3. 氷の中のぬくもり
「俺たちのこと、覚えていたと思うか?」
「いや。俺たちの姿すら見ていなかった。」
楓の防壁の向こうに広がる謎の地の天使たちが夜ごと北の王国を訪れるようになって以来、氷の戦士たちは多くの天使を討ってきた。しかし、生きたまま地獄の天使を捕らえたのは、これが初めてだった。
戦士たちの隊長たちは、檻を見つめながら穏やかに言葉を交わしていた。
ルーナは分厚い氷の檻の中に閉じ込められていた。地獄の天使である彼女の炎の心臓は、止まるまいと激しく鼓動を打ち続けている。だが、その瞳は心臓ほど強くはなかった。寒さに耐えきれず、固く閉じられていた。
「まるで何も変わっていないみたいだな。」
「ああ。同じ無垢な顔、同じ無垢なまつげだ。」
「あの繊細な手で人を苦しめていたなんて、想像できるか?」
若い戦士の一人が、宮殿の広い石造りの廊下を総隊長室へ向かって駆けていた。
兵士は重厚な木製の扉を勢いよく押し開けた。
「隊長!」
アイマンが叫んだ。
長い廊下を走ってきたアイマンは息を切らしていた。胸は激しく上下している。それでも姿勢を崩すことなく、その場に直立していた。
「どうした、アイマン?」
幸村隊長は声ににじむ不安を隠せなかった。部隊長がこんなふうに息を切らして現れる時は、決まって悪い知らせを運んでくるからだ。
「信玄王がお見えになりました、隊長。」
それも決して良い知らせとは言えなかった。王は来たものの、二人の隊長には報告できる新しい情報が何一つなかったからだ。
「ここを離れるな。」
ボラ隊長が命じると同時に、扉へ向かって歩き出した。
「はっ!」
アイマンは自分の隊長だけでなく、もう一人の隊長の命令にも敬意を込めて応じた。
二人の隊長は王を迎えるため、そろって宮殿の屋上へ向かった。
氷の宮殿が他の戦士たちの宮殿と異なるのは、最も高い山々の頂に築かれていることだけではない。ここは、すべての戦士の宮殿を統括する総本部でもあった。
王は隊長たちとの会議を、いつもこの場所で開いていた。
隊長たちは街の広場を思わせる広大な石造りの屋上へ出ると、雪に覆われた空を見上げた。
白い吹雪が宮殿へと迫ってくる。
やがて吹雪の中から、ホッキョクグマの隊列を率いた王の一行が姿を現した。巨大な熊たちは鉄の鎧だけでなく、王を守るため四方に鋭い視線を巡らせる屈強な兵士たちも背に乗せていた。
そのうちの一頭が隊列を離れ、宮殿の屋上へ舞い降りた。
「幸村隊長。」
白熊にまたがる兵士が、よく通る揺るぎない声で呼びかけた。
その呼びかけは許可を求めるものではない。王の兵士たちは、訪れる先で許しを請うことなど決してなかった。
青い水晶の剣は、他の兵士のように背中ではなく手に握られていた。彼は王直属の護衛隊を率いる隊長だったからだ。
「バルデマール。」
幸村隊長はその名を口にした。
王の一行が宮殿の屋上を雪で覆い尽くすと、一同はそのまま宮殿の中へ入った。
「隊長、その存在は今どこにいる?」
王が尋ねた。
王の歩みは隊長たちに劣らぬほど力強い。長い黒髪は歩くたび、揺れる青いマントに溶け込むようになびいていた。濃紺のロングコートに並ぶ金のボタンは輝きを放ち、肘まで覆う黄金の鎧は飾りではない。王自身もまた、いつでも戦える戦士だった。
「総隊長室におります、陛下。ご覧になりますか?」
幸村隊長は王の右側を歩き、ボラ隊長は左側を進む。
バルデマールはいつも王のすぐ後ろに控え、まるで岩のように揺るがず立っていた。いつでも王のために命を捧げる覚悟をその姿勢に宿しながら、主君に付き従っていた。
「いや。」
王は短く答えた。
「隊長たちを集めろ。」
信玄王は、地獄の天使が捕らえられたと聞くや否や、自ら隊列を率いて宮殿へ駆けつけた。
だが、その天使に会うためではない。
なぜ隊長たちがその天使を生け捕りにし、なぜ今なお生かしているのか。その理由を知りたかったのだ。
「陛下。」
会議室の前で待機していた兵士が頭を下げ、両開きの扉を開いた。
