ねえ、ゲルゲル元気?
マドリアナと勝負の約束をしてから、二週間の月日が経とうとしていた。
その間、何の成果も得られないまま。
「どうしよう、リムル」
「そう言われましても……」
私はリビングの机に頬を押し付けて、困り顔のリムルを何も考えずにじっと眺める。
人間の王女というくらいだから、相当に舌が肥えているんだろうなぁ、とか。
そもそも、私が考えた程度のパンなんて、先んじてだれかが考えているんだろうなぁ、とか。
パンを思いつくたびにそんな考えが脳裏をよぎって、なかなか「これだ!」というものが思い浮かばない。
「リムル、パンに小麦粉を混ぜたら美味しいかな」
「ベア様、悪いことは言いません。治癒院の先生に頭を見てもらいましょう」
「そうだ。ゲルゲルの体液を混ぜ込んで見たら、美味しいに違いない!」
「マーサさん! 助けてください! ベア様の目が! 目が!」
リムルが慌てて厨房のマーサを呼びに行った。
まったく、落ち着きのない従者だ。今度、きちんと一度話した方がいいかもしれない。
面談というやつだ。
まあ、それはさておき。
そろそろ孤児院に行く時間だし、準備するとしよう。
マーサに治癒院に連れていかれる前にパン屋を出た私は、そのまま孤児院へと向かう。
ここ二週間ほど、三日に一回が二日に一回になり、つい一昨日あたりから、ついに毎日通うこととなった。
「こんにちはー」
孤児院の扉を叩いて少しすると、奥からパタパタと音が聞こえてくる。
「こんにちは!」
やがて出てきたのは、金髪の吸血鬼、メアだ。
スルト君も遅れて、ゆったりとした足取りでこちらへと歩いてくる。
「ベアさん、毎日毎日、本当にすみません」
「良いよ、私が好きでやってることことだし」
スルト君と話していると、メアが私の裾を掴んで引っ張ってきた。
こら、伸びるからやめなさい。
「ベアねーちゃ! 今日はかくれんぼしよ!」
「それ、私にめちゃくちゃ不利じゃない……?」
いくら足繁く通っているとはいえ、孤児院を知り尽くしているメアに、私が勝てる未来が見えない。
遊びの種類を変えていただきたい所存だ。
「ささ、よかったら家に上がってください」
「あ、うん」
私はスルト君に促されるまま、孤児院の中へと入る。
流石に隅々まで網羅しているというわけにはいかないけれど、大方の部屋とかはわかってきた。
おおよそ20人くらいの子供たちと、院長が一人と言う構成らしい。
院長は物腰柔らかい人物のようだけれど、院長と他の子供たちは例のごとく昼間は仕事に出ているとかで、私はあったことがない。
夜に来ればあるいは会えるのかもしれないけれど、それは流石に迷惑だろうからやめておいた。
「そういえば、王女様ってどんな人なの?」
孤児院に寄付金を贈呈しているとは聞いたけれど、どんな人かは知らなかった。
「王女様は、お優しい方ですよ。私達のようなハーフにも、気兼ねなく接してくださいます。ああ、偶に孤児院に遊びにも来られますよ」
「え、そうなの?」
そんなんで大丈夫なのか、王女様。
一応は国の重鎮であると思うのだけれど、警備的な意味で。
「はい。よくメアや他の小さな子供たちと一緒に遊んでくださるんですよ」
「へー。いいお姉さんなんだ」
「? 違うよ、ベアねーちゃ」
と、メアがきょとんとした表情を浮かべて、私を見上げた。
「王女様は、私とおんなじ、8歳だよ?」
「…………おう?」
それはちょっと意外だった。




