2. 二人の死者、一つの葬儀
四方を緑のプラタナスの木々に囲まれた地獄は、滅びまいと戦い続けていた。
白い丘のあいだには、見渡す限り何もない広々とした土地が広がっていた。その場所は砂漠のように見えた。乾ききり、生き物の気配がまるでなかったからだ。
だが、本当の砂漠ではない。砂漠と呼ぶには、それほど広大ではなかった。
そのため、地獄の天使たちはその場所を「小さな砂漠」と呼んでいた。
その小さな砂漠の一つでは、大地は今日もひび割れるほど乾ききっていた。上空から見下ろすと、白く乾いた地面に刻まれた深く大きな亀裂が、まるで模様のように広がっている。その亀裂の奥深くからは、ときおり赤い溶岩がほのかに光を放っていた。
地獄では、すべてが白かった。
太陽さえも黄色や橙色を失い、一日中、真っ白な光だけを降り注いでいた。
その小さな砂漠の一つで、地面の大きな亀裂がゆっくりと広がり始めた。
普段、この場所を訪れる者はいない。
だが、ごくたまに、この砂漠を越え、丘の上を飛び去る天使たちの姿が見えることがあった。
彼らは地獄の七人の戦天使だった。
七人の天使が、この地獄の真っ白な大地を目にできるのは、一年のうちわずか数日だけだった。
今日は、その数少ない日の一つだった。
乾ききった亀裂が大きく開くと、七人の天使は地獄の深淵から姿を現し、大空へと舞い上がった。
「アモノ?」
「ここだ。」
「パンレ?」
「ここだ。」
ヴェルヴェクが亀裂のあいだから姿を現した瞬間、降り注ぐ陽光が彼の目を眩ませた。
彼は大きな翼を身体の前で重ね、顔をその影へ隠す。
そして、七人全員が無事に出てきたことを確かめるため、一人ずつ名を呼び始めた。
「コスタ?」
「ここだ。」
七人の天使は、誰もが同じ力を持っていた。
誰一人として、他の者より強くも優れてもいない。
その姿さえ、ほとんど見分けがつかなかった。
短い黒髪。
底知れぬ闇を宿したような黒い瞳。
広い肩に、長く力強い脚。
その身体は、まるで筋肉だけで形作られているかのようだった。
決して大きく盛り上がった筋肉ではない。
それでも、その肉体には圧倒的な力強さがあった。
それほど強くなければ、背に生えた巨大で重い竜の翼を支えることなどできないからだ。
彼らの威圧的で荘厳な姿は、決して問題ではなかった。
七人の天使の美しい顔立ち、傷ひとつない肉体、そして力強い翼を目にした者は皆、その恐ろしい存在であることさえ忘れてしまうのだから。
「テロ?」
「ここだ。」
「ヤンニ?」
「ここだ。」
ヴェルヴェクは裸足のまま乾いた地面に立ち、翼を広げることもなく、仲間たちの名を呼び続けた。
ヴェルヴェクには、ほかの六人と違って見えるところは何一つなかった。
ただ一つ違うのは、彼が六人を率いる七人目――隊長だったということだけだ。
その役目は、彼自身が望んだものでも、仲間たちが選んだものでもない。
地獄の主、ヴォルカンによって与えられた役目だった。
「ヴィクト?」
ヴェルヴェクが七人目の名を呼んだ。
だが、返事はなかった。
「ヴィクト?」
ほかの天使たちは亀裂から姿を現すと同時に、大きな黒い翼を広げて空へ舞い上がっていた。
「ヴィクトがいない。」
テロが言った。
テロは翼を広げたまま、宙に静かに浮かんでいた。
目を閉じ、両腕を広げ、かすかな微笑みを浮かべながら太陽へ顔を向けている。
地獄の深層の灼熱を抜けてきた彼にとって、照りつける太陽の光は、むき出しの胸をむしろ心地よく冷ましてくれるものだった。
「ヴィクトはどこだ?」
ヴェルヴェクが尋ねた。
彼はまだ眩しさで目を開けられずにいた。
「……ここだ。」
かすれた声が返ってきた。
