共鳴
「……おいおいおい、正気かよ」
カスタム依頼は、カスタムすべき船がないと話にならない。
そんな理由からか、キュクロプス社では、商談案件をもつ客に対しては、着陸パッドに固定した船ごと、商談用ドックに移送される仕組みとなっていた。
そこで迎えてくれたのはドワーフ――。と、言ったら信じてしまいそうな、オイルと煤にまみれたツナギを着た小柄な老技師だ。
キュクロプス社の第9ドック長――ゴドウィン。
ヴェルテブラが10世代も前の旧式船であるということで、古参のスタッフをよこしてくれたらしい。
しかし、彼は商談を始めるどころか、ヴェルテブラのトラスフレーム接続部を見上げたまま、手にしていたデータ端末を床に落としそうな勢いで固まっていた。
「あの~」
僕は恐る恐る声をかけるも、
「10世代前のモジュールフレームは事前に聞いてたとおりだからいいがよ……。何だこりゃ? 製造番号すらないリアクターを『3基』も積んでやがる。なんでだよ……!? バイパスの配管、これ完全独自のカスタムだろ。でもって、巡洋艦用の重シールドユニットだとっ!? こんなの起動可能なのか……!?」
なにやらぶつぶつと独白を続けている。
どうやら、パッドで運搬されている間にスキャニングが行われ、提供可能設定となっている内部構造がキュクロプス社へと送られる仕組みらしい。
「なっ……未知のリアクター3基!?」
そのゴドウィンの独白に、真っ先に食いついたのは、お船が大好きなナインベルだ。
「ちょ、ちょっと待ってくれ、オヤジさん、それは本当なのかっ!? 駆逐艦級のフレームで3基も回したら、普通は燃料が速攻で空になるだろう? 容量は増えるけど、出力は変わらず、燃料だけ大食いすぎて実用性はゼロだ! なんでそんなビルドを?」
「おお、分かるか兄ちゃん! ……んん? ありゃ、よく見りゃお嬢ちゃんか。――そうだ。あんたの言うとおり、普通なら燃料消費も3倍に跳ね上がって、あっという間にガス欠を起こして終わりだ! だがな、見ろよこの制御ログとエネルギーラインの取り回しを! この3基、おそらくだが独立して回してねえ……『完全な協調動作』をさせてやがる!」
「なっ、き、協調動作……!? それって…」
ナインベルが目を見開く。
瞳がめちゃくちゃキラキラと輝いている。
「そうだ! 公式の実装例はカイラス・インダストリーのトリシューラだけだ!!」
「トリシューラ! 全長4Kmの弩級戦艦っ!! ルドラ公国最強の移動要塞!!」
ゴドウィンの瞳がナインベルのそれと同じくらんらんと輝き、すでに瞳がキラッキラの彼女の場合は、今度は頬がつやつやになってゆく。
この空気の中で、「あの、商談は? 僕たちコンテナ見に来たんですけど?」と言うわけにもいかず、どうしようか? といった感じでリリーの方を見るも、彼女も「処置なしです」といった感じに首を横に振る。
その間にも2人の船ヲタクのボルテージは上がりに上がり。
「3基の磁場位相をミリ秒以下の精度で干渉・同調させて、互いの励起反応を増幅し合ってんだよ! その結果どうなると思う!? 燃料消費量は実質『1基分』のまま、出力とエネルギー容量だけを数倍に跳ね上げてんだ! だから駆逐艦級のボディで、倍以上デカい巡洋艦用の重シールドが何の問題もなく稼働してやがるんだよ!!」
「うわ、本当だ……! なにこの数値、どうなってるんだよ……! 燃料喰わずに巡洋艦並みの容量と出力を叩き出してるってことだろ!? でも待て、そんなミリ秒単位の位相同期、標準スペックの艦載プロセッサじゃ絶対計算が追いつかないだろっ!?」
「そこなんだよ! この船のフェーズクロック生成プログラム、内部データバスのラグがゼロに等しい。どうなってんだ一体……!?」
「すっご……こんな変態的なアルゴリズム、誰が考えたんだ……!?」
そして、ふたりして、はふぅ、と、恍惚のため息。
周囲の作業員たちすらも、これは巻き込まれてるとかなわんヤツだと、遠巻きに引いている。
「へへっ、お嬢ちゃん、いい筋してるじゃねえか。ただの客じゃねえな? こいつのメカニック担当ってわけでもなさそうだが…」
「ふふん、これでも元・五つ星傭兵だ! メカの凄みくらい見れば……いや、この船のイカれ具合は今知ったばかりだけど!」
自慢げに胸を張り、それからふと僕の方を振り返ったナインベルの頬が、微かに赤く染まる。
「……なぁ、ユーク」
「う、うん、何かな?」
このシーンだけを切り取ると、滅茶苦茶恋する乙女の顔をしているナインベル。
だが、今回の恋愛対象は僕ではなく、間違いなくヴェルテブラだ。
「この船、こんなにすごかったんだな? もっと早くに教えてほしかったよ……」
ほぅ、と、悩ましげなため息をつく。
「いや、僕も最近引き継いだばかりだから、そこまで詳しいメカニズムは……」
僕が困ったように苦笑いを浮かべると、横からリリーがすっと足音もなく寄り添ってきた。
「ユーク様。ナインベル様はご自身の『愛の巣』となる船の構造に、大変ご執心のようです」
「愛の巣かぁ。はぁ~。本当だなぁ。確かに、この機構には製作者の愛を感じる……」
いつもなら、ナインベルが真っ赤になって盛大にキョドる場面なのだが、この時ばかりはヴェルテブラの三つ子リアクターに首ったけなご様子。
「……ユーク様」
「なんだい、リリー?」
「ナインベル様の艶々ほっぺにキスでもしてきてくださいませんか?」
「なんでっ!?」
想定した反応が得られず、リリーは若干悔しそうにそう述べるのだった。




