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第2話 その5

「……はぁ」


家の階段が、いつもの3倍に感じるほど疲れ果てた俺は、自室に入るやいなやベッドに倒れ込む。


「何なんだよ、ほんと……」


ケータイ画面の時計はまだ15時にもなっていない、なのにこの疲労感。


あの怪物になったせいか、

輝照君に真偽すらよくわからない情報を大量に聞かされたせいか、

それとも……明子のせいか


「……すごい顔だったな」


枕に顔を埋めると、まぶたの裏に病室で見た明子の顔が浮かぶ。

一人で突っ走っては痛い目を見るなんてことを毎日繰り返している彼女でも、さすがに今回のことはこたえたらしかった。


その原因の一端は俺であり、

彼女はその根源を俺だと思っている。


「はぁ……」


ため息をつかずにはいられない……が、


「……よし、切り替えよ」


お医者さん曰く、明子は明日には問題無く学校に行けるらしい。

なら、明日にまでこのもやもやを引きずるのはアイツに悪い。


「別のことを考えよう」


俺はポケットの中身を引っ張り出した。


あの化物の姿に変えた銀色のカード。

そして、明子が助けた少女が変身した金色のカードだ。


こんなわけの分からない物体だが、俺をあの化物に変えたのは疑いようのない事実。

輝照君曰く、俺はこいつの中に宿っている存在と契約をしてしまったらしい。


彼はいろいろ話したうえで契約したらしいが、俺はたぶんそれをすっ飛ばしている。

説明責任を果たしてほしいところだが、どうやればコンタクトが取れるのかすら分からない今、期待するだけ無駄だろう。


「……そういえば」


『もし、今後もその怪物の力を使うなら、トリガーを決めておいたほうが良いですよ』


俺は彼が言っていたそんなことを思い出す。


『怪物としての自分と、人間としての自分を完全に切り分けるんです』

『合図となる言葉、行動……そういったものを事前に決めておくんです』

『僕の場合は血などの遺伝子を付けるなどですね』


人間に戻ろうとしたとき、強く戻りたいと念じてから戻るまで数分時間がかかった。

怪物に襲われているとき、そんなことしてたら明子を守れない。

もし本当にルーティンとかで即座に人間と怪物を行き来できるなら、それに越したことはない。


それに


『僕は今日までに3度怪物と相対している』

『そのうちの1体が猿野郎、それ以外はもう倒した』

『そいつら全体に言えるのが、話が通じない、さんざん言葉を投げ合っても相手に届かない』

『特に最初に戦った鳥の巣の怪物は子供を守るとか叫びながら、その子供を傷つける狂いようだった』

『……ありゃ、完全に化物に意識を乗っ取られてたな』


彼曰く、怪物の力は使おうと思えば怪物の姿にならずとも使えるらしい。

しかし、そんなことをしてたらだんだんと自分が人間なのか怪物なのか分からなくなるのではないか?

それが理性を失う理由なのではないか……とのことだ。


要はその万能感に溺れ、怪物の力を自分の力と誤認し始めたら理性を失っていくということなのだろう。


そう考えると今の俺は、この力を明子に嫌われる要因と考えているから理性的(自己評価)なのかもな……


「……しかし、合図となる言葉か」


合図となる行動は普段なら絶対しない動作がいいだろうし、ここは輝照君に倣おう。

要は噛めばいいんだろ、手軽じゃん?


俺はベッドから起き上がり、

床に散らばるものを適当に端に寄せてスペースを作って、


「やっぱりここは………変身!」


銀色のカードを噛み、光りだしたそれを構え

怪物になると言ったらお馴染みのセリフを口にする……が、


「……あれ?」


何も起こらない。


「変身ッ!」


もう一回言ってみるも駄目


「変身!」


ポーズを変えても駄目


「へ〜んしん」


口調を変えても駄目


「ライダアァァッ、変身ッ!」


迫真でやっても駄目。


「変身」


ベッドに寝転んでも駄目


「……変身って言葉は俺に合ってないのかもな」


ベッドに寝ころんだまま、あくびをしながら俺は考え込む。


このまま闇雲にやってても、親にいい年齢(とし)して何やってんだと思われるだけだ。


「もっとイメージを大事にすべきなのかなぁ……」


俺は光り続けるカードをじっと観察する。

すると、朝にはなかった文様が浮かび上がっていることに気がついた。


「K……なのか?」


それはどう見てもアルファベットの「K」。

だが、それだけではない。

よくよく見るとどことなく……漫画に出てくる騎士、あのバイザーにトサカの兜を思わせる紋様だった。


「騎士……か」


確かに、俺のあの怪物の姿は騎士だった。

どことなく狛犬っぽい騎士。


それに姿を変えることを言葉として取り入れるべきなのだろう……


「騎士、狛犬……」

「鎧…戦う」

「鳥居……門」


悩みに悩み、試しに試し。

結局、言葉を決められたのは空が赤くなる頃。


……まぁ、その間明子のことで悩まずに済んだことを考えると、時間を無駄にはしていないだろう。




お読みくださり、誠にありがとうございました。

大変励みとなりますので、

ぜひ、感想やアドバイス、高評価などよろしくお願いいたします。

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