ほかの天使たちは一斉に周囲を見回した。
そのとき、ヴィクトが短剣を固く握りしめたまま姿を現した。
七人の天使は、それぞれ一本ずつ短剣を持っていた。
その短剣は細長く、剣にも見えるほどだった。
「ずいぶん使い込んだようだな、その短剣。」
アモノが言った。
ヴィクトは亀裂から這い出てきたものの、その場で両膝をついた。
疲れ切っていて、もう身動き一つできない。
両手を地面につき、うつむいたまま荒い息をついている。
翼は力を失ったかのように地面へ投げ出されていた。
黒いズボンの裾から滴り落ちる赤い血が、白い大地を静かに染めていった。
アマノは、仲間が衰弱して今にも倒れそうになっているのを見ると、すぐに駆け寄った。ヴィクトの腕を自分の肩に回し、もう片方の腕で腰を支えながら立ち上がるのを手伝う。
日差しの中で涼んでいたテロも目を開け、地上へ降りてきた。そしてヴィクトの姿を見ると、顔に浮かんでいた笑みは静かに消えた。
「次はお前だ。」
コスタはそう言って、テロのむき出しの肩を軽く叩いた。
「さあ、みんな帰れ。休息の時間だ。」
ヴェルヴェクはそう告げると、大きな翼を左右へ広げた。
その頃、地獄の反対側ではチャナルの木々が風に揺れ始めていた。人間の王国から、地獄の主たちと店番の天使たちが戻ってくるところだった。
「ご主人様……」
ヴェヴァリアが遠慮がちに声をかける。
先頭を飛んでいたのは、ヴォルカンと弟のゼヴィアン。その後ろを、店番の天使であるヴェヴァリアとビオラが続いていた。
一行はチャナルの防壁を越え、白い丘へとたどり着く。遠くには白い石造りの家々が見え始めていた。
店での一日の仕事が終わると、天使たちはいつもこうして一緒に帰路につく。日によっては、店番たちが主とともにその宮殿へ向かうこともあった。
だが今日は、いつもの日ではない。
地獄の主は妹を失ったばかりだった。そのためヴェヴァリアは、今日は宮殿へ同行するのかどうか尋ねることをためらっていた。主人の悲しみを前に、自分の都合を優先するような真似はしたくなかったのだ。
それでも、今日はどうしても確認しなければならなかった。
今日は、長い別れの末に夫と再会できる日だったからだ。
「今日は家へ帰っていい。」
ヴォルカンは穏やかな声でそう言った。
ヴェヴァリアたち店番は、いつもヴォルカンを「ご主人様」と呼んでいた。ヴェヴァリアは長年、彼の店番として仕えている。
ヴォルカンは問いを聞く前から、「ご主人様」と呼びかけた彼女の声色だけで、何を尋ねようとしているのかを悟っていた。
返事を聞くと、ヴェヴァリアとビオラは恭しく軽く頭を下げ、その場を後にした。
事情は理解していたものの、ゼヴィアンの胸にはヴォルカンへの怒りが渦巻いていた。
何があろうと、ルーナをあそこへ置き去りにするべきではなかった――そう思っていた。
「父上には何て話すつもりなんだ?」
ゼヴィアンは兄の後を追いながら、アカンポラ宮殿へ向かって飛ぶ。
「真実を話す。……ルーナは死んだ、と。」
ヴォルカンは一度も振り返ることなく答えた。
その声にはかすかな悲しみが滲んでいた。しかし、ついさっき妹を失った者とは思えないほど冷静だった。
重いガラスの翼が風を切る音を響かせながら、彼は街の上を飛んでいく。
「ルーナは死んでない!」
ゼヴィアンは声を荒らげた。
その怒鳴り声に、ヴォルカンはわずかに眉をひそめる。
今日のゼヴィアンは、兄に対して何度も声を荒らげていた。
地獄の主としての忍耐も、限界に近づいていた。
それでもヴォルカンは、もう一度だけ弟を許した。
二人とも妹を失ったばかりなのだ。
