魔王の記憶
倒そうとする魔王が軽率なら魔物たちはついてこないと思う
「勇魔」となった私の頭の中に、魔王の記憶が流れ込んでくる。
「貴様ら!人間たちに何をした!」
魔王ダルナーはそう吠えながら、人間たちの住む首都…であった瓦礫の山の上に浮遊する『銀髪の少年と少女』に向かって飛行しながら「拘束用の雷撃魔法」を打ち込んだ。
いかなる竜も捕らえる強力な魔法だったが、2人はそれを軽くはじき返すと、空中をこちらに向かって飛んでくる魔王ダルナーに向かって向き直った。
「…見つけた…」
「そちらから出てきてくれるとは、好都合ね」
魔王である自分を見ても眉一つ動かさずに手のひらを向ける少年と、
静かに笑う少女を見てダルナーは確信した。
数刻前に飛び込んできた妖精エトランドルが危険人物として警告していた2人組だと。
「おまえたちがラズとフィーか?」
「そうよ。だから何?」
「なぜ、人間たちをこんなひどい方法で殺した」
「殺したいから。異世界の人間は殺すと決めたから。ていうかぁ~滅ぼさないの?人間?あなたも魔王でしょ?」
小馬鹿にしたような声でからかうように言うフィー
「ふざけるな小娘!何もかも滅ぼせばいいというものではない!!人間にも魔物にも守るべき者がある。お互いの立場を踏みにじりあう未来など、誰も望んではいない!!」
確かにダルナーは魔王だ。
だが、その目的は人間を滅ぼすことではない。
勇者という人間の切り札を倒すことで優位に立ち、人間が魔物を無差別に攻撃して領土を奪うという行為に対する抑止を行うためだ。
それに必要な力を得るために「協会」と契約し、彼は魔王となったのだ。
仲間である魔物たちを守るために…
だが、そんな彼の考えなど
「ごちゃごちゃうるさい犬ね」
と、フィーは一蹴した
「説教なんかどうでもいいの。さっさとあなたの『雷魔法』を渡しなさい。殺さないでおいてあげるから」
「…フィー…殺さないと『吸い出せない』」
「あ、そうねラズ。やっぱどっちみち殺すわ。あははははははっ」
フィーがそう言った次の瞬間、数十発の雷が魔王を中心にして地上から噴出した
「誰に向かって殺すと言ってるっ!!」
魔王ダルナーは体内の封印を一気に解いて『全力状態』にシフトする
そんな魔王に呼応するかのように、周囲の空にたちまち暗雲が立ちこめた
「あんたに決まってるでしょ。『餌』のくせに生意気よ?溶かしてスープにしてやるわ。ラズ!」
「シフト完了だよ…フィー…うまくい」
ラズの話も途中に、魔王は最大魔力をつぎ込んだ『数百発の雷』を2人に撃ち込んだ
怒りからではない。
必殺魔法をぶち込まねばならないほど、この2人は危険だと判断した結果だ。
耳をつんざく爆発音と閃光が空中で一気に起こり、衝撃波が街の上空でいまだくすぶっていた大量の土埃を一気に吹っ飛ばした。
その下からは切断された莫大な量の瓦礫と風に吹き飛ばされて吹きだまりに集まった大量の死体、身体の数カ所を失っておきながら、死にきれなくて苦しむ大量の人々の姿が見えた。
それはこの世の地獄だった。
魔王ですらこんな方法はとらないだろう。
「汚いスープでしょ?」
閃光が消えた中から、フィーの声がした。
その隣にいるラズの手のひらには、黒色に染まった球体が浮かんでいる。
「…『アビス』…」
「そう、よくで~きました、ラズ。また新しいおもちゃが手に入ったわね…じゃあ」
何百発もの雷魔法を受けておきながら無傷な2人を見て驚く魔王に向けてフィーはニヤリと笑うと、手に持っていた魔法の杖を魔王に向かってかざした。
「お礼にあなたも、『燃やして』、『溶かして』、『汚いスープ』にしてあげる」
フィーの赤い目が輝くと同時に、魔王の右腕1本が吹き飛んだ。
「ぐぁ」
間髪入れずに魔王の脇腹が内部から膨らんで爆発する
爆発で引き千切られた様々な内臓が空中にまき散らされ散らばった
「がっあ」
叫ぶために開けた口の中では、巨大な犬歯が割れて粉々になった
鼻の頭が熱くなって膨らみ溶けて爆発した
「なんだこの魔法は!!」
「わかんないでしょ?わかんないでしょ?魔王のくせにわかんないでしょ?仕方ないよね?この世界しか知らないあなたがわかるわけないもんね。あはははははははっ」
フィーが杖を振るうと、魔王の左胸が破裂して肺が吹き飛んだ
苦しんでいるところに他の腕と足の関節が爆発して変な方向に折れ曲がった
飛行魔法用の魔方陣を維持する力が次々にかき消されていく
「『回収完了です。いつでも転送できます。魔王様!魔王様!!』」
脳内に妖精エトランドルの悲痛な声が響いてくる
「『そうか、たのむ』」
魔王の記憶はいったんここで途切れた
その後はひどかった
妖精エトランドルの転送魔法で魔王はあの2人の知覚外まで逃げることができた。
だがフィーにやられた傷口は罠が仕掛けられており、回復魔法に反応して爆発し、回復を妨げる。
回収した勇者の肉体はなんとか蘇生することができたが意識は戻らない。
魔王たちが城に戻った時はすでにあの2人が攻め込んできており、場内で匿われていた魔物のほとんどが切り刻まれすり潰されていた。
死臭が蔓延していたため城内を放棄。
唯一死体のない最上階の玉座の間にて勇者の復活を待った。
「エトランドルよ…私は、あと、何日もつ」
夕日の差す城内で、背もたれが切り刻まれた玉座に座りながら、
満身創痍の魔王は妖精に聞いた。
「長くて…3日です…」
「そうか…」
「こんなことになるなんて…」
うつむく妖精
「…ごめんなさい」
「…謝る必要などない。奴らが『勇魔』だとお前が知らせてくれたから…私はまだ生きていられるのだ。それに、雷の力を奴らに奪われずに済んだ。お前が来てくれたおかげだ…」
魔王は妖精に向かってぎこちなく笑うと、そのまま視線を石の台座の上で眠る勇者に向けた。
「エトランドル、ひとつ頼みがある…」
「…はい」
「この戦いは、彼には関係ない。もし、彼が勇魔になっても、『勇者の契約』どおり、現世にもどしてやってはくれぬか?」
「…」
「渡しておいた石を『協会』の誰かに見せれば、きっとお前の力になってくれる者がいるはず。
すまぬな…もう、お前の『友人』を助けるために動けそうにない…」
(…あとは、勇者にこの力を託して現世に戻ってもらえば
あの2人の力ではもう…)
魔王の記憶はここで途切れた
次からエトランドルが動き出します




