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unluckyの追加分

嗚呼……醜い。

美しくない者は地に伏して這い蹲っていればいい。

ブスは生きる価値さえ無いのだから。

平身低頭して許しを乞うエフレシアにキャロライナは苛立ちを隠せなかった。

その頭を踏み潰してぐちゃぐちゃにしてやりたい。

塵同然と罵って野良犬にでも喰われればいい。

其れ位、腹立たしい言葉を彼女は放った。


「許さない……」


ピリついた空気が教室に漂っている。

エフレシアのクラス。キャロライナが来店した数分後、エフレシア達もやってきてリーシャ達と合流した。お店は繁盛でヴィトは可愛らしく立ち振る舞って集客していた。

当番だったクラスメイトのニナが躓き、運んでいたマカロンと紅茶をキャロライナにぶっ掛けてしまったのだ。


「あんた、どうなるか分かってる?」


ルークが静かな声色でニナを責め立てた。

真っ青になっているニナは謝罪を述べることすら出来ずパニックに陥っている。


「申し訳ありません、キャロライナ様」


見兼ねたエフレシアが代わりに謝罪をした。

本当は関わりたくなどない。知らんぷりでやり過ごす心算つもりだったのに。


「庶民は謝る事すら出来ないのですか?」

「本当に申し訳ありません」

「無意味な謝罪など要りません。彼女には其れ相応の代償を払って頂きます」

「それならあたしが……」


刺すような視線がエフレシアを捕らえる。

キャロライナは他人の内心まで見透かせるのではないかと思う。


「ロキ様はお元気ですか?」

「……はい」

「会わせて下さる?そしたら全て許します」

「………それは……出来ません……」

「何故?」

「………貴方に……あ、会わせる事は出来ません……」

「だから、どうしてと聞いているんです」

「……お、お兄ちゃんが会いたくないって……!」


勇気を振り絞って言ったエフレシアの頬をキャロライナは思い切り引っ叩いた。


「姫ちゃん!」


それまで様子見していた天使達も慌ててエフレシアを抱きとめた。


「手を出すとは、それ程核心に触れたか?」

「あら。少しはブスもマシになったんじゃなくて?」 


卑しく笑いながらキャロライナは本性を露にした。

ルークは止めない。下手に仲裁したら護衛といえどぶっ飛ばされてしまう。クラスメイト達もキャロライナの圧に口出し出来ないでいる。それ程彼女の名は有名で報復も半端ないと知っている。


