ねえ、不法侵入なんだけど 第二弾
「よし、こんなもんか」
私はパン生地の下ごしらえを済ませて、一息ついた。
マーサと友人になって一か月がたって、その間にお店のパンは7割ほどはマスターできた。
後の3割も、恐らく時間の問題だ。マーサの教え方が上手いというのも大きい。
「あ、いたいた。マーサ、終わったよー」
私がリビングに行くと、椅子に腰かけたマーサに声をかけた。
見たところ、帳簿と睨めっこをしているようだ。
「マーサ?」
「え、あ、な、なにかしら~?」
私が真横に来て、マーサはようやく気がついたようで、慌てて振り返った。
「いや、頼まれてたパン生地の仕込み終わったよって」
「あら、流石、早いわね~」
「それほどでもある……それより、どうしたの?」
「うーん、ちょっとね~……最近、お店に並べるパンの量を増やしたでしょう~?」
マーサの言う通り、最近になってパンを焼く量は増やしている。
ありがたいことに、パン屋『マーマレード』のお客さんが増えてきたからだ。
「それがどうしたの?」
「思ったよりも、売れ行きがよくなくてね~……」
「え? でも、パンは余ってないよね?」
お店を営業を終えた後、店内の掃除をするのだけれど、その時には既にパンはひとつも残っていない。
余っていたらいたで、リムルと二人で美味しく頂いていたのだけれど、最近はそのような状態が続いていて、しばらくお預けを食らっている。
ちょっと楽しみだったんだけど。
「それは、孤児院の子供たちにあげてるのよ~」
「孤児院?」
「王女様のご慈悲で何とか運営できているみたいなのだけれど、子供たちが増えてきてお腹を空かせているらしくて~」
「そうだったんだ……気づかなかった」
「営業の終わり間際に裏口から受け取りに来てもらっているから、普段はお店の表にいるベアが気づかないのも、無理はないわ~」
なるほど、それなら納得だ。
「でも、理由がわからないね」
売れ行きが減ったのなら焼くパンの量を減らせばいいだけだ。
でも、なぜ減ったのかが分からなければ、そのまま減り続けると店がつぶれてしまう。
流石に放置するわけにもいかない。
「…………それは、多分、私のせい」
「うわぁ!?」
突如として会話に入り込んできたのは、ローブ姿の人物だった。
声からして女の子だとは思うのだが、ローブで顔まで隠してしまっていて、その姿を見ることはできない。
というか、誰だこいつ!?
「………ベアのお友達かしら~?」
「知らないよ!? こんな怪しいやつ! てか、不法侵入だよ、マーサ! 危ない人だよ!? もっと慌てようよ!」
「だって、ベアがいるし、ねえ~?」
私を魔王と知るマーサは、のんびりとしたものだ。
私がいることで危機感が薄れてしまっているのなら、ちょっと不安だ。私が居なかったらどうするつもりなのだろう。
「とにかくっ! こいつは憲兵に突き出す!」
私は不審者に飛び掛かり、その体を拘束しようと試みる。
「――――――へ?」
だが、それは叶わなかった。
ローブを掴んで押し倒そうとした瞬間、不審者は私の腕を掴んで抑え込んでみせたのだった。
魔王である私の腕を、だ。
私はどちらかと言うと魔法に特化した魔王だけれど、それでも普通の人間や魔族に腕力で負けるなどありえない。
だが、この不審者は、真正面から私と張り合っている。それどころか、私の腕はピクリとも動かない。
「…………流石の貴女でも、魔法なしで私に力勝負は、無理」
「……まさか」
魔王としての自覚とか責任感は全くないけれど、それでも『怠惰』の私と張り合えるのはそう多くない。
そして、この物静かな話し方、だんだんと思い出してきた。
不審者はローブを脱ぐと、
「…………久しぶり、ベア」
「―――――嫉妬の魔王、何しにきたの?」
ローブを脱いだその下にあったのは、頭から生えた二対の角と、巨大な尻尾。
竜人であり、嫉妬の魔王でもある少女―――、マドリアナだった。
誤字修正、本当にありがとうございます。




