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Liebe

学園ライム祭までの3か月間は殆ど授業は無い。先日の腕試しみたいな授業はあるらしいがそれ以外の座学は免除になるらしい。エフレシア達にとってはとても好都合だ。それ程、学祭までの準備が大変だということ。教室内の飾り付けや衣装作りなどやる事は盛り沢山で買い出しも相当な分量を揃えなければならない。大きな学園なので来客数もエグい。国の祭りと言っても過言ではないくらい壮大なのだそうだ。

だが、それ以前に新たな問題が勃発していた。


「ククル様!」

「ルヴェル様!」


先日の授業は他クラスに放映されていたらしく、特に二人の活躍が目立ちファンが続出。連日の様に目をキラキラさせた生徒達が二人に会いに来ていた。


「ククル様!ご一緒にランチ如何ですか?」

「副団長様!よろしければ私達と」

「いえ!私達と食べますよね?」


答えは毎回同じなのによくめげないなと傍から見ているエフレシアは感心してしまう。どう見たってククルは迷惑そうな表情をしているのに彼女達はお構いなしだ。


「ルヴェル様!ランチはご一緒になさって?」

「中庭の予約取りましたので!私達とどうか」


こちらは笑顔を振り撒きながら上手いこと交わしている。慣れているのか、彼女達を傷付けない範囲の気配りは出来ているようだ。


「モテモテだね」

「活気があって良いんじゃないかな」


カフェテラスで昼食を摂っていたエフレシアとリーシャは生徒達に囲まれている二人を眺めながら話していた。


「ククルは大変そうだ」

「元々、人付き合い好きじゃないからね。大抵の女はキツイ事言われて去っていくんだけど」

「うちの生徒は根が強いからな。そうそう立ち去らないよ」

「……で?あたしに話があったんだよね?」


今日はクロエもヴィトも護衛にいない。ククルはそれどころじゃないので今はエフレシア一人だ。


「この間の戦闘訓練、どう思った?」

「……レベルは高いと思う。あとは本当の実践で動けたら大したものだよ」

「そう。うちのクラスは割と能力高めの子達が纏まってるからキミの見解を聞きたかったんだ」

「それでクロエ達を外したの?」

「二人だけで話したいから」


マシュ達にもお昼を誘われたがリーシャが断っていたのでそれ程大事な話なのかとエフレシアは気を引き締めていた。


「魔物に襲われた時、キミに助けられて自分の非力さを思い知った。だから武器を選んで鍛錬してきたんだ。本当はね、騎士団に入るのが夢だったんだ」

「今からでも目標に出来るよ」

「……おれは足元にも及ばない。どんなに努力したってククルには絶対勝てないし、魔物と対峙しても動けない。想像できちゃうんだよ、これじゃ駄目だって」

「……それをあたしに吐露するんだね」

「フレアは信用に足る人間だ。おれと話した事も他人には言わないだろ?」

「そうだね」

「マシュ達にはこういった悩みは相談出来ないからね……。フレアが来てくれて凄く嬉しいよ」

「ありがとう……」


彼が何を言いたいのかエフレシアには解らない。表情もいつもと変わらないので本題に入っているのかさえ判断出来ない。


「だから、時々こうやって相談に乗ってほしいんだ……。あと、図々しいのは承知でおれと手合わせしてほしい」


それが本題か!

エフレシアも同年代との付き合いは薄いので、こうして彼らと関わり合っていくのは互いの成長を促進出来て良いのかも知れない。


「あたしで良いの?手合わせならククルの方が……」

「キミだって相当強いでしょ?」


まだそんなに本領を発揮していないのによく断言出来るな……。


「まぁ……多少の指導?なら出来ると思うよ」

「ありがとう、フレア」

「いつからやる?」

「キミの都合が良いなら今日の放課後からお願いしたいな」

「分かった。一応、ククル達にも手合わせすることは伝えといて良いかな?」

「うん。キミの護衛だもんね」

「そしたら放課後ね……」


カフェテラスはいつも賑わっていて予約が必要な位、この場所を好む生徒達がいる。エフレシアもリーシャが予約していたので初めて使用したがなかなか雰囲気も良く寛ぐには最適だ。30分の予約だったので2人はそろそろ教室へ戻ろうかと話していた。


