害
「ライム祭とは、年に一度のお祭り!シトラス学園の一大イベント学園祭!イベントは盛り沢山で出店もいっぱい出ます!うちのクラスは、喫茶店!紅茶とマカロンを売りに!女子はメイド服着用で!」
ババーンと黒板に記載された内容をハイテンションで伝えるのはクラス委員長のアキバ。イベント大好き人間らしくこの時期はめちゃくちゃ張り切っているらしい。
「それになんと今回はエフレシアちゃんも交えての学園祭!護衛の皆様も参加なされよ!大いに楽しもうじゃないか!」
改めて注目を浴びるエフレシアは楽しそうに聞いていた。
「今から諸々の準備をしないと間に合わないからね!係や担当などこちらで割り振ったから各自確認するように!以上かな?アルテミス」
「紅茶係は種類も買い揃えるのでお金の使い方には呉呉も気をつけて。わからないことがあればアキバに聞いてくれ」
同じくクラス委員長のアルテミスは冷静に伝達した。
配られた用紙を確認すると、エフレシアは店員と記されていた。
「げっ……おれ、提供ってなってる」
「ぼくは店員だって」
人間の姿に変えているクロエはとても地味な格好をしていた。黒縁メガネに雀斑と紅い髪は三つ編みに。外見至上主義の彼にとっては好ましくない姿だろう。
ヴィトはそのままの姿なので可愛らしいとクラスの人気者だ。
「エフレシアと一緒が良かったな」
「大丈夫だよ、クロエ。ククルも提供だから」
「全然良くねぇ……」
「ぼくは一緒だね」
「そうだね、ヴィト。一緒に頑張ろう」
「うん」
わいわいする二人をクロエは羨ましそうに眺めていた。
「フレア、担当どこだった?」
「店員だって。リーシャは?」
「おれも店員。マシュ達も一緒だ」
「そうなんだ」
親しくなった女子達に手を振り、喜びを共有する。
「ヴィト。フレアの事、頼んだから」
「うん。ちゃんと護衛するよ」
「何かあったらすぐ呼べよ」
「頼りにしてる」
各担当ごとに分かれて話し合うよう促されたのでエフレシア達は暫し離れて説明に集中した。
「ま、店員てのはホールだね。お客様の元に紅茶とマカロンを運ぶ係。難しい事は何も無いよ」
店員配置の子達を仕切るのはポニーテールがよく似合うアドニス。団長に雰囲気が似ているな、とエフレシアは思った。
店員係も提供係も男女平等の人数差で内容としては簡易的なものなので話し合いといっても賑わっていた。
「フレア。気になる事とかあるかい?」
「今は大丈夫。本番になったら緊張しちゃうかも……」
「初めてだもんね。めっちゃ楽しいよ」
リーシャ達は去年も経験しているので楽しかった記憶が多いのだろう。仲良くなったマシュも安心の笑みを与えてくれた。
「ヴィトちゃんも一緒に頑張ろうね!」
「うん!」
「一緒にメイド服着ようね!」
「うん!楽しみ」
ヴィトはメイド服がどんなものかいまいち解っていないらしい。それも面白いので誰も突っ込まなかった。
「ねぇ、フレア。学園祭は一緒に他の出店とか回らない?」
「回れるの?」
「交代で休憩あるし、誰かしらいるから大丈夫だよ」
「そうなんだ。回りたいなぁ」
「よっしゃあ!まぁ、ククル達も一緒の方が良いでしょ」
「ありがとう」
「あんたに何かあったら大変だもん」
「この前みたいな監禁紛いな事は避けたいよね」
エフレシアが体育館倉庫に閉じ込められたという話は瞬く間に校内に拡がった。首謀者はまだ見当がついておらず誰も追及はしなかったが、クラスメート達は警戒心を強めていた。
「うちの教師らってあんま信用ないから、無闇矢鱈に頼ったらだめだよ」
「そうなんだ」
「何かあったらうちらを宛にしてね」
「ありがとう」
マシュ達はとても良い子だ。いじめをしていたなんて思えない程面倒見が良い。男子達も普通に接してくれるので教室は居心地が良かった。
「やぁ、人気者」
寮へ帰る途中、見知らぬ声に呼び止められエフレシアは振り向いた。それと同時にククルが警戒を強める。
「……誰?」
眼前にいるのは見目麗しい少年。ヴァイオレットの長い髪がサラサラと風に靡き、薄青の瞳がエフレシアを映していた。
「そんなに警戒しなくても、敵じゃないよ」
睨みつけるククルに柔らかな笑みで少年は言った。
「オレはルヴェル。隣のクラスだよ」
「……知らないな」
「学校には気分で来てるからねぇ。あんまり面白味無いし、そろそろ辞めようかと思ってたんだけど」
ルヴェルはスッとエフレシアに歩み寄り、顔を近付けた。
間近で見るととても端整な顔立ちをしている。天使族にも劣らない程綺麗だ。
「君がいるなら来ようかなぁ。興味あったんだぁ、王族の人に」
「……あたしはそこまでの地位は無いよ」
「そういうのはいいの。ねぇ、お城ってどんな感じ?今度見学させて欲しいなぁ」
「えっ……じゃあ、許可取らないと……」
「フレア!」
流されているエフレシアを止め、ククルは彼女を守る態勢を構えた。
「キミは、この子の騎士かな?随分と過保護だねぇ」
「それが役目だからね」
「騎士って事は……キミも王族関係者だ?一度手合わせしてもらいたいなぁ」
「必要無いでしょ」
「どーして?」
「あんた、強いみたいだから。オレとやっても意味ないよ」
「……そうかなぁ」
「暇ならどいてくれる?」
エフレシアの手を引きながらククルはさっさと寮へ向かった。