だから今日だけは、地獄の主ヴォルカンではなく、兄としてのヴォルカンでいたかった。
ルーナの死を、兄弟として受け止めたかった。
ふいに、ガラスの翼が風を切る音が止んだ。
ヴォルカンは静かに振り返り、痛みを宿した眼差しでゼヴィアンを見る。
「氷の戦士たちに捕らわれて、生きて帰った天使が今まで一人でもいたか?」
静かな声でそう尋ねた。
地獄の天使たちが人間の王国で店を開くようになって以来、多くの天使が命を落としてきた。
氷の戦士たちは、地獄の天使に情けをかけることは決してない。
問いかけではあったが、その答えは誰もが知っていた。
ゼヴィアンは悲しむどころか、さらに怒りを募らせる。
何も言わず、大きな翼を力強く羽ばたかせながら飛び続けた。
ヴェヴァリアとビオラは主人と別れると、それぞれ急いで自宅へ向かった。
ヴェヴァリアが家へ着くと、大きな両開きの扉は大きく開け放たれていた。
「あなた……」
彼女は嬉しそうに小さくつぶやく。
玄関の扉が開いている理由は、一つしかない。
ヴェルヴェクが帰ってきたのだ。
ヴェヴァリアは翼をたたむこともなく、足を地面につけることさえせず、そのまま家の中へ飛び込んだ。
目の前に夫の姿を見つけた瞬間、その微笑みは喜びに満ちた笑顔へと変わる。
「会いたかった!」
ヴェルヴェクはそう言って彼女を強く抱きしめた。
七人の天使は、地獄で最も美しい存在とされている。
ヴェルヴェクは、その七人の中の一人だった。
そんな美しい存在に愛されるほど、自分が何か特別なことをしたとはヴェヴァリアには思えなかった。
それでも、彼の愛こそが自分の生きる理由だった。
久しぶりに夫と再会したヴェヴァリアは、しばらく何も言わず、その温もりを確かめるように抱きしめ続けた。
ようやく名残惜しく腕を離すと、何も準備をしていなかったことを思い出す。
ここ数日は忙しく、夫の帰りを迎える支度が何一つできていなかった。
「すぐに本を用意するわ。それから果物の籠も。すぐ終わるから。」
ヴェヴァリアは慌てた様子で言った。
夫が帰ってくるたび、二人は一緒に休暇へ出かけるのが習慣だった。
ヴェルヴェクの好きな本を集め、大きな果物籠を用意すると、そのまま二人で家を出るのだ。
「そんなに慌てなくていい。」
ヴェルヴェクは微笑んだ。
「まだここにいる。どこにも行かないよ。」
ヴェヴァリアは慌てて抱えていた本を石の机へ置き、ゆっくりと夫のもとへ歩み寄る。
その顔には、恋しさに満ちた穏やかな笑みが浮かんでいた。
「ええ。でも、一緒にいられるのはほんの数日だけだから。」
やっと再会できたばかりなのに、もう別れが惜しかった。
ヴェヴァリアはヴェルヴェクの前に立つと、燃えるような瞳を見つめながら、その黒髪を優しく撫でた。
七人の天使が帰還する日、再会を果たした恋人たちはヴェルヴェクとヴェヴァリアだけではなかった。
ビオラもまた、七人の美しい存在の一人に愛された幸運な天使だった。
恋人たちは皆、愛し合っている。
けれど、その愛の形はそれぞれ違う。
ヴェルヴェクとヴェヴァリアが一緒に旅へ出る支度に胸を弾ませている一方で、ヴィクトはただ妻を抱きしめ、何日も石の寝台から離れずに過ごすつもりでいた。
ビオラは家の扉をくぐると、ヴィクトの姿が見えないことに気づき、不安を覚えた。急いで寝室へ向かう。
「あなた……」
部屋へ入ると、ヴィクトは横向きに寝ていた。まるで激しい痛みに耐えているかのように体を丸め、膝を抱え込み、翼を胸の前へ寄せている。
ビオラの声を聞くと、ヴィクトは力なく顔を上げ、彼女を見た。
「どうしてこんなに遅かったんだ……?」
かすれた声でそうつぶやく。