「……に、よ……!私達が先に誘ったのよ!」

「承諾されたのは私達の方よ!振られたクセにいつまでも近寄ってないで離れてよ!」


話に集中していたので女子達が揉めている事に気付かなかった。

話し声からしてククルの取り合いだ。双方に囲まれているククルはげんなりしている。それに気付かない程、彼女達は白熱していた。


「偉そうになんなの!?ククル様は私達のクラスメートよ!」

「先輩を敬うのが後輩の礼儀じゃないのかしら?失礼極まりないわね!」

「先に生まれたからって偉そうにしないでよ!」

「はぁ?いいから大人しく譲りなさいよ!」


口だけでは我慢ならず、とうとう取っ組み合いのバトルへと発展してしまった。

女は怖い。エフレシアも体感しているのであの場を仲裁する気にはなれない。ルヴェルは穏やかに沢山の女子達とお茶をしているというのに。この差はなんなのだろう。


「先生、呼んだ方が良いかな……?」

「やらせておけば良いんじゃない?」


不安になるエフレシアに対し、リーシャは冷たく放った。


「時々あるんだよ、男の取り合い。女同士で殴り合ってるの見た時は吐き気がしたね」

「……そうなのね……」

「気の済むままにやらせた方がスッキリするでしょ」

「確かに……」


飛んで火に入るなんとやら。怪我なんて無闇に負うものじゃない。

二人は素知らぬ素振りでカフェテラスから出ていこうとした。


「……危ない!」


叫び声と同時に眼前に飛び出た影が何かを受け止めた。

リーシャの耳にはガラス音が聞こえた気がするが事態を把握出来ない。


「……リーシャ、当たってない?」


彼の前に出て守り抜いたエフレシアは静かに聞いた。


「大丈夫……」


先程まで争っていた女子達が青褪めた表情でこちらに注目している。リーシャからは彼女がどうなっているのか見えないので不安だけが募る。


「エフレシア」


倒れかけた彼女をルヴェルが支えた。頭から血が流れ出ている。


「何が当たって……」

「グラス。此処には沢山置いてあるからね。投げるには相当勇気がいるんだけど……」


言い争いに夢中で彼女達も何を投げたのかは分からなかったのだろう。グラスといっても結構なお値段のするおしゃれなものだ。それを諸に頭に受けたら意識も失う。


「保健室……」

「連れて行くから。キミも来て」

「うん……」


振り返り様にククルに視線を向けると彼は俯いたまま動こうとしなかった。



「……どうしましょう……」


落ち着きを取り戻した彼女達は怯えた表情を浮かべている。


「あの子……王族の子でしょ……?体験入学中で来た……」

「でも彼女、正式な姫様じゃないんじゃない?」

「カサンドラ様だったなら私達のクビが飛んでいたでしょうけど、王位継承権も無いのならお咎め無しではないかしら?」

「そうなの?なら心配することないね?」

「しかもあの子の国って、あの子が原因で滅んだって聞いたわよ」

「キャロライナ嬢でしょう?やばい人を怒らせたものね」

「でも、騎士団長様の婚約者らしいわよ」

「まぁ……!私達を差し置いてなんて図々しいの」

「似合う訳無いわ。あんな平凡な子」

「騎士団長様もお優しいから」

「亡国の姫だから同情されてるのよ」

「ククル様も大変ね。態々あんな子の護衛しなきゃいけないなんて」

「付き合わされてるなら断った方がいいですよ」

「そうよ。私達の方が護衛されるに値するでしょう」


黙って悪口を聞いていたククルは今にも彼女達を切りつけてしまいそうになった。そんなことをしたら非は全て彼に掛かる。


「折角此処の時間取ったのにまともにお食事出来なかったわね」

「残念だわ……」

「準備に戻りましょう」


彼女達は何事も無かったかのようにカフェテラスから出ていった。

ククルは込み上げる感情を抑えつける。好き放題言っていた彼女達に何のお咎めも無いのは嫌だ。 


「……っ、クソ……っ……!」

「―――やらかしたねぇ、ククル」


誰もいないと思って叫んだのに声が降ってきた。

聞き覚えのあるへらへらした感じ。


「何で居るの?」

「騒がしいなぁと思って」


神出鬼没のルフラはにこにこしながら答えた。


「悔しいのは、エフレシアを守れなかった事?それとも、悪口の方?」

「両方。防げた筈なのに何も出来ない……」


握り締めた拳から血が滴る。それ程強い想いが溢れる。


「いつか彼女達も思い知るだろう。口は災いの元って言うしね」

「……国が滅んだのはエフレシアの所為じゃない」

「知ってるよ。キャロライナ嬢はちょっと頭がおかしい。あんな事で国を潰すなんてどうかしてる」

「……詳しくない?見てたの?」

「うん。高みの見物ってやつ。あー、また国が一つ殺されるなぁって」

「それで?感想は?」

「呆気なかったね。騎士団は確かに強かったけど、敵陣のアレは反則だよ。どこからあんな人材見つけてきたんだか」

「本当に見てただけなんだね。助けてくれても良かったんだけど?」

「無駄に手染めたくないからさぁ。ほら、オレ最強だし」

「知らないよ」

「本気出したらこの国だって潰せるよ」

「どうだか」


イライラしているのか、ククルはサラッと受け流した。

喰らいついてくるかと思っていたルフラは少し残念そうだ。


「エフレシアの様子、見てこないの?」