男子寮と女子寮の距離はそんなに離れていない。警邏もいるのでトラブルなどは無いが、どちらも異性の侵入は禁止とされている。
「ククル、ごめんね……」
「バカも大概にして。あんな得体の知れない奴、相手にしたらダメだよ」
「うん……反省してる。よく、強いって分かったね?」
「どう見ても隙無かったじゃん。へらへらしてるからって嘗めたら痛い目見る」
「……うん」
「容易に他人を信用しないこと。分かるでしょ?」
「はい……」
「この間みたいな監禁は御免だからね」
苛々しているククルにエフレシアはただ頷いていた。迷惑をかけてしまっているので何とも言えない。ククルは危機察知能力が高いので人間の見分け方も上手い。
「また明日の朝、迎えに行くから」
「うん。ありがとう」
エフレシアの姿が見えなくなるまでククルは見守っていた。
シトラス学園には彼女よりももっと家柄も良く品行方正な子が多い。なので金目当てに悪巧みする連中も湧いてくる。正直、警邏だけでは頼りない。それでも、学園祭まで頑張るしかないのだ。
「ククル」
寮に戻ると先に帰っていたクロエが出迎えてくれた。
「エフレシアは無事か?」
「今寮に送っていったとこ」
「そっか」
「……ヴィトは?」
「あぁ……女の子達とクッキー作ってる」
「仲良しだな」
「あとでエフレシアにあげるんだってさ」
「お前は参加しないの?」
「ハブられた」
「……だからオレに絡んできてるんだ」
「仕方ねーだろー?この姿は人間には受けない。まぁ、目立たないから行動も自由だけど」
「……案外似合ってんじゃない?天使の時よりかは目に優しい」
「褒めてんの?」
「そのつもりだけど」
二人は話ながら寮室へと戻っていった。
下校時刻を過ぎても調理室では楽しそうな声が響いていた。
学園には部活というものがあり、ヴィトは誘われるがままに家庭部へと入部し、女子達と親しんでいた。殆どが女子で男子は2人くらいしかいない。
「あと少しで焼き目がつくかな」
「フレアちゃんにあげるんでしょう?ヴィトくん、頑張って作ったもんねぇ」
先輩の女子も数名いて、皆ヴィトに興味津々だ。嫌な雰囲気は感じられなかったので警戒もせずに可愛さを振り撒く。
「みんなが教えてくれたお陰。ありがとう」
「やだ、かわいー!お持ち帰りしたいわー」
「寮には持ち込めないからねぇ……」
「ヴィトちゃんなら女子寮に来ても歓迎されるわよ」
「確かに」
女子達の会話は入る隙が無い。なのでヴィトはにこにこで彼女達の話を傾聴していた。
「そういえば、先日も侵入者がいたそうよ」
空気感が変わり、皆がその子の話に集中した。
「最初は女子寮に出たって騒いでたんだけど、それから暫くして男子寮にも出たって話。盗難もあったらしいよ」
「でも、入れるって事は同性なんじゃないですか?」
「そう考えもしたけど、どちらも下着の盗難が多いのよ」
「……まぁ、同性愛者とかいますしね」
「そうなんだけど……男子の下着も盗むってどうよ。気持ち悪くない?」
「女子のならまだ分かるけど……」
「気を付けた方がいいかもね」
などと話している内にクッキーが焼き上がった。
星やうさぎなどの型取りしたものも上手に焼けている。出来栄えを見てヴィトは嬉しそうに笑った。
「ヴィトちゃん、手際良いから嬉しいわ」
「本当に。入部してくれてありがとう」
「こちらこそ」
ヴィトは再度御礼を言いながらお辞儀した。
「フレアちゃんも喜んでくれるわ」
「そうだと嬉しいです」
「また作りましょうね、ヴィトちゃん」
「はい!宜しくお願いします」
お洒落な包装を施した後、ヴィトは手を振りながら調理室から出た。中からはまた色々な話が聞こえてきたがスルーした。
後日。
調理室にいた女子達は見回りに来た警邏によって発見された。
とても淫らな格好で、暴行の跡も酷かったらしい。
「ヴィトが出ていって数分後くらいに誰かが入って来て、そのまま襲われたそうだ」
丁度エフレシアに手作りしたクッキーを渡していた時の事だ。
そんな報せを聞いてヴィトは怯えた表情を浮かべた。
「……ヴィト」
クッキーを味わっていたエフレシアは彼を抱き寄せ落ちつかせる。
「誰がそんな事……」
「分からない。だから、最後に彼女達と一緒にいたヴィトに聞こうと思ったんだけどね」
その報告をしてくれたのはクラス委員長のアルテミス。同じくクラス委員長のアキバは被害に遭った女子達と親しかったらしく、教師から色々と聞かれているらしい。
「ごめんね、アルテミス。今そんな状況じゃないかも……」
「解っている。とりあえず報告まで。嫌な思いをさせた」
「その……犯人?って一人なの?」
「まだ分からない。これから偉い人達が調べるみたいだから」
「……そうなんだ」
「家庭部は割と美人な子が多かったから、狙われていたんだろう。特に3年の女子達は顔まで殴られている。正気の沙汰ではないな」
「怖いね」
「お前も気を付けた方が良い。いくら護衛がいるからといって安全とは言い切れないだろう?」
「そうだね……。気を付ける」
一度えらい目に遭っているので彼女は一層危機感を強めた。
学園祭まで何事も無く過ごせれば良い……なんて考えはきっとこの先通用しないだろう。




