祝いし夜の笑み
「ねぇ!あの方々、とてもお美しいわ」
「本当、美男美女ですこと」
ロキとキャロライナの婚約パーティー当日。
城内には沢山の人が集まっていた。
皆、キャロライナと縁のある者達。
綺羅びやかなドレスが映えている。
その中でも特に人目を惹いていたのは、団長とエフレシアだ。
団長は元からの美人なのでダークブルーのスーツも着こなし、エスコートも完璧だ。
その彼に劣らず、元の姿を取り戻したエフレシアにも視線が注がれていた。
キャロライナは恐らく赤系のドレスを纏うだろうと予想して、エフレシアは淡いミストグリーンのドレスを選択した。
もしものバトルに備えてジュエリー系は付けたくなかったのだが、ピアス位なら目立たないだろうと翡翠のタッセルピアスを飾った。端整な顔立ちなのでメイクもナチュラルにしていたのに、やはり団長と一緒だと目立つんだなと改めて実感してしまう。
「足は痛くないか?」
「大丈夫です」
ヒールでダンスの猛特訓をしたのでその経験が活かされ、足に異常は無い。歩き方も身体が覚えていた。
「流石、団長さんです。皆、見惚れてますよ」
「そうだね。でもそれは、私だけじゃない。エフレシアにも、羨望の眼差しが向けられている」
「……そう、ですか?」
「もっと自信を持って良い。フィンの方が余程、主人公らしいよ」
団長の護衛という体で、フィン、ククル、ルフラも同行していた。
ククルとルフラの格好は団長と似たようなものだが、フィンは別格だ。
紫色のレース生地のロングワンピースに白銀の長い髪が映えている。女性と見間違えてもおかしくない位、上品さと美貌を兼ね揃えていた。
「流石、天使族」
「姫ちゃんの方がとても綺麗よ」
「……ありがと」
話し方も丁寧だから品行方正と尊ばれてもそれは正解だ。
エフレシアは見習わなければならない。
「ロキ様とキャロライナ様よ!」
主賓の登場は後ろの扉からだった。
白のタキシード姿で現れたロキと、薔薇の装飾が施されたワインレッドのドレスを着こなしているキャロライナ嬢。
やはり赤で来たか、とエフレシアは感心する。
まるで彼女の性格を表しているかのようだ。
堂々としているキャロライナに引けを取らず、穏やかに微笑んでいるロキを見て、彼の覚悟を確信してしまう。
戻る気は無い。それは、エフレシア達を敵に回してでも貫き通す頑固さだ。
「あら!シュヴァルツ王国の騎士団長様ではありませんか。本日は来て下さって嬉しいですわ」
先に気付いたキャロライナが近付いて来た。
露出されているデコルテ部分がキラキラとしていて、ボリューム満点の豊胸にはつい目が行ってしまう。
黙っていればお上品で高嶺の花でありそうな姿なのに、性格を知っている分、残念で仕方ない。
「ご機嫌麗しゅう、キャロライナ姫。この度は御招待頂き、有難う御座います」
団長に倣ってエフレシアも会釈する。
「お連れの方は?」
キャロライナと目が合ってもエフレシアだとは気付いていない。ロキも何の反応も示さず、彼女の行動を見守っている。
「先月から親しくしている隣国の姫君です」
「エレン、と申します。キャロライナ様」
学祭でも使っていたこの名をまた再利用するとは。
それらしく挨拶すると様子を窺っていた周りの者達は彼女の可憐さに囁き合う。
「まぁ、可愛らしい方ですね。しかし、団長様にはあの婚約者がいた筈ですけれど……」
「あぁ。エフレシアは体調を崩してしまってね。私一人では華がないと、エレンに付き合って貰ったんだ」
「そうでしたの。賢明なご判断ですわ。あんな武器量な子はこの場に相応しくありませんもの」
嘲るような言い方はわざとっぽい。
自分が一番美しいと自惚れている姫君だ。
それなりに美しく、姫という品を持ち併せている女としかまともに話さない。
「キャロライナ様はいつもお綺麗ですよ」
「あら……。流石は団長様ですね。私の隣に居ても品が損なわれませんわ」
「お褒め頂き光栄です」
「今日は楽しんでいって下さいね。エレン様も」
