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第2話 その3


「子供を作るためというのはあくまで結果だ!」

「俺達の目的は花笑の子供を作れないという体質を直すことであって、俺と子供を作ろうって話じゃないんだ!」


「……うん、わかったから」


「そんな若干引いている顔で理解したと言われて、誤解がないと思えないんだが!?」


そんなやり取りをしていると、

携帯が鳴った。


明子が目を覚ましたというのだ。


「俺、行くね」


「待ってくれ、僕らも同行したいのだが」

「猿の化け物について、少しでも情報が欲しいんだ」


「……いや、駄目だ」

「あんな事があった後で、目を覚まして目の前に知らない人間がいるのはあいつを困惑させるだけだ」


「しかし……」


俺は2人をはっきり拒絶するが、何か気になることがあるのか輝照君は食い下がる。

だが、


「なら、わたし達は外で待っています」

「もし、大丈夫そうなら紹介していただけませんか?」


「……まぁ、それなら」




「明子、入っていいか」


ドアを数度ノックし、了承を得ると

壁に持たれるように立つ輝照君とその隣の花笑さんに『入ってくんなよ』と釘を差すように目配せしてから部屋に入る。


「おはよー、進」


「おはよーって……緩すぎない?」


「いやぁ、目を覚ましたら病院!ってこの状況に緊張してたんだけど……進を見たらつい緩んじゃった」


「そりゃ、光栄だけどさ」

「……明子、何処か痛いところとか無いのか?」


俺はこんな会話を始めたらきっと本題にいつまでもはいることはできないと思い、自ら切り出す。

まずは緩やかなボールから


「ん、特に無いよ」

「先生も、いつもは擦り傷が絶えないのに、今回に限って身体に特に問題は無いって言ってたし」


まぁ、そうだろう


「それどころか……見てよここ!お腹の傷跡までなくなってるの!」


「ちょ!?」


俺は、患者衣をめくって脇腹を見せつけてくる明子に、自身の目を隠しながら変な声が漏らす。


「いや、だってさ?」

「一生消えないって言われてたんだよ?乙女の体を傷物にしてた存在だよ?それがなくなってるなんて病院に担ぎ込まれていること以上の異変だよ!」

「私の身に何があったのかな?」


「……何があったのか聞きたいのは俺だよ」

「俺を置いて角を曲がった後、何があったんだよ?」


本当は全部知っている


曲がり角の向こうで起こった非日常的一件。

何故、彼女が病院に運び込まれたのか、

何故、怪物に首を絞められたのにその跡すら無いのか?


しかし、花笑さんからそこら辺のことを覚えていない可能性もあると言われているため、

とりあえず俺は知らないふりをする。


「………そうだなぁ、覚えていること」

「女の子を助けたこと……かな?」

「信じてもらえないかもしれないけど、化け物が突っ込んできた気がする」

「それから私、女の子にすごい怒った気がする……あれ?何で化け物に襲われてる女の子を責めたんだろ、私」

「そしたら金色のカードを……くれた?それを……どうしたんだっけ?」


どうやら記憶が混乱……というか、混同?

いろいろな場面が混ざっているらしい。


「その化物って、どんなんなんだ?」


俺は問うと、数秒、なんとか思い出そうとした後、明子は


「化物は………犬?」


そう答えた。


「犬の化け物だった、銀色で……鎧?犬の鎧の化け物……だったと思う」

「そいつが私を……どう、したんだっけ…?」


「……そっか」

「でも、安心したよとりあえず怪我はないみたいで」

「コレで安心して学校に行けるよ」


「……え?」

「あぁ、そうだよね……うん、私もちょっと頭痛いし」

「私、もう一回寝ることにするよ」


「あぁ」


俺は病室のドアに手をかける……と


「進!」


彼女は言う


「また、あとでね」


「……うん、また明日」


俺はベッドにいる明子を数秒、見返した後に病室を後にする。


そして、病院からも出るべく歩き出す。


「……彼女、金色のプレートを受け取ったのか?」


「……」


そんな俺の後ろを輝照君はついてくる。


「傷跡まで治してしまったのはやりすぎましたね、お医者さんに不自然に思われるかもしれません」


「……」


自身の施した治療の結果にそう言いながらついてくる花笑さん。


「おい、答えろよ本郷進(ほんごうすすむ)」


「…………」


「本郷さん、怒っていらっしゃるんですか?」


「…………」


怒る?

何で?

喜ばしいことじゃないか、あいつが無事だったんだぞ?

怒ってるわけないじゃないか


そう、口にすることはできなかった。


そうだ、怒っている……いや、苛立っているんだ俺は。


しかしその理由は、あまりに身勝手で恥ずかしいものだった。


感謝されるとでも思っていたのか俺は、

見直してもらえるとでも思っていたのか、

自分を化物にしてまで彼女を助けた自分を、自分だけの視点から、自分だけが誇らしく思っていたんだ俺は。


俺は


俺は、彼女が俺に襲われたとわずかにでも思っていることに……勝手に失望した。


別に明子が悪いわけじゃない


猿野郎に襲われた記憶と、彼女にとってはもう一体の化け物でしかない俺の怪人としての姿が混同した、

記憶に混濁があるだけ、勘違いしているだけ


なのにだ


なのに苛立つ自分が、

あまりにも汚い存在に思えて、


あの病室にいることが、彼女の前にいることができなくなった。


逃げ出したくなってしまった。


「おい、本郷進!」


階段を降りていく俺を、輝照君は踊り場から呼ぶ。


「いいのか、明子……緑川明子(みどりかわあきこ)を守らないで」


病室のプレートを見たのか、教えてもない彼女の名前を訳知り顔で言う彼を、俺は睨むように見上げる。


「あいつは、俺に襲われたと思っている」


「お前にじゃない、化物にだ」

「そんな事を言っていては後悔するぞ、距離を取れば彼女はまたあの猿野郎に襲われ、死ぬぞ」


「……何だって?」


「彼女は選ばれたんだろう、金色の願望器に」

「あれは猿野郎が探していたものだ、あれは他の願望器より明らかに上位のもの」

「あれに選ばれている限り、それを奪おうと襲われ続ける」

「お前が彼女を守るしかない」

「たとえ、彼女に拒絶されてもな」


「……何故?」


「君が、彼女を大切に思っているからだ」


彼は年下のくせに、訳知り顔でそう言う。

それにすら、俺は腹がたって、

なおさら機嫌が悪くなる……が、しかし


「……あいつは守るさ、俺が」


俺が失望したことと、彼女を守るかどうかは全くの別問題。

疑問に思うのはそこじゃない。


「何故、そんな事を俺に言うんだ」

「あんたら、何がしたいんだよ」

「お前達は何で俺に親切にしようとする?」


「……僕達は当面の敵をあの猿、君達を襲った怪物と定めている」


「あいつの、何が特別なんだよ」

「そんな、あいつを特別敵視する理由があんのかよ」


俺が問うと


「……あるさ」


彼はそう、断言し


「あいつの目的が、全人類の虐殺だからだ」


そう答えた。






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