「ルヴェルが介抱するでしょ」

「……冷たくない?仮にも護衛なのに」

「うるさいな」

「オレ見てくるけど」

「ご勝手に」


淡々と言い放ち、ククルは出ていった。






単なる脳震盪(のうしんとう)だと診断されたのは、エフレシアが倒れてから3時間後の事だった。


「あんなの食らったら卒倒するよ」


騒ぎを聞きつけて来たクロエは安堵した様に呟いた。


「ごめんね、心配かけた……」

「お前は悪くない。誰にやられたの?今からぶっ飛ばしに行くから教えて」

「えっ……」

「何のお咎めも無しって有り得ねぇだろ」

「女の子殴るの?」

「制裁は必要だ」

「……あたしがやるから、クロエは手汚さないで」

「エフレシア……」


そう言われてしまうとクロエは何も出来なくなる。エフレシアは本当に実行し兼ねない。


「縫ったんだろ?ガラス片刺さったって……」


彼女の頭には包帯が巻かれている。見ただけで痛々しいとさえ思ってしまう。


「大した事ないよ。それよりヴィトは?」

「女子達と楽しく祭の準備してる」

「そっか」

「ククルは一緒じゃなかったのか?」

「近くにはいたけど、ファン達に捕まってて大変そうだ」

「なんだよ、あいつ。護衛のクセに」

「無下にも出来ないんだよ」

「それでも、お前を守れた筈だ」

「……あの時は距離もあったし、仕方ないよ」

「仕方ないで誰かが死んだら護衛の意味ねーよ。命に代えても主人を守るのが礼儀だ」

「……っ、あたしとククルは主従そんな関係なんかじゃない……!そんな風に括らないで……!」


感情的な彼女にクロエは戸惑いを見せた。


「エフレシア……」

「ククルは騎士なんだよ。本職は少女の護衛なんかじゃない。国を守ることだ」

「……そうかも知れないけど……」

「ククルの事、穢さないで……。お願い……。キツい性格だけど、冷たい人間(ひと)じゃないんだ……。クロエも解ってると思ってたのに……」

「いや、悪く言うつもりは無い……」

「……ごめん……。今、クロエの顔見れない……。ごめんね……」


そんな震えた声で言われてしまっては保健室から出ていくしかない。クロエは黙って扉を開けた。



【亡国の姫君】ーーー国を滅ぼされ、頼みの綱である騎士団でさえ壊滅して、最後の砦だった騎士と兄と此の国に逃れてきた少女。 天使達も彼女に靡く程、ほんわかした雰囲気だと思っていたのに。見誤っているのか。


「言い過ぎたかな……」

「ーーー避けて!」


教室へ戻る最中、後ろからの声にクロエは咄嗟に何かを交わした。こんな廊下で何が飛んできたのだろうかと不思議に思う。


「ごめんなさい。当たりませんでした?」


掛けてきた女子生徒は心配そうにクロエを見た。


「あぁ……避けたからな」

「良かったです。ちょっと能力操作を誤ってしまって……」


見たことのない女子生徒にクロエは視線を注ぎ過ぎた。


「何か変ですか?」

「え、あっ……いや、悪い……。違うクラスか?」

「はい。隣のクラスです」

「……なら、敬語じゃなくていい」

「あぁ、これ性分(くせ)なんで。気にしないで下さい」

「そうか……」


飛んできたのはデカい紙飛行機だった。折り紙を巨大化したものだろう。当たっていたら怪我は免れない。


「私、無機物を好きな大きさに変える能力を持ってまして。大きな紙飛行機飛ばしたら子ども達も喜ぶかなぁって」

「落ちたら被害出るぞ」

「あ、素材は変わらないので重さもそのままなので危険度は低いですよ」

「……あ、そう」

「戻す事も可能です」


そう言いながら彼女は巨大化した紙飛行機を手の平サイズの大きさに変えた。


「便利だな」

「荷物とか小さくしてポケットに入れたり出来るのでメリットは大きいですね。ただ、生物には適用出来ないのでバトル向けではありませんけど」

「いや、十分武器になるだろ。自由自在に武器の大きさ変えて相手を負かせる」

「……それは考えませんでした。なるほど、そういう手もあるんですね」


ありがとうございます!と微笑んだ彼女にクロエは胸が高鳴ってしまった。


「あ!自己紹介まだですね。私は、カタリナと言います」

「……クロエだ」

「宜しくお願いしますですね」


こんなに笑顔が可愛いなんて初めてだった。

カタリナはそんなに美人ではない。けれど愛嬌があって仕草も可愛らしい。ローズゴールドのサラサラな長い髪と瞳が印象的だ。


「クロエのクラスは準備どうですか?」

「まぁ、順調?」

「確か、マカロンでしたよね?」

「そう、喫茶店やるって」

「学祭の時はお邪魔しますね」

「あんたの所は?何やんの?」

「うちは出し物やるので演劇です」

「へぇ……。何役?」

「巫女役です」

「……どんな話?」

「オリジナル脚本なので私も詳しくは知らないんですけど、滅びた世界のお話だそうです」


良く分からないと思いながらもクロエは問わなかった。


「結構メインの役みたいなので頑張りますよ!」


ガッツポーズしてみせる彼女は何故か嬉しそうだ。


「そうだな。暇だったら観に行ってやるよ」

「ありがとうございます!」


それでは、と一礼しながら彼女は自分のクラスに戻っていった。


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