一言も交わす事なく無事にやり過ごす事が出来た。
気付いていないというより、最早眼中に無いのだ。
それは好機であって行動しやすい。
「どうだ?ロキの様子は」
「いつも通りだと思います」
それよりエフレシアは各テーブルに置かれている食事に意識を奪われてしまい、手を伸ばしそうな勢いだった。
「食べても大丈夫なのか?」
「はい。以前も頂きましたけど、とても美味しかったですよ。こんな祝いの席で毒殺なんてやる莫迦は居ないでしょうし」
「……確かに」
「お腹を満たしても良いですか?」
「あぁ。沢山食べて帰ろう」
よっしゃあ!と心の中で喜びながらエフレシアは一口サイズのサンドイッチを口にした。
やはり味は一級品だ。その隣にあった総菜も美味で食欲が唆られる。
「おぉ。これも美味しいぞ、エフレシア」
「あ。マカロンもあったんですね」
しょっぱいものから甘い物を食べると幸福感に満たされる。
他の姫達も手を付けていたので遠慮する必要は無かった。
「美味しい……!」
「ねぇ?」
食事に夢中になっていると後ろからフィンに不審がられてしまった。
「何しにきたの?」
「……やべっ。つい、美味しくて……」
「私もつられてしまった……。すまない……」
「……まぁ、戦前の腹拵えは必要だけど……」
「フィンも食べてみて。美味しいよ」
「……そんなに?」
「うん」
エフレシアに勧められ、フィンもその味を確かめる。
口の中で溶けた甘さに身体が高揚した。
「何のお菓子?」
「チョコレイトだよ。オトナ向けだから中にリキュールが入ってるみたい」
「あら……癖になる味ね」
「こっちはシャンパンの味がするよ」
「……ん!ほんと、お酒なのにチョコの味だわ……」
「フィンはこういうの好き?」
「……そう、ね……」
ふらついたフィンをククルが支える。
頬を赤らめて妖艶さを増しているフィンの色気に近くにいた人々がときめいている。
男女関係無く襲われても文句は言えない、それ程までに漂うセクシーさに惹かれてしまっても致し方ない事だ。
「酔った?」
「……少し……」
「身体が熱い。座って休んだ方が良い」
側にあった椅子にフィンを座らせ、熱が引くのを待つ。
「フレアは無事?」
「大丈夫だよ、ククル。天使には刺激が強かったかな……」
試しにククルもリキュール入りのチョコを口にした。
何とも言えない感触に鳥肌が立ってしまった。
「………フレア。これ、媚薬入りだよ」
「えっ」
「人間には効力は薄いみたいだけど、違う種族には刺激が強いやつかもね」
「……そうなんだ……。ごめん、フィン。食べさせちゃった……」
「二粒くらいならすぐ治まると思うけど」
「……ごめんなさい……」
「これは狙っての事か」
団長は愉しげに挨拶回りをしているキャロライナを見ながら呟いた。
招待状を送っている分、誰が来るかも解っての事だろう。
彼女側に付いている天使族が助言したんだろうか。
「なんだ、フィン。そんなんで倒れたのか?」
不意に介入してきた声に皆が振り向く。
見覚えのある彼は、この国に居る天使族だ。
「駄目ね……ふらふらするわ……」
「あぁ、そのチョコ食べたんだ?結構刺激強いだろ。オレも拷問された時に食らって吐いた」
「……拷問……?」
「捕まった当初な。姫に鞭打ちされて、食事はこのチョコだけだ。痛みと快楽に締め付けられて散々だったぜ」
「キミは何故、あの姫に従っているんだ」
親しげに話すイヴに団長が聞く。
「拷問に降ったんだよ。幾ら頑丈とは言え、辛いのは耐え切れない。大人しくしてれば甘やかしてくれるし」
「他の天使族を敵に回しても?」
「まぁ……天界に居た時は手合わせとかしてたし、敵って感覚もないかな」
「そのまま欺く事も出来ただろう?」
「……裏切る時は盛大にってね。今はまだその時じゃないんだわ。それに、此処は居心地が良い」
「……そうか」
「他の天使族の情報は得たりしてるの?」
今度はエフレシアから聞かれ、イヴは視線を向ける。
