ねえ、魔王ってバレたんだけど 2
「なぜここにいるのだ、魔王ベアトリスっ!」
腰に聖剣を携えた、短い白髪の少女。
目は少しだけ吊りがちだけど、それがかえってアクセントとなって美人を際立たせている。
年齢は女性に片足を突っ込んだくらいだろうか。多分15歳くらい。
あの時のような仰々しい鎧は身に着けておらず、普段着っぽい。
だからこそ、その腰にひっさげられた聖剣が目立つ。
なんで聖剣って知っているのかと言えば、以前、目の前の少女が言っていたからだ。
確かあれは、3か月前。リムルに無理やり起こされた日のことだった。
目の前の少女が一人で城に攻めてきたのだ。
一応、吸血鬼の始祖であるリムルは私以外の魔王の次くらいには強い。
そんな彼女が私に助力を求めてくるのだから、相手は相当に強いのだろうと、私も重い腰を上げたのだ。
実際に戦ってみて、まあ強かった。聖剣に選ばれし者だなんだと言っていた気がする――――そうだ、名前は確か、フィルとか言っていた。
聖剣を持ってるってことは、数いる勇者の一人なのだろう。
まあ、ボコったんだけど。
でも、暴食の魔王ゲルゲルあたりだと、負けるかもしれない。
「えーっと、気のせいじゃないかなぁ?」
「そんなわけがあるかっ! 貴様の顔を、忘れるわけがないだろう!」
「そこは普通に忘れてほしかったなぁ………」
ここで「魔王、魔王」と大きな声で言われると、非常に困ってしまう。
正体がバレてしまうじゃ無いか。
だから、この少女の口をふさがないといけないのだけれど、今にも剣を抜きそうな勢いだ。
さてどうしたものか。
「とりあえず、パン食べる?」
「何を言っているんだ貴様っ!?」
だよね、私もそう思う。
流石に無理があった。
だとすると、取れる手段は限られてくる。
作戦その一。この場でボコる。
マーサさんのパンが一生食べられなくなりそうなので、却下。
作戦その二。シラを切る。
魔王って断言されてるし、前に顔も見られてるから無理。
うーん………。あまりやりたくないんだけど、仕方ないかぁ。
私は椅子から立ち上がって、歩き始めた。
「動くなっ!」
とか後ろで言っているけど、無視。
私はだんだんとその足を速めて、やがて小走りを始めた。
向かう先は、商人ギルドの受付カウンターだ。
「動くなと言っているのが聞こえないのかっ!!」
フィルが聖剣に手をかけ、かつかつと追いかけてくる音が聞こえる。
時間はなさそうだ。
周囲がざわざわとし始めたし、騒ぎになるのは仕方ないと諦めるしかない。
「お兄さんっ!!!!」
と、私は悲観そうな声で叫んだ。
この場で言うお兄さんなど、一人しかいない。
受付カウンターの、変態だ。
お兄さんがこちらを振り返ったのを確認した私は、
「あのお姉ちゃんが苛めるの、助けてっ!!!!」
変態と勇者なら、まだ変態の方がマシだろう。
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