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ようこそ!異世界ペンション・アイリスへ~ペンションとともに異世界転移したら、いつの間にか伝説のドラゴンを倒していました~  作者: 西園寺紗夜


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10/15

10.ショートブレイク、そして、いざ地上へ

すっかりだんまりになった黒猫に、


「お前、アヤメさんやこの家のおかげでこうして存在できているのに、ボロ小屋だとか小娘だとかよく偉そうに言えたな」


シーヴァ君が呆れたように見つめた。


「う、うるさい……!」


減らず口は変わらないものの、すっかり覇気がなくなってしまった。


(シーヴァ君を殺そうとしたのはもちろんダメだけど……正直私は自分の意志でドラゴンを倒した訳じゃないから、特に何も思うところがないというか。むしろ、私が問答無用で殺しちゃったようなものだから、なんか罪悪感があるんだよね。それに……)


未だ宙ぶらりんになっている黒猫をジッと見つめ、


「あの、シーヴァ君」


「何ですか?」


「もし、この冥皇龍さんをこのまま住まわせるってなったら……シーヴァ君は嫌だよね?」


「「ッ?!」」


これには当の本人も意外だったようで、2人揃って目を丸くした。


「シーヴァ君にしてみれば、自分を殺そうとした相手が一緒にいるのは嫌だろうけど……冥皇龍さんは相応の罰を受けていると思うのよ」


改めて、黒猫のぬいぐるみと化した、かつてのドラゴンを見つめる。


「本当の姿は知らないけど、以前のような大きなドラゴンではなくなったし、無闇に偉ぶっても私達には何の効果もなくなった。これが君を殺そうとした罰なんだと思う。これ以上は、もういいんじゃないかなって」


「アヤメさん……」


シーヴァ君にマジマジと見つめられ、黒猫はどこか居心地が悪そうだ。


「小娘……貴様、我を憐れんでいるつもりか?」


冥皇龍さんはいじけたように私を見上げるが、


「いや憐れんでいるんじゃなくて、完全に自分のためかな」


と否定した。


「あなたが依代にしているそのぬいぐるみ、もう10年くらい一緒に過ごしてきた相棒みたいなものなの。事情はどうであれ、長年の相棒がこうして本当に動いて、しかも話しかけてくれるなんて、まるで夢みたいなのよ。だから私としては、自由に動く相棒とこのまま仲良くしていきたいなぁって」


出会いはゲーセンのクレーンゲームだったとはいえ、このぬいぐるみは、私のペンション経営の夢を、一番傍でずっと見守ってくれたのだ。


挫けそうになったとき、この物言わぬ相棒に何度弱音を吐き、そして寄り添ってもらったことか。


その相棒が、宿敵(と言うほどの因縁もないけど)をこうして受け入れたということなら、私もそれを受け入れたいなと、そう思ってしまうのだ。


シーヴァ君はフッと肩の力を抜くと、


「……僕はアヤメさんに救われた身です。それに、冥皇龍はすでにアヤメさんの手で倒されているのですから、僕もそれ以上責めたりするつもりはありません。もちろん、コイツがアヤメさんに危害を加えるような真似をすれば容赦しませんが、そうでないのであれば、アヤメさんの望むことに従います」


黒猫をゆっくりと床に下ろした。


「お前、アヤメさんの寛大なご慈悲に心から感謝しろよ!」


と釘を刺すが、


「ふんっ、知ったことか」


相変わらず太々しい態度を崩さないところは流石と言うべきか。


そのまま第2ラウンドが勃発されそうになったので、


「ま、まあまあ!ところでシーヴァ君も、急に大きくなったりしたから少し疲れたんじゃない?休憩がてらお茶でも飲もうよ!お菓子もあるから!」


と慌てて仲裁に入った。


「お菓子ッ?!」


猫と睨み合うのをやめ、シーヴァ君が敏感に反応した。


(体は大人になっても、心はまだ少年なんだね)


クスッと笑うと、


「ちょっと待ってて、持ってくるから。あ、ケンカ始めないでよ?」


急いでキッチンに行き、シーヴァ君が寝ている時に作っておいた物をお皿に盛り付け、ポットにお茶っ葉と電気ケトルで沸かしておいたお湯を入れた。


お盆を持って談話室に戻ると、お世辞にも仲の良い雰囲気ではなかったけど、とりあえずケンカは始まっていなかった。


「お待たせ!」


談話室のテーブルの上に、お皿と、ティーカップを2個置いた。


「冥皇龍さんは、ミルクでいい?」


ミルクを入れた底が深いお皿もテーブルに置く。


「ふん、気が利くではないか」


その言葉にシーヴァ君がまた声を上げようとしたが、


「ほら、シーヴァ君も食べて!」


大粒のチョコチップクッキーが乗ったお皿をずいっと目の前に近づけると、


「ッいただきます!」


目を輝かせて、早速1枚手に取った。


一口齧り、


「ッ!!」


頭の耳がピンと立つ。


「どう?」


一応聞いてみるけど、喋るのも惜しいくらい夢中で口に頬張る様子を見れば答えはわかる。


尻尾も嬉しそうに振られているし。


「冥皇龍さんはこういうの食べて大丈夫そう?猫にはお菓子あげちゃいけないんだけど」


試しに1枚差し出してみると、


「我を他の猫と同じように考えるでないわ!」


大口を叩く割には、鼻先でフンフン臭いを嗅いでから慎重に端っこを齧っている。


「ッ?!」


悪い目つきが一瞬大きく丸く開かれると、


「よ、寄越せッ!」


と前脚でクッキーを取り上げると、こちらも一心不乱に食べ始めた。


(よく器用に持って食べることができるな、指がないのに)


感心しながら私も1枚齧る。


表面はサクサクしていても中はシットリしていて、我ながらなかなか上手く焼くことができた。


「あ、あのッ、アヤメさん!もう1枚食べてもいいですかッ?!」


「シーヴァ君、もう食べ終わったの?!」


(これ、アメリカンクッキーだから、サイズ大きめなのに!)