学祭で会った時は一瞬でその上今は姿も違う。エフレシアだとバレる可能性は低いが、何の反応も示さないのも怖い。
「……それを目当てにしてたんだけどな。何にも入ってこないけど……あぁ、そういやどっかの帝国?が天使狩りの時に天使族の大半を連れて行ったとか王様が話してたな」
「……なら……メヴィウスも……?」
「それは不確かだ、フィン。名前は上がってない」
「……でも……もうずっと会えないなんて嫌よ……」
媚薬の所為もあるのか、いつもより弱気な声色でフィンは泣き出してしまった。
「解るならオレだって知りたい。でも、もう天界に居た時みたいには戻らないんだよ。人間を知って変わった仲間もいるだろ……?会える事より、その天使達が逆襲しないかが不安だ。現に今だってお前らの仲間が囚われてる」
「……えっ……?」
「ティタがオレを殴ってきた。理由は策略の内だって誤魔化されたけど。城から少し離れた蔵に、ティタは監禁されてる。今朝から姫さんの鞭打ち食らってるから早めに助けに行ってあげなよ」
「ティタが……」
「助けに行ったら怪しまれるだろう?」
「その間にロキを何処かに隠すつもりかもよ」
「……挑発か?」
「アドバイスだよ。とりあえず報告はしたから、後はお前ら次第だ」
「イヴ!」
大声で名を呼ばれ、彼はビクッと肩を揺らした。
「……ルーク……」
「お喋りしてないで、キャロライナ様の護衛して」
「……了解」
まだ居たかったのか、イヴは渋々姫様達の元へと戻っていった。
ルークは静かにエフレシア達を睨む。
「まんまと招待されて来ちゃってさぁ。恥とか知らないの?」
「招待してきたのは姫様だろう?」
答えそうになるエフレシアを制してククルが前に出た。
「だからって、ロキを連れ戻しに来たって魂胆が見え見えなんだよ」
「仲間を攫っておいてよく言うよ」
「……お前がククルか?」
「そうだけど」
「おれと手合わせしない?強い奴には興味があるんだ」
「そのメリットは?」
「囚われの天使族を賭けようか?お前が勝ったら連れて帰ればいい」
「……負けたら?」
「皆殺しだ。ロキがお前らを手引きしたって理由でな」
「それはロキも含むの?」
「あぁ。元より彼奴からの命令だ」
「……ロキが?」
「折角来たのに、ただの無駄骨になっちゃうよ。ロキはもうそちらに帰る気は無いって」
やはり覚悟を決めていたか、と思った。
そういう人間だ。自分を犠牲にすればいいと考えている。
仲間との絆を断ち切ってでも、平穏を優先する。
それは昔から変わらない。
「だったら、貴方とククルが手合わせする意味も無いんじゃない?」
エフレシアが静かに言うとルークは初見の反応を見せた。
一発で気付く人間の方がレアだ。
「ただの一興だよ。っていうか、キミ誰?」
「私の友人だよ」
団長が代わりに答える。
「……あんたが団長か」
「お見知りおきを」
「……あまりキャロライナ様を怒らせないでね。今日はエフレシアが居ないみたいだからご機嫌だけど、気に入らないとすぐにブチ切れるからさ」
やる気を削がれたのか、ルークは力の無い声色で告げた。
「ロキはそんな女に一生を捧ぐの?」
「そうだよ。婚約破棄を撤回して欲しいって頼み込んで姫様の足まで舐めて懇願してた。夜は随分と愉しんだ様子だったし。姫様はロキにベタ惚れだから手放すことは無い」
「……貴方は?」
「なに?」
「……ルークは、あの二人の幸せを望むの?」
「それがおれの立ち位置だ。線は越えない。ずっと側で見守ってこの身を賭してでも守り抜く。姫様の為に死ねるなら本望だろう?」
彼も覚悟を決めている。
以前から慕っている姫様を安々と裏切れる様な性格では無い。
その想いを知ってもエフレシアは動揺しなかった。
今は団長の婚約者だ。もうルークには何の想いも持たない。
「さっきの話は本当?」
「どの話?」
「ティタが拘束されたって……」
