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敗北の岸辺にて

謎が加速する第2回

どのくらい眠っていたのだろう…

私はゆっくりと身体を起こした。


どうやら石畳に布を敷いただけの場所のようだ。

月明かりが建物の中に差し込み、周囲の状況を薄ぼんやりと照らし出す。

目をこらしてみると、そこはかなりの広さを持つ王宮のような場所だった。


私は闇に目が慣れるまでの間、周囲に警戒しながら身体が動くかを確認した。

皮膚の感覚から、着ているものと装備、拘束状態を確認する。

最初にこの異世界に来た時に悪党にさらわれたときの状況確認方法として、仲間たちが残していってくれた知識だ。


その仲間たちも、先日の移動中に突然空から襲われて馬車と荷物ごと粉砕された。

私たちのパーティーを襲ったのは、銀髪で青い目の少年と、赤い目の少…女…


「うげぇえええええぇっ」


脳内に断片的に残っていた、ナマス切りにされて殺された記憶がよみがえる。

その少し前は仲間と共に頭上から圧縮されてつぶれた記憶だ。

止まりそうになるほど高鳴る心臓、止まらない吐き気と共に涙があふれてくる。

脳が記憶と現実との折り合いを処理しきれず、言葉にならない悲鳴をあげながら嗚咽を繰り返した。

叫びと恐怖が身体を震わせる。

感情がコントロールできず、内側からわいてくる感情の波を処理しきれず気絶しかけたとき


「おちついてください」


突如、私の身体が光に包まれた。

身体が少し楽になる。

そして、なぜか自分を苦しめている記憶が曖昧になっていく。


「ごめんなさい。ごめんなさい。私がもっと早くこの世界についていれば…」


呼吸を整えながら身体をひねり声の方向を見ると、そこには全長60センチくらいの妖精が、光る杖をこちらに向けていた。

私はこの妖精を知っている。この異世界に召還されるときに私を導いた妖精だ。

名前は確か…


「…エトランドル?」


名前を呼ぶと、その妖精は顔を上げて紫色の瞳でこちらを見てきた。

その瞳は涙をいっぱいに浮かべながら…


「ごめんなさい。本当は、先に記憶を消すのに…転送で…魔力が足りなかった…」

「大丈夫、だいぶ楽になったよ。ありがとう…」

「王様があんな状態だったから…」


そういえば記憶を消すのは本来は王様の役目だったと聞いたことがある。

勇者が倒れた時…いや、死ぬときの苦痛を取り除いてから肉体に魂を戻す手順があるそうだ。


「…起きたか」


妖精エトランドルから事情を聞こうとした私に向かって、闇の向こうから声がかけられた。

この声も知っている。ただ、以前一度出会った時とは比べものにならないほど弱々しい声だった。


心臓の鼓動が元に戻ると、私は上半身を起こして立ち上がることにした。

私が横にされていたのはどうやら石でできた台座の上のようだった。

落ちると思ったのだろうか、エトランドルは小さな身体で私を支えようとした。


「いや、大丈夫だよ。ありがとう」


簡素な衣装に裸足という姿で、台座から同じ石でできた床に降りると、

月明かりを頼りに建物の奥、声のする方に向かって歩き出した。

エトランドルが先行してその声の主の元まで飛び、魔法の光で照らし出す。


「…ダルナー…」

「覚えていたか、勇者『ゼス』よ…」


それは全長3mはあるかという巨大な「魔王」だった。

漆黒の闇のような黒髪に赤い目、5本の角を持つ雷の魔王ダルナー。

その姿は熟練の兵士ですら恐怖を感じるほどの威圧感を放っていた…


はずだった…


しかしその角はすでに1本しかなく、体中に切り刻まれたあとが見て取れる。

大木のように太い4本の腕は折れ、左腕の傷口からは骨が飛び出しているがそれを無理矢理革紐で縛って止血している状態だ。

