ねえ、私達って
引っ越しの準備と、拙作のスライム君を書き始めてあげるの遅れました。すみません。
「「「………え?」」」
私とリムル、フィルまでもが、ぽかんと開口して固まった。
「ほら、明日も早いんだから、お片づけは後にして、今日はもうねましょう~?」
「い、いや、マーサ殿、といったか。ご婦人は状況がわかっているのか?」
今にも自分の部屋に戻りそうなマーサさんを見てか、フィルはハッとしたように慌てて言った。
私達も同様の疑問はある。マーサさんは人間で、私達は魔王とその従者だ。
人間に嫌われているのはフィルを見ればわかるし、でなければ勇者として魔王城に攻め込んだりはしてこなかっただろう。
私も理不尽を感じてはいるけれど、隣の家に爆発物があるようなものなのだろうから、フィルの主張もわからなくはないのだ。
私自身、人間なんて簡単に滅ぼせそう、なんて考えられるくらいには、腕に自信もあるのだから。
「ええ、ベアちゃんが魔王だって話でしょう~?」
「わかっていて、なぜそのような言葉がでる!? 貴女は王国民だろう!?」
「そう、言われてもねぇ~……」
マーサさんは困ったように眉尻を下げると、頬に手を当てて、続ける。
「ベアちゃんは見ず知らずの私が襲われているのを、助けてくれたのよ。それだけで、十分じゃないかしら?」
「そんなもの、この魔王がマーサ殿に取り入ろうとしたに違いない!」
「ただの一介のパン屋の店主に、そんなことをする意味があるとは思えないのだけれど~………」
「そ、それはっ……!」
言い淀んでたじろぐフィルに、マーサさんはにっこりと笑いかけると、
「ね、ないでしょう?」
と、一言。
確かにマーサさんの言う通りだし、言わんとしていることもわかる。
けれど、私も。
マーサさんに、確認したい。
「マーサさん、なんで、そんなに良くしようとしてくれるの?」
「え?」
「だって、マーサさんにとって私は赤の他人どころか、魔王なんだよ? 気まぐれで殺されるとは思わないの?」
「私、気まぐれで殺されちゃうのかしら~?」
「そんなこと、絶対にしないよ。でも、怖くないのかってこと」
生き物を殺すなんて必要がなければやらないし、やりたくもない。
それに、マーサさんは私に色々なことを教えてくれた恩人だ。
そんな人を手にかけるなんて、ありえない。
けれど、それができてしまう危険人物が身近にいるのは、相当にストレスのはずだ。
私だって、それくらいはわかる。
「ベアちゃんは、私のパンを美味しいっていってくれたでしょう?」
「………えっと、それが?」
唐突な話題返還に少しだけ驚いたけれど、それが最初に食べたサンドウィッチのことだと言うのは分かった。
「あんなにおいしそうに食べてくれたのは、ベアちゃんが初めてだったのよ。それで、働かせてくれーなんて言われて、びっくりしたけれど、こんな子と一緒に働けたら、楽しいだろうなーって思ったの」
マーサさんは思い出すように視線を天井に向ける。それはどこか遠くを見ているようだった。
「それで一緒にお店で働いてもらって、本当に楽しかった……、正直、ベアちゃんが来るまで、お店の経営が私にとって苦痛になっていたのよ?」
「「え?」」
リムルもそれは初耳だったようで、私よ同じように声を上げた。
のほほんと楽しそうにしているマーサさんからは、苦しんでいる姿なんて想像もできない。思えば、私達がここに来る前のお店ことは、聞いたことがなかった。
「女手一つでお店をやるのにも、限界を感じていたの。離れた村から移り住んで来た私には、王都には頼れる人なんていなかったから………、でも、ベアちゃんが美味しいって言ってくれて、何でパン屋さんになりたかったのか、思い出せたのよ。リムルちゃんが来てくれて、一緒に働いて、その想いが昔よりも強くなったの」
「それは、お役に立てたようでよかったよ」
「……ええ。本当に」
私達はマーサさんと顔を突き合わせてくすりと笑った。
気まずさのようなものがあったのかもしれない。
マーサさんからはもらってばかりだと思っていた。けれど、そうではなかったのだ。
「私も、ベアちゃんとリムルちゃんに、助けられていたのよ?」
「………うん」
そっか。
これが、助け合いというものなんだ。
お城で寝てばかりの私には、わからなかった感覚。
そしてそれは、私の知らない、人とのつながりの形。
助け合いの連続が、その形になっていく。
「ねえ、ベアちゃん、リムルちゃん」
マーサさんは語り掛けるようにいいながら、優しく微笑む。
「私達、魔王とか人間とかの前に、お友達なのよ?」
3章エピローグがあります




