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第2話 その4

「爆破事件?」


「あぁ、今朝もあっただろう」


そう言われて俺は朝見たニュースを思い出す。

劣等感や苛立ちなどを一旦飲み込む。


明子の身の危険、人類の虐殺とあってはと、何とか飲み込んだ俺は病院の外、柱にもたれながら輝照君の話を聞くしかない。


「ここ3ヶ月で大型ショッピングモールや公園、映画館から病院まで計8件の爆破事件が起こっているだろ」

「おかげで今じゃ至る施設が急ぎで爆発物を感知するセンサーを配置している、ほらあれだ」


輝照君は窓やドアに取り付けられた装置を指さす。


「じゃぁ、今日標的にされた病院は不運にもそれが間に合わなかったわけ?」


「んなわけねぇよ」


輝照はそう言う、

そりゃそうだ、人の命を助ける施設への設置が後回しにされるはずがない。


「……センサーに検知されない爆弾だったから」


そんな事、可能なのか?


……いや、そういう技術だの常識だので語れない存在とついさっき、出会ったじゃないか。


「怪物によるもの……なの、か?」


俺の頬を冷たい汗が伝う。

今しがた出た病院を見上げる。

この建物が火の海になる姿を、黒い煙に包まれる姿を想像し、吐き気すら催しそうになる。


「あの猿野郎の目的が全人類の虐殺だってんなら、手段としちゃあ爆弾は妥当だろ」


……そう、だろうか?


もし、そうだとしたら先の戦いで相手は能力をほとんど使っていなかったことになる。


使うまでもない相手だと、俺が思われていたということなのだろうか?


ナメられている……いや、ここはそのおかげであいつを倒せたと思っておこう。


「しかし……なんでそんなに知っているんだ?」

「なんで目的なんて知っているんだ?」

「あいつはそんなにもペラペラとしゃべる奴じゃなかったのだけれど……」


「……対価を、払ったから」

「会いたいという奴に会わせてやるかわりに聞き出した……これは、あいつから持ち出した交渉だ」


「会いたい相手というのは?」


俺が問うと、彼は頭上を指さした。


真上の太陽を……いや、病院の屋上を指さした。


誰も入れないはずの屋上で大きく羽を広げる彼女、

華家来花笑


「そして、あいつは名乗った」

「自分の名前を、身分を」

「奴の名は祭祈(さいき)、史廻天生祭祈(しかいてんせいさいき)」

「仕事は……教祖だ」




登り慣れた階段を登る。

毎日登ったり、降りたり。


今朝もこの階段を降りていたら、

近道を選んでいなければ、

変なことに巻き込まれずに済んだのか、


でも、そうしてたら明子を助けられなかったんじゃないか、


明子に自分はどう思われているのか、


1段登るたびに飲み込んだ負の感情が、また戻ってくる。


自分は何をやっているのか、

もう、明子に近づくべきじゃないんじゃないか、

これからどうしたらいいのか、

わからないまま俺は階段を登り切る。


鍵を開け、ドアを開く。

学校に行かず、引き返して来てしまったことをどう説明しようかと考えながら家に入ると、


「いい加減帰れや、バテレン!ここは神域じゃ!」


「不勉強め!うちにだって神はいます!」


大きな声が玄関まで聞こえてきた。

俺は外に聞こえないように急いでドアを閉め、

父さんと斗陸さん、2人がいる部屋をのぞき込んだ。


「カァーッ、ペッ」

「八百万のたかが一柱二柱がしゃしゃり出んなや!」


「やはり偶像(アイドル)信仰は節操無いですね!」

「我々は死者蘇生という奇跡を成し遂げた実在の聖人を崇拝しています、貴方方とは違うのです!」


何か小学生のような掛け合いをしている。


1つの神社、1つの教会の代表だろうに自身の教えのこととなるとこれだ。

教えって、そんなに熱く語るものか?


「………宗教の代表、か」


そんな事を考えていると、俺は、ふと、あの猿を、祈祭とかいう教祖を思い出す。


「けッ、"馬鹿は死んでも治らない"を証明してもらったことがそんな嬉しいかよ!」

「……って、ん?」


無意識に視線に怒りでも籠もってしまったのだろうか、口喧嘩をしていた父さんが、ふと目線を動かし、俺と目が合う。


「おう進、お帰り」


「ん?もうそんな時間ですか?」

「話に熱が入ってお昼を食べ損ねて……って、おや?まだ12時過ぎじゃないですか 」

「進君、どうしたんです、今日は午前授業だった……ということもないはずですが」


斗陸さんは腕時計を見ながら首を捻る。


「……斗陸さん、俺が家出てからずっと父さんと喧嘩してたの?」


「喧嘩……まぁ、そうですね、1時間ほど待たされましたが」


「ケータイ、持ってる?」


「?」


俺の質問に斗陸さんは首を捻る。


「今日は忘れて来てしまいましたが」


「………斗陸さん」


「ど、どうしましたか?」

「そ、そういえば明子は……」


「第三病院へ!今すぐ!!」

「なんで行ってないんだよッ!」


俺の八つ当たりのような言葉を聞いて、

斗陸さんは顔を真っ青にして、荷物も持たず駆け出した。


「……どうした?」


肩で息をする俺の肩に手を置きながら父さんは聞いてきた……けど、何が話していいことなのか分からず、黙ってしまう。


「どうした、お前らしくないな」

「明子ちゃんを置いて帰ってくるなんてよ」


「そっちかよ」


俺の態度に何かを言われるのかと思っていたのに。


「そっちかよって、それ以外ないだろ」

「俺は悲しいぜ?好きな人間を病院で1人にしちゃうなんてよ〜、そんな奴に育てた覚えはねぇんだけどな」


冗談めかした口調で肩を揺らされ、

俺はそれへの苛立ちと同時に、肩の力が少し抜けるのを感じる。

それと同時に、何も言わない俺を見て父さんは何らかの事情があるのだろうと察し、微笑む。


「進、次だ」

「次が大事だぜ」

「お前が黙ってるのが、どんな事情でなのかとか、それが無力感なのか後悔なのか俺は知らねぇけどよ?」

「それを活かせ」

「そこで立ち止まるな」

「そんなんで、自分を変えんな」

「……折れんなよ、進」


「………わかってるよ」


俺は肩に乗せられた手を振り払って、

それでもその感触と言葉を忘れないまま、

自分の部屋に逃げ出した。




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