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終局

「この学園に脅迫状を送ったのも、3年の女子を焚き付けてエフレシアを監禁したのも、全部オレがやったこと。一度問題が起きれば色々と連鎖すると思ってね。まぁまぁ、良い感じに事が運んでやっと手に入れられると思ったのにさぁ……。折角、傀儡まで創ったのに、欲張りすぎたかな」


スラスラと説明するルフラに誰もが見惚れていた。

何度見ても目を奪われる。魔術の類か、視線誘導か。


「そんなにフレアの能力が欲しいわけ?」

「すごく欲しい。だって、超レアだし」

「魔術師には不要だと思うけどね」

「良いじゃない。能力は幾らでも吸収出来るから問題無いし」

「……吸収?」

「そうだよ。魔術師だからね」


そう言いながら、ルフラの腕はククルの腹を突き抜けていた。

何の動作も無く、気付いたら、という表現が一番自然だった。


「ククル……!」


すぐにリーシャが駆け寄ろうとしたがルフラに睨まれ、動けなくなった。


「これ位じゃ死なないでしょう。あの子も死にはしない。だから、弱らせるのが一番」


腕を抜かれた瞬間、ククルは意識を失い、その場に倒れた。

ルフラは舞台まで浮遊し、エフレシアの元に降り立つ。


「効き目があって良かった。団長さん、その子を渡して貰えるかな?」

「嫌だ」

「……まぁ、そうだよね。じゃあ、此処にいる人達、皆殺しにしていい?」

「……は?」


さらっと脅迫めいた言葉を吐かれ、周りの人間達も呆けていた。


「なにを……」

「エフレシアさえくれたら、この場から去るよ。でも、どーしても断るなら無関係な人達が死んじゃうね。脅しじゃないよ」

「そんな事をしても無意味だろう……?」

「国民すら守れなかった無力な団長、として汚名を着せられてもいいのかな」

「……どちらも断る事しか出来ないな。エフレシアを渡す事も国民に危害を加える事も、断固拒否する」

「へぇ……。あぁ、そう!そんなに嫌なら、あんたから死ぬ?」


団長に手を出そうとしたルフラを蒼い焔が包み込んだ。勢いよく燃え上がり、人間ならば一気に黒焦げになる威力。


「貴方が塵になりなさい」


気落ちしていたフィンは苛立ちを込めて能力を放った。

ルフラが対処する前にクロエが加勢する。

また顔を掴んで熱すればいい。そう思っていた。


「天使族は不意打ちが得意なのかな」


ガシッとクロエの手を掴み、ルフラはニヤリとしながら目を合わせた。

バチィっと静電気の様な音が鳴り、蹴り飛ばされたクロエは黒焦げになっていた。対してルフラは無傷だ。フィンの焔も無効化されており、何も効いていない。


「クロエ……」


流石に黒焦げにまでされると自然治癒に時間が掛かる。その間は能力を使えない。


「傀儡と一緒にしないで貰える?本物のオレはあんな簡単にやられないよ」


ルフラは肩の埃を払い除けながら言い放つ。


「さぁ、団長。エフレシアをオレに渡せ」

「……嫌だ」

「言っとくけど、あんたの《女神》も効かないよ。攻撃してきた瞬間にその自慢の手足が折れて使い物にならなくなる」


紅い瞳に捕らわれ、団長は成す術が無い。

《女神》も団長の指示がなければ動く事が出来ない。


「……団長……さん……」

「…エフレシア……?」


何か策を考えなければと思考を巡らせている団長は小さな声で呼ばれ、耳を傾ける。

意識を取り戻したエフレシアは痛みに耐えながら団長の耳元で囁いた。ルフラには何も聴こえない。恐らく、別れの挨拶でも交わしているのだろう。

案の定、2人の内緒話は数分で終わった。


「……ルフラ。キミの望みのままにするよ。だから、人々には危害を加えないで欲しい……」

「最初からそう答えていれば良いのに。約束は守るよ」


団長はエフレシアを腕に抱いたままの状態でルフラに渡そうとした。ルフラも彼女を腕に抱える形で受け取る、筈だった。

その一瞬、エフレシアは微かに笑い、優しい声で「ごめんね」と呟いた。


「……えっ…」


まさかその状態のまま、身体を貫かれるとは思わなかった。

エフレシアの右手には剣が握られており、ルフラの心臓部分を刺していた。

何が起きたのか理解に遅れながらも状況を判断するに、先程団長と話していたのはこの事を意図していたのかと思われた。

腕に抱かれた状態で彼女の右手の位置には丁度、団長の腰に備えてある剣が当たる。けれど、剣を抜く音すら聴こえなかった。攻撃してくる様な仕草も無かった。

それは、謂わば、殺意が無かった事を意味している。

魔術師は不老不死に近い。だから、殺意もクソも無い、と。


「本体の心臓なら、ダメージはあるんだろう?」

「……っ、人間風情が……っ……」


ルフラは苦しみ出し、数歩後退りした。その足元には血が滴っている。やはり、急所だったのだ。


「効いているみたいだね」


団長はエフレシアを降ろしながら呟いた。

心臓を押さえながら何とか止血しようと藻掻いているルフラにエフレシアは同情の目を向ける。

あれだけ好き放題やらかしたのだ。誰も助けはしないだろう。


「……かはっ……」


大量の吐血をし、ルフラはいよいよ苦境に追い込まれた。

手で口を押さえるが腹から込み上げてくる血が止まらない。

刺された心臓の治りも遅いし、痛みも酷い。


「このまま捕らえて、地下牢に繋いでおいた方が得策かな?」