石の寝台からゆっくりと顔を持ち上げたものの、起き上がる力は残っていなかった。その声には、恋しさと悲しみ、そして苦しみが滲んでいた。
「帰ってきたわ、あなた。」
ビオラは寝台へ歩み寄ると、何も言わずヴィクトの隣へ横になった。
言葉は必要なかった。
彼が今、何を求めているのかを彼女はよく知っていたからだ。
ヴィクトが翼を広げると、ビオラの体はその中へすっぽりと包まれる。
二度と離すまいとするように彼女を強く抱きしめ、静かに目を閉じた。
一方その頃、ヴォルカンとゼヴィアンは円形のアカンポラ宮殿へ到着していた。
白い石で築かれた巨大な宮殿は中央が大きく吹き抜けになっており、降り注ぐ陽光が円の中心にある中庭を明るく照らしていた。中庭に植えられた果樹の緑だけが、その白い宮殿に彩りを添えている。
二人は広い中庭へ降り立った。
「おかえり。」
メヴェッサ王妃が優しく声をかける。
息子たちが人間の王国から無事に戻るたび、王妃は安堵の息をつき、必ず抱きしめるのだった。
溶岩を滴らせる翼を背中でたたみながら、メヴェッサはヴォルカンへ歩み寄る。
まず長男を抱きしめ、続いてゼヴィアンを抱きしめた。
兄弟は二人とも黙ったままだった。
まるで誰も最初の一言を口にする勇気が出ないかのようだった。
「ルーナは?」
ボルヴェンが尋ねた。
ボルヴェンはアカンポラ家の次男である。
兄弟たちが戻ってきたのを見ると、王と王妃の待つ中庭へ降りてきた。
翼は片方しかないにもかかわらず、彼は難なくバルコニーから飛び降りていた。
「ルーナは死んだ。」
ヴォルカンは静かに答えた。
地獄の主は、ほかの天使の訃報を告げる時と同じように、冷静に、涙一つ見せることなくその言葉を口にした。
その知らせを聞いた瞬間、王妃は膝から崩れ落ちた。
「私の娘が……」
涙を流しながら震える声で言う。
「死んでしまったの……?」
母が倒れるのを見ると、ボルヴェンとゼヴィアンはすぐに駆け寄った。
両腕を支え、石畳の上から王妃を立ち上がらせる。
一方、王はその知らせを聞いても表情一つ変えなかった。
ただ、その眼差しだけがわずかに変わる。
そこには安堵にも似た、小さな喜びの色が浮かんでいた。
ヴォルカンも母を気遣っていた。
だが彼は地獄の主である。
感情を容易に表へ出すわけにはいかなかった。
白髪となった年老いた王は、黒い喪服に身を包んでいた。
しかし、その喪服はルーナのためのものではなかった。
王は巨大な黒い竜の翼を広げると、中庭からそのまま空高く舞い上がる。
その反応に、ヴォルカンは少しも驚かなかった。
「父上はどちらへ?」
父の背中を見送りながら、ヴォルカンは尋ねる。
王妃の腕を支えたまま、ボルヴェンは顔を上げた。
「年寄りのドイェナルテ家の一人がくたばった。」
淡々と言う。
「葬儀だ。」
ボルヴェンは長身で逞しい体つきをしており、長い髪と青い瞳までヴォルカンと瓜二つだった。
見分けるための違いがあるとすれば、ボルヴェンの長い髪は黒いことくらいだ。
翼もガラスの翼ではなく、ほかの兄弟たちと同じ、溶岩を滴らせる黒い竜の翼だった。
「言葉を慎め。」
ヴォルカンは鋭く言い放った。
ドイェナルテ家は、地獄の三大王家の一つである。
ヴォルカンが何よりも嫌うのは、無礼な振る舞いだった。
地位や身分に関係なく、誰もが互いに敬意をもって話し、敬意をもって接するべきだと彼は考えている。
それがヴォルカンの絶対に譲れない信条だった。
ボルヴェンの乱暴な物言いは、その信条に反していた。
だからヴォルカンは、怒りを隠そうともせず弟を戒めた。
「慎まなかったら、どうする?」
ボルヴェンは怒りを露わにして言った。
