connection
魔物を率いている青年はとても綺麗な顔立ちをしていた。
柔らかな笑みを向けられたエフレシアは一瞬揺らいだが、ほんの一瞬だけだ。所詮は魔族。そう捉えるだけで動揺は無い。
「そんなに敵意を剥き出しにされたら、ちょっと怖いかなぁ」
穏やかな表情に優しい声色。其の身形と合っていないのが細やかな矛盾を生んだ。
「何故、街に侵入してきた?人間側には関わらないとの約束だろう」
腰に備えている剣に手を置きながら団長が問う。
「こちらも生きてる存在なんでね。同胞を殺されたら黙ってはいられない」
「……何の話だ」
団長が聞くと、青年は隣りにいた魔物に視線を送った。
直後、魔物の口が大きく開かれ、光とともに何かが口の中から出てきた。
どさっと地面に転がったのは、冒険者らしき格好をした男性。
「このような人間が、数人絡んできた。魔物如き、倒せるだろうと甘く見られてね。仕返しをしたまでだ」
「……他の人間は?」
「こいつらのご馳走になった。皆、弱々しくて話にもならない」
「……先にちょっかい出したのは人間の方か。考えの足らない馬鹿が世話になったな」
「……へぇ。人間なのに擁護しないのか。お前は頭が良いね」
「人間の不始末は人間が取らなければいけないからね」
にこやかに団長が言うと青年も似たような微笑を浮かべた。
「どうするの?殺す?」
「このまま帰るつもりはないんだろう?」
「そうだね」
魔物達は青年に従い、じっとしている。
「あ。もしかして戦う気満々?それなら殺り合う?」
「無駄な犠牲は払いたくない」
「でも折角街まで来たし……。あ!ここまで食べたんだから街の人間食べて帰ろうかな」
そんな柔らかな笑みで放つ言葉ではない、と側で様子を窺っているエフレシアは思った。
「魔物達はまだ満足してないみたいだから」
一瞬にして、青年の眼が変わった。声色も先程の可愛らしいものではなく、低くて美しい声になった。
……襲われる。
青年の雰囲気からエフレシアは気を感じ、身構えた。
「さぁ、人間!喰われたくなかったら、殺しなよ」
青年が手を上げたのを合図に魔物達が一斉に動いた。
其の標的になったのは、エフレシア。
「君たちを喰ってから、街人を味わうことにするかな」
高みの見物か、青年は魔物に任せたまま微動だにしない。
一直線に走ってくる魔物にエフレシアはただ平然と立っていた。
「女性を最初に狙うとは、魔族も卑怯な手を使うんだな」
剣は抜かずに、飛び上がってきた魔物を団長が素手で嬲り倒した。下品な鳴き声を上げながら吹き飛ばされた魔物は身体を半分に切り裂かれ、青紫色の血が地面を染めていた。
次々と向かってくる後の魔物達も同じ様に命を落とし、息一つ乱さずに団長は魔族の青年を見据えた。
「……凄いね。まさか、素手で殺られるとは思ってなかったな。良い技だ。お前は強いんだな」
「残るはキミだけだ。殺り合いたいんだろう?」
「痛いの嫌いなんだよね」
「ならば今すぐ帰れ。迷惑だ」
「そうしたいんだけど……。魔物があと一匹見当たらないんだよねぇ」
「えっ……」
「どっか行っちゃったのかも」
青年が向けた視線の先にはシトラス学園がある。
「わざとか」
「どうかなぁ?魔物は気まぐれだからねぇ」
その直後、学生達の悲鳴が連続して聴こえてきた。
「さっきの子達だ」
「エフレシア!」
団長が止める間もなく、エフレシアとティタは走り出していた。向かうは先程の少女達の元。学園へ戻ったのなら大変な事になる。
もう外には誰の姿もなく、皆避難したのだろう。被害は無い方が良い。
「エフレシア。その先だ」
魔物の気配を感じ取り、ティタが学園の隣りにある寮の方を指した。多くの学生達が暮らす場所だ。魔物一匹たりとも侵入させてはいけない。
「……来ないで!」
金切り声が響き、そちらへ向かう。
見えた先には門の付近で魔物と対面している少女達の姿があった。
魔物はジリジリとその距離を詰めていく。
率いていた教諭の姿が無い。少女達を後ろに庇うようにして前衛に立つ少年。けれど、その手に武器は無い。
「エフレシア。これを使え」
走りながら渡されたのはいつもティタが持っている扇子。使い方もわからなかったが時間もなかったのでそのまま受け取った。
「なによ、これぇ……」
「魔物なんてなんでいるのぉ……」
べそをかく少女達には呆れたが、それでもその子達を守ろうとする少年の姿勢には感服する。
魔物が飛び上がり、口を大きく上げながら少女達に迫った。
だが、間一髪の所でエフレシアが間に合い、借りた扇子で思いっきり魔物を張り倒した。
バチィィンともの凄い音が耳を劈き、地面に叩きつけられた魔物はその衝撃で砕け散った。
「………ありがとう」
扇子にこんな威力があったのかと感心しているエフレシアに、後ろから少年がお礼を言った。
「……え?」
「助けて貰えると思わなかった……。命を救われた。ありがとう」
淡々と感謝を述べる少年に、少女達も見倣って頭を下げた。
「……いやいや……大した事じゃ……」
「怪我は無いか?」
追いついたティタが聞く。
「大丈夫……。扇子ありがとう。超強力だった」
「これは最強の武器だからな。無事で何より」
「うん……」
「……済まなかった」
少年はまた頭を下げながら今度は謝罪した。
「……謝るのはあたしにじゃない。その子に謝って」
エフレシアにそう言われると少年は素直に言う通りにした。腕を怪我していた少女は謝罪されたことに驚いていた。
「さっき、一緒にいた先生は?」
「……魔物が現れたって聞いて、いの一番に逃げ出していった」
「……は?」
「あの先生、強くもないのに威張ってばかりで、いざって時にも生徒を置き去りにして助かろうとする人だから。以前にも似たような事があったし」
少年は依然として淡々と話す。
「それでも教諭か」
「どこに行ったかわかる?」
「学園の中かな。あそこなら一応結界あるから」
「ありがとう」
エフレシアは笑顔でお礼を言った。