「ロキ様が私に会いたくないなんて仰る訳ないでしょう?本当に貴方は莫迦なんですね。二度とでしゃばった真似はしないのではなかったかしら?」

「……申し訳ありません……」


打たれた頬を押さえながらエフレシアは謝罪を続ける。


「ブスが綺麗に生きたって何も変わらないわ。余計に醜くなるだけよ」

「そんな言い方……!」

「フィン!勝手に入ってこないで!」  


ブチ切れそうになっているフィンにエフレシアは強く言い聞かせた。そんな姿は初めて見たのでフィンもティタも動揺した。


「ロキ様に会わせて下さい」

「……出来ません」

「強情ですね……。なら、またあの時みたいに羞恥な姿でも晒して下さるのかしら」

「……それで許して頂けるなら……」

「……そう。今度はランジェリーも全て外してまっさらな姿で謝罪してくれたら大人しく去ります」


ざわつく空気なんてクソ喰らえ。

此の身で大切なものを守れるならばなんでもする。

例え、片目を抉り取られたとしてもロキに会わせる訳にはいかない。

パサッと制服が床に落ち、素肌が風に当たる。

キャロライナは今にも腹を抱えて笑い転げてしまいそうになった。


「姫ちゃん……」


何もするなと言われてしまっては止める事も守る事も出来ない。誰も何も出来ない。あまりに滑稽な絵図こうけい

キャロライナは裸体を晒したエフレシアを値踏みでもするかのように凝視し、側にあったカップを手に取った。


「そのまま地に頭を付けて謝罪して下さい」


エフレシアは黙って従う。

何もそこまでしなくても、と誰もが思うかも知れない。

でもそれはキャロライナの恐怖を知らないからだ。

言う事さえ聞けば見逃してくれる。だから、逆らわない。

それが一番早い決着。


「申し訳ありませんでした」


犬みたいに言う事を聞いているエフレシアにキャロライナの苛立ちは収まるどころか増幅している。


「いい様……」


熱い紅茶がエフレシアに降り掛かる直前、その手を止めたのはアドニス。


「そんなもん掛けたら、一生消えない傷が残る」

「放しなさい」

「嫌だ。我儘も行き過ぎだぞ、キャロライナ嬢」

「我儘?先に非を向けたのはそちらでしょう?貴方が怒る意味が分かりません」

「フレアは十分な位の謝罪をしたよ。その上でまだ何かしようって?自己中過ぎるんだけど」

「なっ……!失礼じゃなくて?私は正当な謝罪を……!」

「あんたはただ、フレアを見下したいだけに見えるけどね」


本音を突かれ、キャロライナは激昂した。

アドニスの手を振り払い、勢いのままに紅茶を吹っかけた。

バシャン、ともろに直撃し、熱湯が肌に突き刺さる。


「貴方も同じ目に遭いますか?それとも、この国ごと滅ぼしてあげましょうか!」

「……そんな事でしか気晴らし出来ないのかよ。姫のクセに穢れてんだな」

「……っ、ルーク!此の者を殺しなさい!私を侮辱しました!極刑に値します!」

「キャロライナ様、此処は学園内です。剣は抜けません」

「私がやれって言ってるのよ!いいから早くやっ」

「姫」


落ち着いた声が彼女を宥めた。

闖入してきた彼に驚いたのは天使の2人。


「その辺で。騒ぎを聞きつけて警邏が来てます」

「……悪いのは此の子達じゃない!何故私が」

「貴方が始末される場合もあるのですよ。此処は隣国ですからね。貴方の国のルールは適用されない」

「………わかりました」


キャロライナは怒りを鎮め、ルークに連れられて大人しく引き下がった。


「なんであんたがあの姫に付いてるのよ」


フィンとティタの視線にイヴは柔らかな表情を浮かべる。


「まぁ、契約みたいなものかな。さっきその辺でクロエにも会って聞かれたよ」

「とんだ姫君だな」

「あんまり悪口言うなよ。本当に国が消されるかも知れない」

「私は嫌いよ、あんな女」

「好きな奴なんているのか」

「言ってる側から悪口言わないで!」


静かに怒りを表している天使達にイヴは申し訳なさそうに注意した。


「営業妨害して悪かったな」

「さっさと行きなさいよ。また姫が愚図るわよ」

「じゃあ、また」


嵐が去り、落ち着いた空気が戻ってきた。


「姫ちゃん……」

「ん?」


何事も無かったかのように着替えているエフレシアに驚く。


「あぁ……、大した事ないよ。それよりアドニスの火傷が心配」

「おれは平気。すぐ治るし」

「えっ」


見ると熱湯を掛けられた体の部位は綺麗な素肌のままだった。


「天使族みたい」

「生まれつきなんだよ」

「珍しいな」

「フレアちゃん!」


泣きながらエフレシアに歩み寄ったのはニナ。

大粒の涙が溢れるように流れていく。


「ごめんなさい!あたしの所為(せい)でフレアちゃんに嫌な思いさせて……ごめんなさい……ごめんなさい……」

「おれらもごめん……。フレアだけに謝罪させて……。守れなくてごめん……」


リーシャもマシュもクラスメイト達も俯き、罪悪感に囚われた表情を浮かべている。


「あんな思いするのはあたしだけでいい。皆をあの人の敵にしたくなかったから。それに初めてじゃないんだ。以前(まえ)にもあった事だし、あの人は謝罪さえ貰えれば納得するんだよ」

「でも……無かった事にはならない。消えない傷になるのは事実だ」

「そんなのずっと背負ってたら生きていけないよ、リーシャ。通過儀礼だと思って過去にすればいい」

「フレア……」

「それに、キャロライナ嬢が此処に来たのはあたし達の所為でもあるから。皆は何も悪くないし気に止めないで」


もうこれ以上何も言うな、と遠回しに言われた気がした。謝罪以外の言葉が見つからない。


「そういう事ならこの話は終わりだな。ほら!営業再開するよ」


アドニスが仕切り、皆は気持ちを切り替えて持ち場に戻った。

一連の流れを窺っていたヴィトは拳を強く握りしめ、その手中から床に垂れた血が彼の怒りを表している様だった。


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