ねえ、可愛いんだけど
「…………ベアさんは僕たちを見ても何も言わないんですね?」
「え、なにが?」
「いえ、僕たちが魔族だって」
「え、あーあー……」
四つん這いになって吸血鬼の幼女、メアを背中に乗せながら、私はどうしたものかと思考を巡らせた。
自分が魔王だから、自分が魔族だからと言うわけにもいかないし、かといってそれ以外でスルト君を納得させられるような理由を言えるとは思えない。
迷った挙句、私の答えは、
「知り合いに、似たような子がいるから」
リムルを売ることにした。
「………僕たちみたいな、吸血鬼のお知り合いですか?」
「うん、まあ、そんなところ。その子もパンをよく食べてたなーっておもってさ。吸血鬼って、パンが好物だったりするの?」
「さあ、それはわかりませんが……、パン以外にも、野菜やお肉も食べますから」
「そ、そうだよねー、あはは……」
流石にパン、つまりは炭水化物だけを好んで食べると言うわけではないようだ。
まあ、そうだよね。私もリムルが肉を食べている姿を見たことくらいはあるわけだし。
…………どっかのだれか、統計取ってくれないかな。気になる。
「おねーちゃん、メア達とお友達?」
「おー。友達友達。すっごい友達」
「わーい! お友達! 増えた!」
「よかったね、メア」
メアを温かい目で見守るスルト君。仲がいい兄妹のようで、微笑ましい限りだ。
「ところで、他の子供たちは? まさか、この大きな建物に二人で住んでるわけではないんでしょ?」
「ああ、他の子なら、みんなで払っているんですよ。王女様が仕事を下さって、今は比較的安全な近隣の森で薬草をとってきてくれているんです」
「ああ、そっか。吸血鬼は、昼間は外に出れないもんね」
「ええ。とはいえ孤児院を無人にするわけにもいきませんから、丁度良かったと思います」
それは、ハーフとはいえ変わらないということだろう。リムルが特殊なだけであって、普通の吸血鬼は日の光に当たった瞬間、その部分から細胞ごと焼け死んでしまう。
リムルはあんなのでも実は魔族としては上位の部類にはいるのだから、不思議なものである。
…………魔王ではあるけれど、私自身の種族は不明だから、ちょっとだけ羨ましい。
「ベアさん?」
「ん、ああ、いや。なんでもないよ」
いかん、ちょっとセンチメンタルな気分になっていた。
「ところで、お時間は大丈夫ですか?」
「ん、んー。そうだね、そろそろ戻るとするよ」
「おねーちゃん、帰っちゃうの?」
背中越しにメアが目を潤ませて、私を見つめてくる。
何か好かれるようなことをした記憶もないのだけれど、謎だ。
こんな場所に住んでいるのだから、もう少し警戒心を持ってもらった方がいいのではなかろうか。
「メア、我儘を言ってはいけないよ。ベアさんだって、お仕事があるんだから」
「やだ!」
「メア…………」
スルト君が言葉尻を強くして、メアを軽く睨む。
完全に御叱りモードに入っているようで、スルト君が立ち上がろうと、足に力を入れたのが見えた。
多分、メアを私から引きはがす気なのだろう。
ちょっとかわいそうになってきた。
「メアちゃん、また遊びに来るから、今日はここまでってことじゃ、だめかな?」
「…………また? ほんと?」
「うん。毎日は無理かもしれないけれど、手が空いたらくるからさ」
「約束!」
「わかった、約束するよ」
私がそう言うと、メアは背中から下りてくれる。
今ここで駄々をこねないあたり、優しい子なんだと、それだけでも何となくわかった。
「…………すみません」
スルト君が申し訳なさそうに目を伏せる。
この子も私から見たらずっと子供―――年齢だけを言うならマーサもだけど、彼女は特別だ―――だ。メアと比べたら大人に見えるのは、無理に大人にならざるを得なかったのかもしれない。
「気にしないでいいよ。メアちゃんと遊ぶのは、なかなか楽しいし」
「…………よかったな、メア」
「うん!」
スルト君がメアの頭をなでると、メアはそこに頭を押し付けるようにグリグリと背伸びをする。
なんだかほんわかとする光景に、私は思わず頬を緩ませた。
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