ねえ、なにしにきたの?
マドリアナは金髪金眼の竜人で、身長は角を除けば私と同じくらいだ。
ただ、完全に人間の見た目をしている私とは違って、鱗のある大きな尻尾とゴツゴツとした角を持っていて、自分では魔法で隠すこともままならないらしい。
そんな彼女は今、器用にも尻尾を椅子の横に逃がしながら、机を挟んで私とリムルの前に座っている。
夜中に訪問とは、失礼なやつめ。
マドリアナとは魔王になる前からの知り合いで、よく私がねぐらにしていた洞窟に来たものだった。
めっちゃ迷惑だった。
当時の自堕落な生活を繰り返していた私にとっては、ただ睡眠を邪魔する害悪な奴でしかない。
来るたびに適当にあしらっていたのだけれど、それを遊んでいたと認識されていたようで、一時期は毎日のように洞窟に来ていた。
それぞれ大魔王から『怠惰』と『嫉妬』を任されてからは、彼女の訪問はピタリとやんだのだけれど、今更になって何の用だろうか。
「ドラゴンさんのお口に合うといいのだけれど」
そう言って、マーラはマドリアナの机の前にお茶を出した。
「……………」
「えっと、なにかしら~?」
マーサはマドリアナにじっと見つめられて、首を傾げた。
魔王に注視されていると言うのに、マーサは特に怖がっている様子もない。
これは流石と言うべきなのか、咎めるべきなのか……。
そうして数秒して、マドリアナはマーサを指さしながら、
「…………これは非常食?」
「それは、どういう意味?」
「………そのままの意味。昔から貴女はご飯を採るのも面倒くさがっていたから」
「ちょっと、いくら嫉妬の魔王様でもそれは聞き捨てなりません!」
と、静かにしていたリムルが机を叩いて立ち上がった。
流石、魔王城にいた頃の私を怒鳴りつけるだけのことはある。嫉妬の魔王に一歩も引かないとは、なかなか恐れ入る。
「確かに魔王城にいた頃のベア様はずぼらだし、怠け者だし、寝るのが好きだし、ろくに仕事もしないし、挙句の果てには健気に仕えていた献身的な私をクビにするし、ろくでもない魔王様です!」
――――その節はすみませんでした。
「でも、人間の街に来てから、ベア様は変わったんです! ご友人であらせられるマーサさんをそんな目で見ているだなんて、ありえません!」
「………ベア、この子、本当に貴女の従者?」
「うん、まあね……。私の魔王城のことは全部彼女に任せてたくらいには」
「………へえ。じゃあ、強いんだ?」
「? まあ、そこそこには―――――あ……」
しまった、と思ったときにはもう遅かった。
マドリアナは一瞬だけその金色の瞳を光らせると、
「「っ!?」」
隠していた膨大な魔力を放出させて、リムルにあてたのだ。
マドリアナはその口元を歪ませて、嫌らしい笑みをリムルに向けた。
「―――――じゃあ、戦ってみない?」
「え……あ?」
ああ、もう、こいつの悪い癖だ。
―――――――マドリアナは戦闘狂だ。
いや、正確に言えば、人と競い合うことを是として、優れている者を見つけては、喧嘩を売り続けている。
洞窟で食っちゃね生活をしていただけの私が目を付けられて、ストーカーみたいに付きまとわれたのも、結局のところ、私という存在に喧嘩を売りに来ていたにすぎない。
そのたびに追い払っていたし、魔王城に住み着いてからは目っきり会いに来なくなったので、魔王になって落ち着いたのかと思ったのだけれど、そんなことはなかったらしい。
なまじ魔力を感知する力があるせいで、リムルは肩を震わせて恐縮してしまっている。
このままだとまずい。
「マドリアナ、ストップっ! すとーっぷ!」
私が大きくそう叫ぶと、マドリアナは私を一瞥して、一瞬でその魔力を抑え込むと、再び無表情へと戻る。
「………貴女が言うなら仕方ない。でも、今度やろうね?」
ああ、もう、めんどくさいなこいつ……。
てか、結局、何しに来たんだよ
戦闘なんて起こりません