すると、途端に顔が真っ赤になり、


「す、すみません、がっついてしまって!その……甘い物なんて食べさせてもらえなかったから……とっても美味しく、て……」


最後は恥ずかしくなったのか、モゴモゴと言葉にならなかった。


そして、そんな切ないことを言われてしまえば、ダメだなんてもちろん言えるわけもなく、


「いいんだよ、シーヴァ君!まだあるんだから、遠慮せずに食べて!」


とさらにクッキーのお皿を押し出した。


「なんじゃと!小童の癖に独り占めしようなど、生意気な!」


どうやら、冥皇龍さんもクッキーをいたく気に入ってくれたらしく、気がついたら1枚平らげていた。


「今まで食べた魔物の肉や内蔵より遥かに旨いわ!小娘、誉めて遣わしてやろう!」


(魔物の、肉……何の味付けもされてないだろうから、まあ当然なんじゃ……いや、でも)


黒猫にももう1枚渡しながら、


「魔物の肉って、どんな味なの?」


興味本位で聞いてみた。


この世界は明らかに私がいた世界とは違うから、ひょっとしたら、魔物の肉にはあらかじめ味がついているのでは、と思ったのだ。


(無難に塩味とか……種類によって、カレー味とか味噌味とかついてたりして?)


「全て血の味じゃな。内臓は生臭いの」


呆気なく期待は裏切られたのだった。


(まあ、うん……このクッキーが血の味よりマズかったら、ペンション経営は潔く諦めてただろうな)


ついでに自分の味覚も信じられなくなっただろう。


「そう言えば……冥皇龍さんには名前はないの?」


すると、2枚目のクッキーにもかぶりついた黒猫は、


「名前などというものは、下等な有象無象に必要な物であって、我のような唯一無二の存在には必要ないのだ」


と、偉そうに宣った。


そんな口の周りにクッキーのカスをたくさんつけながら言われても、全く威厳がないのだけど。


(名前、ないのか……)


ちなみに、ぬいぐるみにも名前は付いていない。


別につけなくてもいつでもそばにいてくれたし、私にはそもそもぬいぐるみに名前をつける習慣がない。


「それじゃあ……『メイ』はどう?」


「何がじゃ?」


「いや、あなたの名前だけど」


一瞬呆けた顔をしたと思ったら、


「なんじゃ、そのふざけた名前はッ!」


シャーっと全身の毛を逆立てた。


「だって、このまま『冥皇龍』だなんて呼び続けて、誰かに聞かれたりしたら説明がすごく面倒なことになりそうじゃない。だから、『冥皇龍』の『メイ』」


「僕はいいと思いますよ。とても分かりやすくて」


2枚目のクッキーは落ち着いて味わっていられるようで、シーヴァ君も私の話に乗ってきた。


「貴様の意見など聞いておらぬわ、小僧!」


2枚目を完食しながら文句も言えるとは、流石というべきか。


「まあまあ、ちょっとは検討してみてよ。はい、お代わりどうぞ」


3枚目も差し出すと、ジトッとクッキーを見つめ、


「……フンッ、勝手にしろ!」


クッキーを素早く掠め取り、そのまま黙々と食べ続けた。


(案外チョロいな、この元ドラゴン)




さて、おやつタイムも終わり、改めて私とシーヴァ君はペンションの玄関扉の前に立っていた。


「シーヴァ君……準備はいい?」


「はい!」


シーヴァ君の急成長とメイちゃんの登場ですっかり置き去りにされていたけど、ようやく彼を【キー・ホルダー(スペアキーの管理者)】に任命した本当の目的を果たすときがきたのだ。


ちなみに、メイちゃんは『地上なんぞ興味ないわ』とソファーで寛ぐことにしたようだ。


まずは、私達が安全に地上に出ることができるか確認してからの方がいいだろう。


「行き先はどうするの?」


「ここに迷い込む前にいたダンジョン、《ヒカリゴケの小路》の入り口にしようと思います。ダンジョンの近くには町もありますから」


《終焉の奈落》よりは大分可愛らしい名前だ。


「うーん……入り口のすぐ近くに別の入り口がいきなり現れたら大騒ぎになるんじゃない?もう少し、人目を隠せそうな所は思いつく?」


要は、『どこでも◯ア』が急に現れても驚かれないような場所だ。


「そうですね……確か、ダンジョンの近くに森があったんです。そこはどうでしょうか?」


「いいね、そうしよう!」


後は、シーヴァ君がドアを開けてくれれば、ドアが私達を導いてくれる……はず!


「では……行きます!」


緊張した面持ちで、シーヴァ君がゆっくりドアノブを押していった。

読んで下さり、ありがとうございます!

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