第2話 その2
「……なるほど、そんなことが」
カクカクシカジカと、対面に座る2人にとりあえず朝から起こったことを、朝食のメニューから何まで話終えると華家来さんは頷いた。
「突然のことに困惑したでしょう」
「そんなときにいきなり現れて、高圧的に接してしまったこと、改めて謝罪する」
「え!?いや……むしろ、貴方達が来てくれて助かりました!」
「貴方たちがいなかったら……人間に戻れなかったし」
深く頭を下げる悪魔……いや、今はただの少年の姿となっている華家来さんに、まだ状況を理解できずにいた俺は、ハッとし、慌ててそう言った。
「いいえ、それこそ感謝されることではありません」
「僕が教えたのはただのコツ。教えなくともおのずと戻れていたでしょう」
「いや、でもそんな悠長なことをしてたら……救急車に同伴はできなかったかもしれないし」
そう、ここは病院。
その中に設置されたカフェ。
華家来さんが人間の姿に戻す方法を教えてくれたおかげで今、俺はここにいることができている。
俺は見慣れた自分の手に喜びを覚えながらコーヒーを一口飲み、一度心を落ち着かせてからもう一度目線を目の前の2人に向ける。
「それで……あの、お2人はいったい?」
「恋人です」
「そういう意味じゃねぇだろ」
「え…そうは見えませんけど」
「そういう意味なのかよ!?」
「いや、だって……!」
確かに聞きたかったことはそこじゃないけれど、恋人と言われたら驚かずにはいられない。
だって、華家来さんの方は明らかに中学生。
パツンとおかっぱのような黒い髪と左耳にかけるように長い白髪が特徴的な髪型、
生意気そうな目つきから感じる幼さや、
身長もそうだが、
そもそも着ている服が俺の通う学園の中等部のものだ。
それに対して天使(名前不明)さんの方は……何歳だろう?
おそらくは俺より年上……のはず。
その楽しそうに笑う彼女の芸術品みたいに整った顔つきも、
髪色が黒に近い色になっているが天使の姿のときと長さの変わっていない髪も、
体型も、すべてが俺に大人な印象を与える。
つまり、年齢差がすさまじそうに見えるのだ。
もしこの2人が本当にカップルなのだとしたら……
「何か、失礼なこと考えてるだろあんた」
「ナンノコトデショウ」
「あはは」
しらを切る俺を猛犬のように威嚇する輝照君を天使さんは笑いながらなだめ、そして俺に向き直った。
「そういえば、わたしは名前を名乗っていませんでしたね」
「わたしはハナエル……いえ、華家来花笑です」
「輝照君とは……そうですね、今は義姉弟ということにしておきましょうか」
【今は】という言葉を少し強調しながら、いたずらっぽく彼女は言う。
……なんだかこっち方面はもうあんまり触れないほうが良さそうな気がする。
「それで、さっきの……化け物のことと、コレのことなんですが」
そう考え、俺は本題に移って机にあの、銀色のカードを置く。
「……あんたはコレをどこで?」
「家の近くのカラスの巣です」
「そんなとこにまであんのかよ…」
気がつけばずいぶんと横柄になった口調で、だるそうにソファにもたれながら彼は呟き、
そして、
「そいつはな、端的に言うなら願望器だ」
カードを指さして言う。
「契約者のどんな願いでも一つ、叶えてくれる……いや、叶えられる力をくれる」
「?」
「空を飛びたいと思えば翼を生やす力を、高速移動ができるようになりたいと願ったら自身を雷に変える力を得られる」
「そういった願いを叶えるために必要な異能を授ける存在……それがそのカードだ」
輝照君の言葉に首を捻ると、
花笑さんが例を挙げてくれる。
「……つまり、化け物から明子を守りたいと思ったから俺も化け物になる力を手に入れたってこと?」
俺は軽く手を上げてそう尋ねる、すると
「それは……どうだろうな」
彼はそう言った。
「僕が得たのは《遺伝子を操作する力》だ、わざわざ化物になる必要がある能力じゃないだろう?」
「まぁ……確かに」
「ならなんで?」
「知らねぇ」
「契約者同士を戦い合わせたいんじゃねぇの?」
「いや、さすがに……」
「でもよ、本来願望器なんてのはバトルロイヤルを勝ち抜いた賞品であるべきもんだろ?」
「無償で何でもかなえてくれるってのは出来過ぎだと僕は思うね」
「……ま、そういう可能性も全部考えたうえで契約したんだけどよ」
……なるほど、それは確かに。
ただ偶然拾ったから、どんな願いでも叶えてもらえますってのは、ずいぶん虫が良すぎる話だ。
それに、そもそも願望器とか言われてるものが何枚もある時点で色々怪しい。
「契約前に絞れるだけ全部、情報を搾り取ってやろうと思ったんだが……全然話が通じなくてよー」
いや、絞り取るって誰から?
そう聞こうとして開いた口を俺は閉じた。
あのとき、明子が襲われるのを見ても、動き出せなかった俺に問いかけてきた存在が、そうなんだとなんとなくわかったからだ。
そして、俺の心は思う。
俺がコレを手にして良かったのか?
どんな願いも叶う可能性の塊、それがこのカードなのだとしたら、
不治の病を治したいとか、もっとコレでしか叶えることができないような願いを持つふさわしい人が得るべきだったんじゃないのか?
また、仮にこれからバトルロワイヤルが待っているとしたら、
本当に俺は、あの猿と同じような化け物と、目の前の2人と、これから戦っていかなければならないのかと、
そして思う。
花笑さんの方は……大人だ、少なくとも俺よりは年上、俺が文句を言える相手ではない。
けど、輝照君はどうだ?
暴力沙汰にはまだ若すぎると、思うのは俺の勝手なのだろうか?
「……ねぇ、君達は何を願ってその能力を得たの?」
戦いが待っているかもしれない、その可能性に思い当たってなお、叶えたい願いが、それだけの覚悟がこの2人にはあるということかと、
それだけの願いはなんなのかと、
一呼吸置いた後、俺は問う。
「君達は何を願ったの?」
真剣に、まっすぐと2人を見て。
そして、俺の緊張を受け取ったのかゆっくりと2人は口を開く。
「………それは」
「子供を作るためです」
「……は?」「ちょッ!?」
子供?
中学生との?
……………
「事案だぁぁあっ!?」
「違うんだ、話を聞いてくれぇぇっ!!?」




