ねえ、勘違いされてるんだけど
変態のお兄さんに連れられて、私達は商人ギルドの応接間へと通された。
どうやら子供同士のじゃれ合いだと思われたらしい。
「だから、こいつは魔王だと言っているだろう!?」
フィルはソファから勢いよく立ち上がって、テーブルを叩いた。
彼女からしてみれば、国の心臓ともいえる王都のど真ん中に、爆破物があるようなものだろう。
必死になるのは分かる。
わかるんだけど、魔王って呼ぶのはやめてほしい。
ロリコンのお兄さんは私をかばうように手を前にやると、
「黙りなさい、年増」
「年増っ!?」
フィルはショックを受けたように声を荒げる。
人間の寿命は100年もないはずだ。年増と言えば、精々30から40歳相手のことを指すだろう。
だけど、勇者は明らかに15歳やそこらである。
「お前、私は勇者だぞっ!?」
「虚言癖でもあるんですかね、この年増は」
このお兄さん、筋金入りだ。
怖い。
「私は仕事に戻りますが、二人とも、ご両親と連絡がつくまでは大人しくしていてくださいね」
「うん、ありがとねー、お兄さん」
「これくらいは当然です。ベアちゃん、何かされそうになったら、このベルで鳴らすのですよ」
と、お兄さんは銀のベルを手渡してくる。
見たところ魔法の込められたベルっぽい。音の増幅ってところだろうか。
「頑張ってねー」
「ええ、それでは」
お兄さんはにっこりと笑ってそれだけ言うと、応接間から出て行った。
「………おい、貴様、何が目的だ」
私が何もしないとわかってくれたのか、フィルは再びソファに座りなおした。
「目的って言われてもなー」
私はおいしいものが食べたいだけだ。それ以上でも、以下でもない。
でも、正直に話したところで、『ふざけるなっ!』と一蹴されるのが目に見えている。
ここは魔王らしく振舞うとしよう。
「ふふふ、勇者フィルよ。よくぞ我が正体を見破ったな!」
「…………何を言っているんだ? 外見は以前と全く変わっていないだろう」
「あっはい、すみません」
やばい、内容については何も考えてなかった。
魔王っぽいことを何もしてこなかったツケが回ったか。
やっぱり、嘘は良くないよね。
「美味しいものを食べに来ただけなんだよ」
「ふざけるなっ!」
「どうしろとっ!?」
誤魔化してもダメ、正直に話してもダメ。
要するに、フィルは私の話を聞く気がないのだろう。
魔王ってだけでここまで信用されないのは、流石に悲しくなってくる。
不可抗力で押し付けられただけなのに。
「貴様の強さは、よくわかっているつもりだ。その気になれば一日とかからずに、王都を攻め滅ぼすこともできるだろう」
「……………」
なんか語り始めた。
「だからこそ、不思議なのだ。なぜ今、王都は何事もなく平和なんだ?」
「それは―――」
―――そもそも滅ぼす気がないからだ。
そう続けようとして口を開くが、フィルがその手で待ったをかけた。
「その理由はわかっている」
「――へ?」
「貴様、力を失っているな?」
どうしよう。
勘違いされているぞ。
ブクマ評価ありがとうございます。モチベ上がります。