「あぁ。莫迦だよなぁ……。姫様に逆らったら拷問行きだ。鞭打ちって言ってもただの鞭じゃない。対天使族用に特注した特別な鞭だ。天使族ってのは自然治癒が備わってるんだってね。でもその鞭で叩かれたら治りは遅いし痛みは倍だし血も止まらなくなる。拷問には最適な武器だ」
意外にもさらさらと教えてくれるルークに心の中で感謝する。
暴露した所で助けられないだろうと見下しているんだろう。
「ロキもティタも連れて帰る。その為に此処に来たんだ」
ククルがハッキリと目的を晒す。
「やれるもんなら。たったそれだけの人数で無事に帰れると思わない方が良い」
「ご忠告どうも」
「……精々、楽しんでいきなよ」
ルークはキャロライナ達の方へと歩いていった。
久しぶりに会った彼は少しばかり背が伸びていた。
顔つきも青年らしく整ってきている。
一介の騎士でなければ、キャロライナの隣に並んでも上等な位だ。
「……さて、どうしようか」
「暫く様子見でしょうか……?フィンもこの状態ですし……」
「そうだな……」
「ティタの救出は行けそうですか?」
「……いや……下手に動かない方が良いかも知れないな」
団長とエフレシアが相談しているのを他所にルフラはキャロライナの動向を窺っていた。
姿は変わっていないのに、気付いていないのだろうか。
それとも、ロキに夢中で眼中に無いとか。
他国の姫達と愉しそうに談笑している所を見ると、普通の女の子だ。あれが素直で純粋だったなら、もっと友人は作れただろう。
「よくあんな表情出来るわよね」
エフレシア達の近くにいた姫達が小さな声で囁いた。
「他国を買収しておいて、こんな大層な式まで挙げるなんて」
「調子に乗ってるわ」
「あの子に滅ぼされた国も沢山あるのでしょう?どうして暗殺されないのかしら」
「この国に入った時点で暗殺なんて真似したら極刑よ。キャロライナ様には最強の護衛が付いているんだもの」
「だからって好き放題させていいの?」
「陛下だって黙認してるのに誰が止められるのよ」
キャロライナが聞いていたら真っ先に首が飛ぶ話だ。
どうやら彼女に対して不信感を抱いている者は多いらしい。
けれど所詮は陰口に過ぎず、彼女達の声はキャロライナには届かない。逆らう者が居ないからキャロライナは己の傲慢さに気付かず、当たり前の幸せに身を委ねている。
「それでは皆様。ダンスホールへ移動して下さい」
超ご機嫌なご様子でキャロライナが誘導を促した。
これからダンスパーティーでも始まるのか。
招待客達も何が起こるのか解らず、言われたままに移動を開始する。
「まだお肉全部食べてない……」
「帰城したら良い肉を沢山食べよう」
料理に未練があったエフレシアを宥めながら団長がエスコートしていく。
フィンはククルに支えられながら覚束ない足取りだった。
だから、隣の人と肩が触れてしまった。
「あ、ごめんなさい!」
「いえ、こちらこそすみません」
ククルが代わりに謝罪する。
相手は可愛らしい女の子だった。
薄ピンクのドレスを纏い、誰かと腕を組んでいる。
顔を見てもククルには面識の無い人だった。
「お連れの方、大丈夫ですか?」
「あぁ……その内、治ると思うので」
ご心配無く、と言いかけたククルに女の子は小さなビンを渡してきた。
「解毒剤……あれ?解毒剤で良いんだっけ?」
出来れば腕を組んでいる人に確認する前に渡してほしい。
その人が頷いたので女の子は安堵の表情を浮かべた。
「天使族の子でしょう?あ、口外しないから大丈夫よ。あたし達も経験あるから常に解毒剤持ってるんだ。だから、お裾分け」
「……本当に?見ず知らずのオレらによく渡せるね」
「知ってるよ。さっき、楽しそうにご飯食べてたから良い人達なんだろうなって」
「それだけで?」
「うん。出されたものを警戒も無く食べるのって怖い事だから。それを何の疑いも無く美味しそうに食べてるの見たら悪い人達じゃないなって思った」
嘘を言っている様には見えなかった。
「数分で効くから飲ませてあげて。効果は抜群なの」
「……有難う」