まっすぐヴォルカンを見据えながら、王妃の腕を静かに離し、一歩ずつ兄へ近づく。
「また俺を罰するのか?」
その瞳には怒りが燃え、声には憎しみが滲んでいた。
だがヴォルカンの目に映っていたのは、怒っている弟ではない。
深く傷ついた弟だった。
怒りの奥に隠されたその悲しみに気づいたヴォルカンは、静かに一歩後ろへ下がる。
ガラスの翼が音を立てて広がった。
そしてヴォルカンは、ドイェナルテ家の葬儀へ向かうため、宮殿の中庭を後にした。
七人の天使たちは、それぞれ自宅へ戻っていた。
家で伴侶が待っている者もいれば、伴侶と子どもたちが待っている者もいる。
そして、誰も待たない静かな家へ帰る者もいた。
テロもまた、地獄の深層で太陽の光もその穏やかな温もりも届かない一年を過ごし、ひどく疲れ切っていた。
それでも家へ帰れば、妻と娘に会える。
たとえほんの数日だけでも、家族と過ごす時間は、太陽の光よりも彼の心を温めてくれるのだった。
「ラヴェナ?」
テロは家へ入った瞬間、何かがおかしいと感じた。
妻のラヴェナは広いテーブルの向こうに座っていた。
長い髪を無造作に後ろで束ね、その顔には深い疲労と悲しみが刻まれている。
それは、たった今起きた出来事による悲しみではなかった。
彼女の表情に宿る痛みは、何日も、いや何週間も前から積み重なってきたものだった。
これほど深く、それでいてなお生々しい悲しみは、ほんの数時間や一日で生まれるものではない。
「どうしたんだ?」
テロはテーブルへ歩み寄る。
彼はまだ何が起きたのか知らない。
ただ、妻の顔に刻まれた痛みと悲しみだけを見つめていた。
テロは「七人の美しき存在」の一人であり、「七人の天使」の一人でもあった。
その姿はただ美しいだけではない。
誰よりも逞しく鍛え上げられた肉体と、人目を引く端正な顔立ちを持っていた。
だが、七人の天使が恐れられていた理由は、その美しさではない。
彼らの所業を耳にした天使たちは翼を震わせ、彼らの手に握られた血に染まった短剣を目にした幼い天使たちは、怯えて逃げ隠れた。
地獄の天使たちは、七人の天使の力を神の力に並ぶものだと語っていた。
それほどの力を持つ彼らにも、唯一の弱点があった。
それは家族だった。
地獄の第七階層にまで降り、想像を絶する責め苦を見続けてきた七人の天使でさえ、家族を失うことだけは死ぬほど恐れていた。
「何があった?」
テロはそう尋ねた。
だが、その声には恐れが滲んでいた。
恐る恐る机へ歩み寄り、会いたくてたまらなかった妻の髪を、おそるおそる撫でる。
ようやく言葉を交わせると心待ちにしていたラヴェナの名を呼ぶことさえ、怖かった。
ラヴェナは痛ましげな眼差しで夫を見つめていた。
これから彼が何を知り、どれほど苦しむことになるのかを、彼女は知っていたからだ。
同じ苦しみを、数週間前に自分も味わった。
そして今度は、自分がこの世で誰よりも愛するテロが、その痛みに打ちひしがれる姿を見届けなければならない。
それを見れば、自分の傷もまた深く疼き始めることも分かっていた。
ラヴェナは全身の力を振り絞って立ち上がる。
衰えた身体は、立っているだけでも精一杯だった。
黒い長いドレスをまとっていたが、その日の装いは普段のものとは違っていた。
それは、葬儀のための喪服だった。
「……私についてきて。」
ラヴェナはかすれた声で言った。
テロは眉をひそめ、不安そうな眼差しで彼女を見つめる。
ラヴェナは夫の手を取り、寝室へと導いた。
まだ何も知らないはずなのに、胸のどこかで悟ってしまったかのように、テロの足取りはひどく重かった。
二人は静かに部屋へ入る。