会議室は広々としていたが、中央には豪華な椅子に囲まれた大きな机が一つ置かれているだけだった。
「元気そうだな、アイジャン。」
王が部屋へ入ると、誰もいない机の上座でアイジャン隊長が待っていた。
彼女の姿を目にした瞬間、王の声からは厳しさも威厳も消え去る。
まるで恋する男のようだった。
王にとってアイジャンは、戦士でも隊長でもない。
信玄王にとって彼女は、自らの後宮に迎え入れたいと願う、美しい女性だった。
しかしアイジャンは、王を夢中にさせる豊かな胸元を戦士の装束の下に隠し、氷の宮殿に残る道を選んでいた。
「ありがとうございます、陛下。」
アイジャン隊長は丁寧に頭を下げた。
雪深い山々にそびえる氷の宮殿では、王と戦士たちが王国を守るために集っていた。
一方その頃、村ではいつもと変わらぬ日常が流れていた。
「偉大なる母よ、どうか私たちをお守りください! 子どもたちをお守りください! 家族をお守りください! どうかお願いいたします!」
アスパノの母、マルタは祈りを捧げていた。
家の小さな居間の暖炉の上には、一体の女性像が置かれている。
マルタはその像の前に立ち、ひたすら祈り続けていた。
村では、このような小さな像を飾る家もあれば、まったく像を置かない家もあった。
王国の国境に楓の防壁が姿を現して以来、人々の本当の信仰が表に現れるようになった。
この地の人々は、一つの宗教や一つの信仰だけを信じているわけではない。
ほとんどの村にはそれぞれ独自の信仰があり、ときには家ごとに異なる信仰を持っていることさえあった。
村人たちもまた、生きるために戦っていた。だが、その戦いは氷の戦士たちのように崇高で華々しいものではない。彼らは、わずかな土地を守るために戦っていた。その土地を耕し、これからも生き続けるために必死だった。
「母さん、ダンカン卿の屋敷へ行ってくる。」
アスパノが家に入ると、母は慌てて涙を拭った。
だが、母が涙を流しながら祈っている姿を、アスパノは庭に面した窓から見ていた。母が泣く姿は毎日のように見ていた。そして今日、その原因となった男は死ぬことになる。
アスパノは動物の世話がとても得意だった。まるで動物たちの苦しみが分かるかのように病気を見抜き、特別な薬草で治していた。
その才能は村中で知られていた。しかし、彼を動物の治療に呼ぶのは村人だけではない。領主たちもたびたび彼を招いていた。
領主たちは特別な地位を持つ者ではなかった。ただ広大な土地と大きな屋敷を所有する裕福な男たちだった。
アスパノはダンカン卿の屋敷へ向かった。領主に馬の様子を見てほしいと呼ばれたのだ。道のりは長くはなかった。それでも、その短い道の間に、アスパノの心は暗い思いで満たされていた。
夕方だった。まだ日は沈んでいない。若者は領主の屋敷へ到着した。馬たちは厩舎で彼を待っていた。
「アスパノ。」
厩舎の扉から入ってきたダンカン卿が声をかけた。
「馬たちを見てくれ。ここ数日、どうも様子がおかしいんだ。」
ダンカン卿は中年の男だった。しかし、日に日に太っていく体つきのせいで、実年齢よりも老けて見えた。彼はいつもアスパノを名前で呼んでいた。アスパノやその家族、そして屋敷の周囲に住む者たちを一人ひとり知っていた。幼い頃からアスパノを知っており、不思議なことに彼を信頼していた。
アスパノは何も言わず、ただ丁寧に微笑むと馬たちへ歩み寄った。柵の半分ほどの高さの木戸越しに、馬たちの頭を優しく撫でる。
ダンカン卿は彼に背を向け、向かい側の扉へ歩いていった。
アスパノはその機会を逃すまいと、腰の小さな短剣を静かに抜いた。そして落ち着いた足取りで背後から領主へ近づく。
恐れはなかった。
彼は生きながらにして地獄を見てきた。人が耐え得る限りの苦しみを、この身で味わってきたのだ。
短剣を振り上げ、一瞬の動きで領主の首に突き立てた。
「アスパノ……!?」
ダンカン卿は驚愕と恐怖に満ちた表情でアスパノを振り返る。
