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白と黒の間に  作者: 黒七味
8/9

ホントの話

    どれだけ長い時間が過ぎただろうか。

僕は暗い世界で静かに、素数を数えていた。

毎回181くらいまでカウントできても、

それ以降の計算を暗算でするのは無理だった。

けれども僕は、何度も何度も素数を数えた。

そうでもしないと、僕が僕でいられなくなる気がしたからだ。

罪悪感や内省に引きずり込まれないように、僕は必死に抵抗した。

ちょっとでも、意識を揺るがせば、簡単に正気を失う気がした。


————僕は何も悪くないのに!


そんな折のことであった。


白い何かが、ドームへと入ってきた。足跡は白く明るい。

その光に刺す痛みは感じなかった。

白い何かは僕に近づいてくる。

僕は移動する気力も体力もないので、それを黙って見ている。

それは、どこかで見たことのある女性だった。


「あなたは、自分が本質的に善い人間だと思う?」


どこかで聞いたことのある台詞だ。


「本質的な善悪なんてないさ。」


僕は吐き捨てるように答えた。


「どちらの言葉も、人間にとって都合のいいように理屈付けるために、

 考え出された概念に過ぎない。」


「やっと気付いた?」


「どういうことだ?」


「・・・これはね、私の復讐なのよ。あなたに殺された私の。」


彼女は淡々と告げる。


「私ね、あなたに殺されたの。」


「あぁ、酷い殺し方をしたよ・・・何度もね。」


「違うわ。私は、前世であなたに殺されたの。」


「は?」


「あなたがこの世界に来てから、私をいろんな風に殺したでしょ?」


彼女は、答え合わせをするように、丁寧に話す。


「あの殺し方、私が前世であなたに殺された方法なの。」


「待て待て、確かに僕はたくさん殺した。でも、それなら君は・・・」


「『一回しか死ねないだろ?』って?」


彼女は黒い笑みを浮かべる。


「今まで、あなたが生きて来た全ての人生で、あなたは私を殺しているの。」


「つまり、転生しても、僕は繰り返し君を殺してきたってことか?」


彼女は黙ったままで、コクリと頷く。

顔に貼り付けられた冷たい笑顔が、僕を総毛立たせる。


「でも・・・そっ、それなら僕は、悪くないだろ?

 この世界で僕は記憶がリセットされているんだ!」


「そうね、私がそうしたのよ。」


「僕には、罪を償えるだけの手段がなかったんだ!」


「・・・あなた、いつも変わらないわね。本当に。」


少しの沈黙の後、彼女は続ける。


「あなたは、いつもそうやって開き直って私のせいにするのよ。

 そして私を殺すの。酷いやり方でね。

 それがあなたなの。死ぬまで直らないし、死んでも直らないわ。

 ・・・なんだか、哀れね。

 そんなあなたと、生まれ変わる度に結ばれてしまう私もね・・・」


僕は、反論することができなかった。

霞みがかった前世の記憶が、僕の脳裡をよぎる。


————思い出した・・・


霧が晴れていく。


————僕は、彼女とずっと、恋仲だったんだ・・・

    

    その度に、何かの弾みで僕は彼女を殺して来た・・・

    例えば、彼女の白粉(おしろい)が目に付きすぎる、とか

    彼女が僕の散切り頭を面白がった時、とか

    戦時中、僕が仮病を使って出兵を免れたことを少し詰った時、とか

    彼女が僕に黙って習字の習い事をしていた、とか

    パチンコで負けて僕がただイラついていただけ、とか

    彼女のキータイピングが僕よりとても早い、とか・・・

    


「あ、そうそう、この世界から抜け出せる方法を教えてあげるわ。」


長く、暗い隙間の時間は、彼女のその一言で破られた。


「あるのか!?それなら、早く教えてくれ!

 ここで誓うよ。生まれ変わっても、絶対君を愛し続ける!

 もう二度と、君を理不尽に殺したりしないよ!」


彼女はまた、微かな笑みを浮かべて、こう言った。


「このドームから出るのよ。それだけ。

 もう、今のあなたなら出ても平気よ?」


僕は、彼女の言葉を聞くなり、一目散に駆け出した。


————これで、自由になれる!退屈な内省から、この窮屈な暗闇から!


ドームの境界を駆け抜けて、世界の白さが目に飛び込んできた。

まぁ、この後の展開は予想がつきますかね?

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