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白と黒の間に  作者: 黒七味
4/9

無条件循環

ちょっとホラー?

    僕は、眼前の光景に動揺を隠せなかった。


「だっ・・・大丈夫!?」


彼女に詰め寄って、肩を揺らしながら呼び掛ける。

返事はまだない。

彼女は完全に脱力していて、揺すったときには慣性以外の抵抗を感じなかった。

僕は彼女の脈を取る。

呼吸を確認する。


いずれも、無かった。


————え?


彼女は死んでいた。そう、死んでいたのである。

目の前の女性の死があまりに突然だった為に、僕は拍子抜けしてしまった。


————さっきまで、話していたじゃないか・・・あんなに楽しく・・・


その場で茫然自失としていると、次第に恐怖が僕の心を覆い尽くすのである。

理不尽で理解不能な出来事に対する、人間の自然な反応であった。

僕たち二人しかいない世界では、僕はただただ立ち尽くすことしか出来なかった。


もう須臾(しばらく)してから、僕は彼女を暗い空間に安んじることにした。

何も出来なかった僕のせめてもの贖いである。

血色を失った彼女の横顔を見ると、無性に悲しくなる。

僕は再び、そして永久にこの世界でたった独りになってしまったのだ、

という予感が、背筋を這いずり回って僕をざわつかせる。

僕は彼女を仰向けに直して、腰の湾曲に腕を回し、力を込めて体勢を起こす。

続いて膝の下にもう一方の腕を回し入れ、

最後に腰に当てていた腕を彼女の脇に滑らせる。

まだ、生暖かい彼女の肌が僕に密着した。


————このまま、また君が目を開けてくれたら良いのに。


僕は思った。

僕は決然として立ち上がって、彼女をそのまま横抱きした。


僕は彼女を抱えたまま、またゆっくりと暗いドームの前へと進んだ。

ドームに入ってしまっては、彼女の顔を判然と見ることは叶わないだろう、

と思ったので僕は、最後に彼女の顔を見た。


————白く、脆い

生気の抜けたその表情は、マネキンを彷彿とさせる。

青紫色になった口吻が、

「彼女はもう死んだ」という(むご)い事実を僕に残酷に知らしめるのだった。

そして僕は、暗い領域へと足を踏み入れた。




    この不自然な世界で、僕は幾度となく予想外の事に直面してきたが、

今回もその例外ではなかった。

彼女に安息を捧ぐために入ったこのドームは、

僕が出てきたドームとはどうも様子が違っていた。

一番初めに入った時のように、一面真っ暗だった。

何も見えない。

その上、奇妙なことはこれだけではなかった。

腕にかかっていた遺体の荷重が消えたのである。


————彼女が消えた?


僕は一々の事に対して(つぶ)さに動揺することが、だんだん面倒になってきていた。

だから、ひとまず自分の視界を確保することを優先して、

いま自分が立っている辺りの近くを、まるで雑草を踏み均すかの如く歩いて行く。

その刹那、


「あなたは、自分が本質的に善い人間だと思う?」


彼女の声がする。

僕は自身の耳を疑った。


「君は・・・」


僕は二の句が継げなかった。


「随分と驚いてるじゃない?」


彼女の調子は、生前と————いや、先程までと

何ら変わらない。

僕にはそのことが気持ち悪かった。

その後も、彼女はさっきまでと同じ様に、僕とした会話をするのだ。

更に、僕の返事もまた、図らずも、先ほど同様になっている。

今回の僕は受動的であるというよりもむしろ、

驚きのあまり彼女の呼びかけに対してまともに取り合うことが出来ていない

というのが本当だった。

必然、彼女は僕を誘って歩き出す。

怖かった。


————今目の前で闊達な彼女が、先程目の前で死んだときよりもずっと。



そして、彼女は再びドームを出て、

また当たり前のようにそこで死んだ。

死ぬ様まで、全く同じなのである。


————この女は、一体何なのだ!?


恐怖の度が超えてしまって、僕は、かえって呆れ返ってしまった。


そこに転がっている彼女の遺体から逃げるようにして、

僕はもう一度だけドームに入った。



「あなたは、自分が本質的に善い人間だと思う?」


————まただ!


僕は何の茶番に付き合わされているのだ?

僕は彼女の存在が不気味に思えて仕方がなく、

ドームから遠ざかるようにカルデラを越えて山から駆け降りた。

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