自らの血に溺れながら最後に口にした言葉は、彼の名前だった。
巨体は床へと崩れ落ちた。首に深く突き刺さった短剣は、数秒でその命を奪った。
領主が倒れた拍子に、懐から落ちた金貨袋が音を立てた。
アスパノは身をかがめ、領主の亡骸から短剣を引き抜く。血に染まった刃を領主の高価な服で拭い、再び腰へ収めた。
傍らに落ちた金貨袋を見つめたが、手に取ることはなかった。
アスパノは信仰深い家族と、信仰深い村で育った。この村では人それぞれ信じる宗教は違っていても、悪行に対する報いは皆同じだと考えられていた。
アスパノは、この殺人によって地獄へ堕ちることはないと信じていた。
なぜなら、この罪の代償はすでに支払っていたからだ。
しかも、自ら地獄の支配者たちに。
アスパノは領主を殺したが、死体をそのまま放置するつもりはなかった。屋敷へ来るところを誰にも見られてはいない。
だが、彼にはもう一つ気がかりなことがあった。
この村では、殺人は村人への不当な仕打ちのように日常茶飯事の出来事ではなかった。
「逃げろ。」
若者はそう言った。
アスパノは厩舎の扉を開け放つ。馬たちが一斉に外へ駆け出すと、厩舎に火を放った。
誰もがダンカン卿を強欲な男だと知っていた。しかし彼は、ときどき村人に金を貸していた。アスパノの家族も借金をしていた。
やがて、彼がなぜ村人に金を貸していたのか、その理由が明らかになった。
領主は、自分の屋敷の周囲にあるすべての畑や土地を手に入れようとしていた。
人々に金を貸し、返済できなくなった者が現れると、そのわずかな借金と引き換えに畑の一部を取り上げていたのだ。
若者が家へ帰る頃、その顔には悲しみと安堵が入り混じった微笑みが浮かんでいた。
もう母は涙を流しながら祈ることはない。
アスパノはダンカン卿の借金の罠から、自分の家族だけでなく、近所の人々までも救ったのだった。
信玄王の護送隊は氷の宮殿から遠ざかっていった。
その姿が見えなくなると同時に、隊長たちは宮殿の治療室へ向かった。
地獄の天使に救われた負傷兵が目を覚ますと、隊長たちはすぐに彼を取り囲んだ。
彼らは次々と質問を投げかけたが、何一つ答えは得られなかった。
若き戦士は苦痛のあまり意識を失っていたため、何も見ておらず、何も聞いていなかったのだ。
残された手段は、氷の檻を壊すことだけだった。
「アイマン、檻を壊せ。」
ユキムラ隊長が命じた。
アイマンはボラ隊長の命令どおり、一瞬たりとも檻のそばを離れていなかった。
分厚い氷の檻は、部屋の中央で巨大な箱のように鎮座していた。
隊長たちはその前に立ち、じっと見つめる。
アイマンは檻へ近づき、背中の剣を抜くと、一太刀で氷の檻を粉々に砕いた。
檻が崩れ落ちると、ルーナは砕け散った大きな氷塊の中に横たわったままだった。
しかし、天使はまだ目を開けなかった。
部屋には誰一人として声を発する者はいない。
皆、ただ待っていた。
ルーナが目を覚ますのを。
やがて地獄の天使は、まず腕を床につき、それからゆっくりと頭を持ち上げた。
冷たい氷の檻は、彼女の体力を大きく奪っていた。
重そうにまぶたを開き、隊長たちを見つめる。
そして両膝を床につき、ゆっくりと立ち上がった。
氷の破片の中から姿を現すと、翼を流れる溶岩は再び燃え始めた。
とはいえ、その輝きはまだ弱々しかった。
ルーナは翼を軽く振り、付着した氷の欠片を払い落とす。
だが、アジャン隊長はそれを攻撃の合図だと勘違いした。
とっさに腕を突き出し、手のひらを開く。
その瞬間、山々を凍てつかせるような冷気が魂と一つになったかのように、空気を氷へと変えていく。
アジャンの掌から、岩のように巨大な三つの氷塊が勢いよく放たれた。
寒さでまともに目も開けられないルーナは、不意に地面へ倒れ込んだ。隊長が放った氷の破片が、彼女の翼に激しく叩きつけられたのだ。
「外へ出ろ。」
幸村隊長は、静かだが厳しい声で命じた。
アジャンは驚いたように幸村隊長を見つめた。しかし、隊長の視線はルーナだけに向けられていた。