「……地下牢……」


その言葉には苦手意識が働いた。

嫌な思い出が浮かんでくる。エフレシアは団長に悟られないようにそっと顔を逸らした。


「……嫌だ……地下牢だけは……嫌……っ……」


ふらつきながら、ルフラは怯えた表情で訴えた。


「キミは危険だ。このまま野放しには出来ない」

「……お願い……地下牢だけはやめて……」

「悪いけど、キミの意志は受け付けない。心臓を刺されたのにまだ意識があるという事は、他にも核となる部分があるみたいだね」


ルフラに近付きながら団長は剣を構える。

地下牢への恐怖心でルフラはもう気が気ではない。


「その傷が治癒したらまたエフレシアを狙うだろう。そうされては困るからね。地下牢が一番、安全だよ」

「……やだ……。行きたくない……!やめて……!」

「随分と上手な演技だな。」


どんなに叫んだ所で所詮、逃げる為の口実にしか捉えられない。

団長は無慈悲にも、ルフラの左足を切断した。


「ぁあ゙っ……」


小さな悲鳴を上げながらバランスを崩し、尻もちを着く。

その彼の背後にはフィンと黒焦げから治癒したクロエが構えていた。


「恐らくきっとその足もまた生えてくるのだろうが、逃げるには無理な話だ」

「……もう、何もしない……。今までの事も、謝る……。あんたの奴隷にでもなるから……!だから……」


団長を見上げながらまるで子どものように涙を流してルフラは訴えた。


「どんなに泣いて喚いた所でキミへの処分は変わらない……」


彼の言葉を遮ったのは、ルフラの前に立つエフレシア。

魔術師を庇うような姿勢で。

その行動に、フィンとクロエも戸惑いを見せた。


「……なにを、している……」

「……地下牢への拘束は……あたしも反対です……」

「酷い目に遭わされているのに、彼を守るのか?」

「違う……。ち、地下牢は……あ、あたしも嫌な思い出あって……あの場所は……心神崩壊メンタルハカイする……から……。気が狂ってこの国ごと消されちゃうかも知れない……」


震える声でエフレシアは必死に言葉を紡ぐ。


「それに……監視も付けなきゃいけない……多分……命懸けだ……。意識が混濁して殺されるかも知れない……。犠牲者が出るのは避けたい……。それに……」

「解った」

「えっ」


団長は剣を鞘に納めた。


「エフレシアがそう言うのなら私はもう何も言わない。魔術師そのこの処分についてはエフレシアに一任する」

「……い、良いんですか?」

「あぁ。けれど、再度彼が問題を起こした場合は地下牢に拘束するよ」

「……承知しました」

「陛下には私から話すよ」

「…ありがとうございます…」

「命拾いしたな、ルフラ」


魔術師はまだ怯えていた。その様子にエフレシアは過去の自分を重ねてしまう。

暗くて狭くて何の娯楽もなく無音で話すことすら忘れていって眠る事すら苦痛に思えたあの日々は、地獄よりも辛い。


「……ルフラ」


彼に向き直り、名前を呼ぶとビクッと肩を震わせた。


「……エフレシア……」


片足が無いから立てず仕舞いの魔術師に見上げられる光景に若干の優越感を覚えた。


「助けた訳じゃない……。学祭を乱した事も許さない……」

「………償いはする」

「だから、あたしの側に居て」

「……え?」

「貴方が今後、悪さしない様にあたしが監視役になる…。あたしの能力が欲しいなら側に居た方が貴方も安心でしょ……?もし、誰か一人にでも危害を加えた時は地下牢に拘束して四六時中拷問してやる」


的外れな事を言ったかと思えば最後にサラッときつい事を言われ、ルフラは呆然としていた。


「……それから……あたしがピンチの時は貴方が犠牲になって。何が何でもあたしを死守すること。それが条件」


団長も天使達も異議は無かった。


「……解った。キミに忠誠を誓うよ、エフレシア」

「えっ……」


差し出された彼の手に彼女は戸惑う。


「この手背に口付けを。そうすればオレはもうキミだけの盾となる」

「……盾……」


エフレシアは言われたままにした。

彼の手背に口付けすると、瞬間、そこが淡い光に包まれ、何かの文字を象った紋様らしきものが刻まれた。


「これが誓いの証。キミを裏切れば此処から猛毒が身体中に流れてオレは死ぬ。こうしないと口約束だけじゃ信用無いからね」

「……あたしへの復讐なんてしたら……」

「死ぬね。だからもう復讐はどうでもいいかな」

「……いいの?」

「うん。だから気にしないで」

「……でも……貴方の大切な人を奪ったのはあたしだ……」

「その話は追々。もう、身体も限界でしょ?」

「……ん」


ふらついたエフレシアを団長が支えた。


「終局、という事でいいかな?取り敢えず、この場を収めたい」

「……あぁ」


ルフラは両手を挙げながらもう何もしない事を表した。

学祭2日目はこれで終わりを告げた。

最終日に至っては色々と事情説明と修復作業と怪我人へのサポートがあった為、3日後に延長される事となった。

そして――――。


「初めまして。治癒能力者ヒーラーギルド【エヴァ―・ラスティング】から来ました治癒能力者ヒーラーでーす」


エフレシアとククルの為に呼ばれて来た他国からの治癒能力者達は、綺羅びやかな容姿の美人とイケメンだった。


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