?」


「はい!ちなみに、夜明けは『昼0』、日没は『昼180』と言うことが多いです。アヤメさんの世界でもそこは同じなんですね」


(いや、全然違いますけど)


前の世界の時計とは似ても似つかない。


だけど、私にもようやく理解できた。


(これって、太陽や月の魔力で動く日時計みたいなものなんだ!)


前の世界でも、大昔は太陽が作る影の長さや傾きなんかで時間を把握していた。


このテンドキは、影の代わりに魔力を利用して、しかも太陽や月の角度で時間を把握することができるのだ。


(例えば『昼45度』だと……正午、午後12時が90度だから、0度は午前6時くらい?そうすると……『昼45度』は、午前9時くらい、ということになる!)


同じように、『昼135度』は午後3時頃、『夜90度』は深夜0時、という具合だ。


(いやあ、所変われば時間表示も変わるっていうことかあ。まさに、カルチャーショックだ)


密かに衝撃を受けていると、


「それにしても、昼と夜両方使える天度器を持っているなんて、アヤメさんは本当にスゴいですね!」


とシーヴァ君が感嘆したので、


「それって、スゴいの?」


と、とぼけて返すと、


「当たり前ですよ!お金持ちか貴族しか持てないくらいとても高価な物なんですから!」


と驚いた顔をされてしまった。


「えっと……そうすると、一般庶民は持てないの?その、テンドキ」


たじろぎながら質問すると、首を横に振った。


「平民が持っているのは、太陽だけの魔力を感知する昼だけの天度器がほとんどです。それであれば頑張れば何とか手が届くそうですし、昼の時間が分かった方がずっと便利ですから」


確かに、昼間に仕事をする人の方が圧倒的に多いだろうし、値段のことも考えれば、昼だけのテンドキの方が使い勝手がいいだろう。


「あ、でも……そうか。アヤメさんの世界では、これを持っているのがきっと当たり前なんですね」


私が弁解する前にシーヴァ君は一人で勝手に納得していた。


きっと彼の中で『神様の世界は昼と夜のテンドキを持っていて当たり前なんだ』という結論を下したのだろう。


(まあ、今回はそういうことにしてもらおう。ある意味その通りだし)


むしろ昼間しか時間が分からない時計なんて、日本で持っている人、いるんだろうか。


改めて、時計から変身したテンドキを見上げる。


(見方さえ分かってしまえば、この魔道具はとても便利だ。特に、地下100階層にあるペンションにとっては、地上の様子を把握する唯一の手段と言ってもいい)


これを見れば地上が昼なのか夜なのかが分かるから、間違えることなく昼間のうちに地上に出ることが出来るわけだ。


「冒険者ギルドはどのくらいで開くの?」


と尋ねると、


「昼45ですね。冒険者ギルドにも両方対応の天度器がありますから、時間に正確なんです」


(だいたい午前9時くらいか)


「他のお店もだいたいそのくらいで開けるところが多いですよ」


とも補足してくれた。


「中にはとっても時間に細かい人もいるみたいですよ。『昼63に待ち合わせしよう』とか。そこまで細かくなんて見れませんよね」


シーヴァ君はきっと冗談のつもりで言ったのだろうけど、分刻み、下手すると秒刻みで忙殺される現代社会を生きてきた私にとっては、


(それで時間に細かいなんて……異世界、大らかだなあ)


と思うことしかできなかった。


ちなみにこの後、トリセツにテンドキが『天度器』だということを教えてもらった。


なるほど。


『天を測る分度器』


とは、言い得て妙だ。

読んで下さり、ありがとうございます!

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