彼を驚かせたのは、自分に退室を命じたことではない。本当に驚いたのは、幸村隊長が地獄の天使へ向けるその眼差しだった。まるで敵を見るような目ではなかった。その瞳には、別の何かが宿っていた。
アジャンには、それが何なのかは分からなかった。しかし、このまま見過ごすつもりはなかった。
アジャン隊長が部屋を出るとすぐに、ボラ隊長はルーナに歩み寄り、その腕をつかんで立ち上がるのを手伝った。
「アイマン、リンゴを持ってこい。」
と、ボラ隊長は言った。
「リンゴですか?」
隊長たちの命令には決して逆らわないアイマン司令官も、さすがに戸惑った。もちろん持ってくるつもりだったが、なぜ今リンゴなのか理解できなかった。
「赤いリンゴだ。」
と、幸村隊長が言う。
アイマンは驚きを隠せないまま、隊長を見つめた。
「青リンゴと塩も。」
ボラ隊長が付け加えた。
ボラ隊長はルーナの腕を支えながら、彼女を机の前まで連れて行った。
「赤だ。」
幸村隊長は短く言った。
アイマンには何が何だか分からなかった。ただ一つ分かったのは、赤いリンゴと青リンゴをそれぞれ皿に載せて、急いで持ってくる必要があるということだけだった。
アイマンが部屋を出ると、室内は静まり返った。
ルーナは机の向こう側に座り、隊長たちはまるで看守のように彼女の前へ立っていた。
アイマン司令官が戻ってくるまで、その沈黙が破られることはなかった。
「お持ちしました、隊長。」
若い戦士はそう言って部屋へ入ると、果物の載った皿をそっと机の上に置き、一歩下がった。
ルーナはまず幸村隊長を見つめ、それからボラ隊長へ視線を移した。
二人の隊長は短く目を合わせた。まるで、彼女がどちらのリンゴを選ぶのかを期待しながら待っているようだった。
ルーナは目の前のリンゴを見つめると、ゆっくりと手を伸ばし、細い指で赤いリンゴを一つ取った。
その瞬間、幸村隊長とボラ隊長は再び視線を交わした。
今度は幸村隊長の口元に、かすかな勝利の笑みが浮かんでいた。
ルーナはリンゴを数口かじった。
「働き始めてどれくらいだ?」
幸村隊長が尋ねた。
その声には怒りが滲んでいた。まるで、まったく予想もしなかった相手に裏切られたかのようだった。
「今日が初日でした。」
ルーナはゆっくりと視線を机へ落とした。
「なぜ彼を助けた?」
ボラ隊長が興味深そうに尋ねる。
「死にかけていたからです。」
ルーナの声は落ち着いていたが、その表情と眼差しには戸惑いが浮かんでいた。
まるで、その質問自体が理解できないと言わんばかりだった。
「兵士を助けたあと、なぜそのまま去らなかった?」
幸村隊長は、いちばん知りたかったことを尋ねた。
しかし、ルーナは再び視線を逸らし、何も答えなかった。
幸村隊長とボラ隊長が氷の宮殿で地獄の天使を尋問している間、ほかの隊長たちはそれぞれ任務に就いていた。
ハンス隊長は白い熊に乗り、村へ向かって飛んでいた。その後ろには六人の兵士からなる部隊が続き、周囲を警戒していた。
「来るわ。」
リディアが言った。
「赤ちゃんはちゃんと隠した?」
リディアは、つい最近子どもを産んだばかりの、ごく普通の村の女性だった。
彼女は夫とともに家の庭に立ち、近づいてくる兵士たちを待っていた。
ハンス隊長たちが家の前までやって来る。
庭が狭かったため、大きな熊たちは通りへ降り立った。
リディアの近所の人々も通りへ集まり、何が起こるのかと固唾をのんで見守っていた。
「赤ん坊はどこだ?」
ハンス隊長は古びた木製の門を開けながら尋ねた。
「亡くしました、隊長。」
リディアの夫は、悲しみをにじませるようにそう答えた。
しかし、ハンス隊長は、この作り物の悲しみも、この手の嘘も初めてではなかった。
「赤ん坊を見つけろ。」
ハンス隊長はリディアの夫から視線を外すことなく、兵士たちに命じた。
若い兵士たちは命令を聞くや否や、四方へ散っていった。一人はリディアの家の中を捜索し、ほかの者たちは近隣の家へ向かった。
