ねえ、何回目だよ
「…………一か月くらい前、こっちに引っ越してきた」
などと、マドリアナがほざいた。
「帰れ」
「………やだ。暇」
我儘な奴だ。
マドリアナはマーサが出したお茶を一口飲むと、静かに机の上に戻す。
「………美味しい」
「お口にあってよかったわ~」
マーサは相変わらずほんわかとした様子で答える。
ちなみに、マーサはなぜかマドリアナの隣に座って、ニコニコとマドリアナを見ていた。
いや、確かにテーブルはそこまで広くないけれど、もっと他に座る場所はあると思うんだ。
マドリアナが手を出しても抑えられるように注意しておこう。
「でも、なんでわざわざこんな人間の街なの? あっちにも魔族の街はあるんだから、そっちに行けばいいのに」
「…………あっちは、ご飯が美味しくない」
「それは同意するけど……、そういえば、さっき言ってたのってどういう意味?」
「………さっきのって?」
「ほら、うちの売れ行きが芳しくないのが、マドリアナのせいだって」
「…………ああ」
マドリアナは思い出したようにぽんっと手を叩くと、何でもないように、
「…………私、この辺でパン屋の屋台を始めたから」
「…………………………は?」
まて。
まてまて。
まてまてまて。
「なんで魔王がパン屋やってるのさ」
「…………それはもしかしてギャグで言ってるんですか? ベア様」
「私は良いんだよ」
「この人………」
リムルがなぜか頭を抱えているけれど、そんなことはどうでもいい。
問題は、マドリアナが売っているパンのせいで、うちの売り上げが悪くなっているということだ。
それは即ち、
「マドリアナちゃんのパンって、そんなにおいしいのね~?」
―――――そういうことになる。
「…………貴女、パンを焼いて何年?」
マドリアナはマーサを見つめて、そう問いかけた。
「えっと~、お店を開く前からパン作り自体はしていたから~、5年くらいかしら~?」
「………そう。でも、私はパン作り歴50年。食べてみる?」
「「…………は?」」
私とリムルは、ぽかんと開口して固まった。
今日何度目の「は?」だろうかと、そんなくだらないことさえも考えてしまう。
マーサだけは呑気に「あら本当、美味しいわね~」とマドリアナから差し出されたパンを食べて感心しているけれど、彼女はなんかもうそう言う人なんだって思うことにする。
「君、魔王だよね?」
「…………一応、嫉妬の魔王。でも、やることない。暇だった。だから、パンを作っていた」
「暇だからパンを作るっていう思考がよくわからないけど……、喧嘩好きの君が、どういう心境の変化?」
「…………就任の時、大魔王様に言われた。喧嘩なんかより、パンを焼いていたほうが、楽しいって」
大魔王のせいかよ……。
いや、確かにそのおかげか、この50年間、マドリアナが私に喧嘩を売ってくるようなことはなかったけどさ。
「まあ、そういうことなら、それでもいいけどさ。屋台っていうなら、別の場所でやってくれない? そっちも、パン屋の競争率が低い場所のほうが売れるでしょ?」
店として構えられてしまってはどうしようもないけれど、屋台ということなら、移動自体は容易だろう。
悔しいけれど、正直このままではうちの売り上げに響いてくるし、どこかに行ってもらった方が助かる。
「…………別にいいよ」
「よし、それなら―――」
「…………でも、私にパン作り対決で、勝ったらね」
「「…………は?」」
ほんと、今日、何回目だよ。
続くー