その瞬間、目の前に広がる光景に、テロの足から力が抜けた。
その場に膝をつく。
「娘……っ!!」
悲痛な叫びが部屋に響く。
小さな石の寝台の上には、五歳の娘が冷たく横たわっていた。
母親によく似た、黒髪と白い肌を持つ、小さく愛らしい天使の少女。
その亡骸だけが、静かにそこにあった。
テロは震える身体で立ち上がる。
娘のもとへ行かなければならない。
最後にもう一度だけ抱きしめなければならない。
地獄の天使にも死は訪れる。
だが、その葬り方は人間とは違っていた。
亡くなった天使を埋葬するためには涙が必要だった。
亡き者を、自分の命と同じくらい愛していた者の涙が。
幼い天使を命よりも愛していたのは、その両親だった。
ラヴェナは何日も娘の亡骸に寄り添い、涙を流し続けた。
娘へ捧げるべき涙は、すべて流し尽くした。
今度は父親の番だった。
テロは寝台へ歩み寄る。
苦しみに震える両手を、小さな娘へそっと伸ばした。
最後に触れる覚悟など、まだできていない。
それでも、そうしなければならなかった。
何日も眠り続けている小さな天使を、ようやく送り出す時が来たのだ。
テロは残されたわずかな勇気を振り絞り、娘をそっと抱き上げた。
胸へ抱き寄せた瞬間、涙は堰を切ったように溢れ出す。
腕と翼で、小さな身体を包み込む。
だが、やがて彼は翼を広げなければならなかった。
流れ落ちた涙が、娘の冷たい顔へと降り注いだからだ。
涙は止まらなかった。
それでもテロは翼を開き、腕の中で小さな岩へと姿を変えた娘を、最後に静かに見つめた。
これで、小さな天使は葬儀を迎える準備が整った。
テロは娘が変わり果てた小さな岩を抱いたまま、家の外へ出る。
ラヴェナは再び溢れ出した涙を止めることができなかった。
だが今、彼女が流している涙は娘のためではない。
夫が味わう耐え難い苦しみのためだった。
二人が外へ出ると、家の前には小さな天使の葬儀のため、多くの近隣の天使たちが集まっていた。
テロは娘を神のもとへ送り届けることを急がなかった。
折れてしまったかのように重く翼を羽ばたかせながら、白き谷へ向かって飛んでいく。
ラヴェナと、葬儀に参列する天使たちも、その後に続いた。
白き谷へと続く広い土の道で、二つの人の群れが一つになった。
二つの葬列が、道の途中で出会ったのである。
ドイェナルテ家は、年老いた伯父の葬儀のために集まっていた。
ヴォルカンはその一団の中から静かに歩み出る。
目の前には、「七人の天使」の一人であり、自らの戦士でもあるテロが立っていた。
すべてを失ってしまったかのような姿だった。
ヴォルカンは彼の前まで進み、敬意を込めて翼を静かに下ろす。
「帰還、おめでとう。」
穏やかな声でそう告げた。
そして軽く頭を垂れ、テロの腕に抱かれた小さな岩へ目を向ける。
それは、亡き天使へ最後の別れを告げるときに捧げる言葉だった。
やがて一行は白き谷へ到着する。
白き谷は、高く連なる白い丘に囲まれた広大な谷だった。
地面も白いはずだった。
しかし今では、その姿は見えない。
無数の小さな岩が、大地を埋め尽くしていたからだ。
谷へ着くと、人々は再び二つの集団に分かれた。
ドイェナルテ家は谷の反対側へ移る。
幼い娘との最後の別れを迎える両親を、静かに見守るためだった。
二つの集団が離れたあとも、ヴォルカンだけは、自分の一族のもとへ戻らなかった。
まるで自分だけ別の場所に属しているかのように、彼はテロのそばに立ち続けていた。
「帰還、おめでとう……娘よ。」
テロは涙を流しながらそう語りかける。
そして最愛の娘へ最後の別れを告げると、腕の中の小さな岩を、静かに白き谷へと置いた。