生まれたばかりの赤ん坊を遠くまで連れて行けるはずがない。赤ん坊は自宅にいるか、あるいは近所の誰かの家に隠されているはずだった。
「隊長、赤ん坊を見つけました!」
若い兵士は隣家から飛び出してくると、大きな声でそう報告し、赤ん坊をハンス隊長のもとへ連れてきた。
「さあ、おいで。小さな兵士。」
ハンス隊長は、その鋭い眼差しだけで若い兵士たちを従わせることができた。
だが、生まれたばかりの赤ん坊を腕に抱くたび、その顔には穏やかな笑みが浮かんだ。
今回も同じだった。
「結晶がある。」
ハンス隊長は赤ん坊を抱き上げ、小さな体を丁寧に確かめると、手帳を持って待機していた兵士へ視線を向けた。
「違います、隊長!」
リディアは泣きながら叫んだ。
「あれは結晶じゃありません。」
リディアは、目の前にある事実を必死に隠そうとしていた。
しかし、もう手遅れだった。
「新しい兵士として登録しろ。」
隊長はそう言うと、生まれたばかりの赤ん坊の両親を見た。
「名前は?」
「ルニ・ヴェルクです、隊長。」
父親は、これ以上話を長引かせて隊長を怒らせても意味がないと悟り、赤ん坊の名前を口にした。
兵士はその名を手帳に書き留めた。
ハンス隊長は赤ん坊をゆっくりと母親へ返した。
新しい兵士の登録を終えると、ハンス隊長は兵士たちを率いて宮殿へ戻っていった。
氷の宮殿では、地獄の天使への尋問はすでに終わっていた。
ルーナは再び隊長室にいた。
だが今度は氷の檻の中ではない。
両腕と翼を壁につながれていた。
夜も更けた頃だった。
広い窓から差し込む月明かりが、部屋の隅をわずかに照らしているだけだった。
ルーナは暗闇が嫌いだった。
光に満ちた地獄の真っ白な石造りの宮殿を、一日中輝き続け、夜になっても決して光を失わない太陽を恋しく思っていた。
ルーナは眠ることができなかった。
扉の前、闇の中で誰かが自分を見つめているからだった。
姿は見えなくても、その者から漂う冷気を翼で感じていた。
彼女にできるのは、不安そうな眼差しで、姿の見えない闇を見つめ続けることだけだった。
アジャン隊長は、今日目にしたあの視線が頭から離れなかった。
闇の中に立ち、地獄の天使を見つめ続けていた。
やがて決意すると、再び両手を広げ、ルーナへ向けた。
その掌から伸びた長く鋭い氷は剣のようだったが、それよりもさらに太かった。
鋭い氷は放たれた瞬間、地獄の天使の翼へ深く突き刺さった。
その瞬間、アジャン隊長は慌てて両手で耳を塞いだ。
翼に突き刺さった氷の激痛による地獄の天使の悲鳴は、まるで彼の脳裏に焼き付いているかのようだった。
「ユキ!」
悲痛な叫びのあと、地獄の天使は叫んだ。
「助けて!」
アジャン隊長は、自分が聞いたものが現実なのか確かめるように、耳を塞いでいた手をゆっくりと下ろした。
悲鳴が響いてからわずか数秒後、宮殿の広く暗い廊下に足音が響いた。
誰かが隊長室へ向かって全力で駆けてきていた。
アジャン隊長は、やって来る人物に見つからないよう、廊下の暗い片隅へ身を隠した。
後ろを振り返ることさえせず、まっすぐルーナのもとへ駆け寄る幸村隊長の姿を見た瞬間、彼は胸を痛めた。
自分の疑いが正しかったからだ。
「ルーナ!」
隊長の声には恐怖が滲んでいた。
地獄の天使の身に何かあったのではないかと恐れていたのだ。
幸村隊長なら、あの悲鳴は地獄の第七階層にいても聞き取れただろう。
「誰がこんなことをした?」
幸村隊長は、ルーナの翼に突き刺さった鋭い氷を一本ずつ抜いていった。
大きな氷の塊を取り除くと、地獄の天使を縛っていた鎖も外した。
翼から氷が抜け落ちた瞬間、ルーナは意識を失い、そのまま幸村の腕の中へ倒れ込んだ。
隊長はその場に膝をついた。
地獄の天使の頭を自分の膝にそっと乗せると、髪を優しくなでながら、悲しげな眼差しで彼女を見つめ続けた。
アジャン隊長もまた、暗闇の片隅から同じような眼差しで幸村隊長を見つめていた。