魔法があれば回復くらいできたはずだが、以前見たときの取り巻きの魔物が全く見当たらなかった。


「…ひどい」


恐怖より哀れみの言葉が口をついて出るほど、魔王は満身創痍に陥っていた。

紫色の血が彼専用の巨大な台座の下にたまり、ボコボコと音を立てながら大理石の床を溶かしていた。


「勇者ゼスよ…たのみがある…」


私の姿を見た魔王は、私に向かって思いがけない言葉をかけてきた

一瞬驚いたが、すぐに頭を切り換えて考えたのは


「なぜだ?私はお前を倒すために来た勇者だぞ」


という決まり文句だった。

この世界に来た目的は魔王を倒し平和を取り戻すことだったからだ

だが、その守るべきものたちはすでに…


「お願い、勇者ゼス。魔王はあの吹き荒れる風の中からあなたの身体を集めてきてくれたのよ」

エトランドルが口添えする。

「勇者の盟約が切れたあなたはもう戻る場所がなかった。あのまま放置すればあなたは蘇生もできなかった。それを知った彼が、あの2人からあなたを取り戻してくれたの。戦って…」


なぜ?

なぜ魔王がそんなことをした?

嘘ではないのか?

たくさん疑問がわいてくるが、事実に対する最適な解答が見つからない


かといって嘘だと確定する根拠もない。


そんな私に、魔王は真剣な目を向けつつ「たのむ」と一言だけ言ってきた


「…聞いてから考える」

自分を守りながら出せる精一杯の答えを出す


「なに、頼みたいことは1つ…簡単なことだ」


そう言うと魔王は座っている台座の横を指差した。

その先にある台の上に、私が使っていた「勇者の剣」が置いてある。


「ワシを殺して「勇魔ユマ」となり、妖精たちの力になってやってくれぬか?」

「勇魔?」

「魔王を倒して力を手に入れた勇者のこと。相性によっては力が何倍にも…」

説明しようとする妖精を遮りつつ、魔王は台座から立ち上がると

残った最後の手を使って台の上の剣を持ち上げ、私の前に差し出した


「時間がないのだ。もはやこの傷では助からぬ」


私がこの世界に来たのは、この魔王を倒すためだ

どんな方法であれ、人々を救うためにこの魔王は倒さなければならない相手だ

その相手が自分の命を救うために動き、そして、命を使えと差し出してきているのだ


何故?という問いかけが頭の中でわき起こる

何故か剣を持つ腕が震える

相手は敵だぞ!と理性で叫んでも、奇妙な感情が頭から離れない


「たのむ…」


そう言いながら片膝をつき、吐血しながら苦しむ魔王

いつか倒すべき目的の相手なら、その目的が達成されるチャンスではないか

私は剣を握ると、魔王の心臓がある部分に向かって剣を突き立てた。


「よくやった。あとは…まかせた」


突き立てた剣から伝わる心臓の鼓動が、弱くなって消えていくのがわかる。


そして魔王の心臓が止まるのと引き替えに

私の中に強力な力が沸いてくるのがわかった


そして、何故か悲しい感情もわき起こってきた…


ああ、そうか

この魔王もまた命を持っていることを

そして、その命にある価値に…気づいてしまったのだ


「あなたは「勇魔」になりました」

魔王の亡骸を前に立ち尽くす私に妖精エトランドルが静かに語りかけてくる

「本来なら勇者の盟約に基づいて、あなたを元の世界に戻すことになります…」


思えばほんの数日、短い期間しかいなかった世界

すでに魔王討伐の目的の達成された世界

本来なら平和になってハッピーエンドを迎えている予定だったこの世界は、たった2人の凶悪な存在によって悲劇の未来に強制的にたたき込まれた。


この先もあの2人は他の異世界を破壊し続けるのだろう。


「…なにをすればいい」


私はもう少しこの異世界につきあうことを、決めた。

次から凶悪さが復活します

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