女の子は満足気に微笑んで先を進んでいった。
ククルはビンの蓋を開け、匂いを確認する。
無臭だった。だからといって信用には足らない。
けれど、このままの状態で介助に回るのはちょっとしんどい。
天使族は人間よりは頑丈で自然治癒も備わっている。
解毒剤が合わなかったら自身の身体で対処するだろう。
その考えを信じてククルはフィンに解毒剤を飲ませた。
「……ククル……?」
数分後、フィンの顔色は良くなっていた。
意識もしっかりしてきている様で、真っ直ぐに立てている。
「具合は?」
「……大丈夫よ。抜けたみたい」
「そう。なら、後でお礼しなきゃね」
「……お礼?」
「助けてくれた人がいたから」
「あら……。親切な方もいるのね」
「歩ける?」
「えぇ。ありがとう、ククル」
いつも通りのフィンにククルもほっと胸を撫で下ろした。
「姫ちゃん達は?」
「先に行ったよ」
「あら……。ごめんなさい、ククル。私に付き合わせちゃったわね」
「フィンは綺麗なんだから、一人にさせたくないよ」
「……えっ」
「何か始まるみたいだからオレらも行くよ」
「……そう、ね」
差し伸べられた手を取り、二人もダンスホールへと向かった。
広いスペースに招待客達が集ってもまだまだ広い余白が目に付く頃、何やら大きな箱型のものが運ばれてきた。全体を黒い布で覆っているので中が分からない。
「御足労頂き感謝致しますわ。これからパーティーを始めましょう」
上機嫌でにこやかに言い放つキャロライナに皆が注目している。
エフレシア達も少し離れた位置で様子を窺っていた。
そして。
「ご覧遊ばせ」
キャロライナは勢い良く黒い布を捲った。
露われたのは、黒い檻だった。
その中に居たのは、檻の壁に大の字に磔にされたティタの姿。
短い悲鳴が上がる。
声を出さずにはいられない、それぐらいの痛々しい傷跡。
着物がズタズタになるくらい、鞭打ちされたんだろう。
布から見え隠れしている素肌は紅く染まって鞭打ちの痕がくっきりと残っている。辛うじて無傷なのはその綺麗なお顔だけだ。キャロライナの悪趣味さが滲み出ている。
「この者は天使族。私達に楯突いた結果がこのザマよ。まぁ、自力で治せるみたいだから放置しておいても心配いりませんわ」
耳に障る高い声が苛立ちと怒りを生んだ。
彼女の行動にロキは平然としている。
「私達が開発した対天使族用の鞭です。これで拷問されたら幾ら天使族といえど多少は辛いでしょう。ただ薄っぺらい祝福よりも、刺激があった方が愉しめますわ。今から、この鞭の精度をお伝えしましょう」
キャロライナが合図すると、檻はパカッと開き、壁に磔にされたティタが多くの者達の目に曝された。
悲鳴よりもざわつきの方が増し、嫌悪感が漂っている。
バシンっ、と今まで聞いた事のない激しい音がダンスホールに響いた。
ティタは小さく呻いただけで反応は薄い。
それが気に食わなかったのか、キャロライナは何かをティタに飲ませた。
そしてもう一度、鞭を振り下ろした。
「……っ、あぁああぁあぁあ……!」
卑しい喘ぎ声が響き渡った。
身体を震わせ、涎を垂らし、媚びるような視線が観客達を一瞥した。
瞬間、どきっと胸が高鳴る。
天使族の端整な顔立ちが、快楽に悶えている表情なんて男女問わずに毒だ。
「良い子ね。もう一発、その淫靡な表情を見せてあげましょうね」
「……や、め……」
バシンっ、と先程と同様、鞭がしなり、艷やかな声が響く。
招待客達は惹かれる様に魅入っている。
「止めた方が良いか……?」
「いえ。もう少し、様子を」
「ティタ……」
仲間の酷い姿にフィンはただ拳を握り締める事しか出来なかった。
「あら。手が汚れてしまいましたわ」
「キャロライナ」
彼女にハンカチを渡しながらロキは鞭を預かった。
「さて。今宵は祝いの宴席。この一興も楽しめましたでしょう?」
「そうだな」
答えた声に反応したのと同時に、激しい痛みと痺れがキャロライナを襲った。




