第9話 その4
「ハハハハ!!」
輝照の拳も、花笑の放つ光も、
その全てを史壊は笑いながら回避していく。
輝照が床にばら撒いた種による攻撃も、容易くジャンプで躱され、
宙に浮いている史壊を追撃しようとしても、彼は小規模な爆発を引き起こし、空中で体勢と位置を自由に変える。
宙で舞っているようなその動きで、彼は器用にすべての攻撃を回避していた。
「お前ッ、何なんだ!」
「何かって言い表せるほど、浅い人生を送ってるつもりはねェ、よッ!」
爆発を推進力にした史壊の回転蹴りが輝照の腹に命中。
さらにドレッドヘアーを蛇のように伸ばし、輝照の体に絡みつかせ拘束。
「輝照!?」
それに動揺し、光を放つのが一瞬遅れた花笑へ、
史壊は輝照を投げつける。
「ぐっ!?」「きゃ!?」
「Boom!」
さらに、彼の指からあの、打ち込んだものを爆弾に変える弾丸が放たれる。
「危ない!」
花笑は咄嗟に輝照を受け止めながらも、なんとか自身の手から光を放ち、
その弾丸を消滅させる。
「ハハッ、何その力!」
そのときにはすでに史壊は2人の目の前に迫っていた。
掌が花笑の顔面に触れると、
「うぉ、怖…何これ」
掌を包む装甲が、みるみる塩になり始めた。
どうやら彼女の体はあの光と同じ物質に包まれているらしい。
「このまま触れてたらどうなっちゃうのかなァ〜?」
「まぁ、どうなってもいいけどね!」
しかし、史壊は構わず花笑の顔面を掴んでビルの下へ投げ落とす。
「あの女、厄介そうだなァ……だがよォ!」
そして史壊はまた、街へ弾を放つ。
「ほらほら、あんたの光線なら爆発を防げるぞ!」
「ッ……!」
花笑は翼を広げ、その弾の、打ち込まれた場所の対象に向かう。
「………お?」
それを器用に飛ぶなぁ、と気楽に見ていた史壊、その背後で輝照はあの種子を砲弾のように放つ植物、砲千花を誕生させる。
しかし、
「ハハッ、根っこを広げすぎだな」
「導火線みたいだぞ」
「!?」
砲千花は根から突如炎上を始める。
「なら根を広げないように……!」
また彼は種を撒くが、
「脆い!」
根を張らなければ安定せず、種子を打ち出す反動に耐えられない。
そのうえ、史壊が引き起こす爆風で、容易く倒れてしまう。
「こんな軟弱な力でオレに勝てる気なのかァ!?」
また爆風に乗って距離を詰めた史壊の蹴りが輝照の腹を抉る。
ボロボロの屋上で転がる彼を、史壊は追撃しない。
「……お、再装填終わったな」
別にやることがあるからだ。
「じゃ、あの女に近づかれても困るし……もういっちょ行こうかッ!」
全身にいつの間にか再び縫い付けられたボタン。
花の刺繍の中心で太陽の光を反射する玉が、再び街中に放たれる。
「再生……するのかっ……」
ずきずきと痛む腹を押さえながら、詰まり気味な声で問う輝照に男は笑う。
「言わなかったっけかァ?再生するから、コツコツ信者を爆弾にできたんだろうが」
「あんだけ用意すんのは時間がかかるが……」
「あ〜ぁ、やっぱ惜しいよなァ」
「ふざけるなぁ!」
コンクリート製の床を突き破って急成長した蔦が史壊の全身に絡みつく。
彼は冷静にそれを燃やす。
「うおぉぉッ!」
そしてその隙に立ち上がった輝照は、
すぐさま殴りかかった。
「……ハハッ」
自身の体をいじり、発達させた脚力による輝照の音速にも届きそうな突進。
「?」
しかし、気がつけば輝照の視界は大きく動き、
頭は床へ、足は天へ向いていた。
片手による受け流し、いわゆる合気か?
亜音速で突っ込んでくる化物の腕を掴んで、投げたのだ。
他の怪物と違い肉体が変異していない、身体能力が人間の域を出ないはずなのに。
それは、才能と研鑽、無数の経験によって身につけたとしか言いようのない、
史壊という男の達人の域に至った一種の勘が、それを可能にしていた。
「……わかんねェなテメェ」
そんなバケモンは地面に転がる輝照を見下ろす。
「テメェ何にキレてんだァ…?」
「街を破壊されたこと、それにももちろん怒っちゃァいるんだろうが……お前はそれ以前から怒っていた」
「モールか病院かで誰か大切なやつでも巻き込まれたか?」
「いや違うな……もっとインスタントな怒りだな」
史壊は、全てを見透かしたような目で言葉を続ける。
約15年にわたり教祖を務めた経験からか、輝照の怒りを1つずつ解体していく。
「信者の中に家族がいた……わけないか」
「輝照で中学生といえば、華家来家の輝照だろ?」
「この街の名家だ、取り込めていたのなら覚えている」
起き上がろうとする輝照の重心を彼は踏みながら言う。
「となると……地下の研究室にあったものか」
輝照の手から溢れた種はツタになるより早く燃え上がる。
「【天使】だな」
彼の能力は《着火》、他と名を揃えるならば【Ignition】。
全ての爆弾へ火を灯す導火線そのものだ。
「ふざっ……けるなぁァッ!」
輝照が背の裏に仕込んだ種が成長する。
彼の体を、男の足ごと持ち上げる。
「あれが天使なものか!あんな、あんなッ!あんな見た目なんてッ!」
体勢を崩した史壊の首を、輝照は掴む。
怪物の握力さえあれば一瞬でその首を粉々にできる。
だが、男は未だひょうひょうとした態度を崩さない。
「ひどいなァ、あれはオレの15歳のときの姿だぜ?」
「そんなにブサイクだったか?」
「ッ……何が15だ、彼らはまだ幼児と言っても良い年齢だろう!?」
「おォ、鋭いな……そういう能力か?」
「あれは信者から捧げてもらった受精卵を、薬品と組み換えで設計図通りに急成長させたものだ」
「その後も多少いじったがな」
「何のためにッ!?」
輝照はそのいけ好かない顔に噛みつかんとするほどの剣幕で問うが、
「え、できるって言われたから」
男はあっさりと答えた。
「見てみたかったんだよ、同じ顔の人間がズラッと並んでる様を!」
「あぁいうのSFっぽいの、やってみたかったんだ」
「技術者にできるって言われたときは小躍りしたぜ?」
「………まァ、本当はクローンが良かったんだけどな」
「あんたはッ!」
輝照が首を握る手に力を込めようとした瞬間、その腕が燃え始める。
それにより一瞬力を込めるのが遅れた輝照は、腹に拳をぶち込まれる。
「……ッゥ!?」
その瞬間、彼の体内にガントレットにはめ込まれた5つの玉のうち4つがねじ込まれ、
――起爆、
腹の肉そのものが火薬となって、爆発した。
しかし、
「うぉおおッ!」
「!」
それでも倒れず、踏ん張った輝照の拳が史壊の顔面を殴り飛ばす。
「ふざけるなッ!」
「お前は、お前は子供を何だと思っているんだッ!」
種を体に植えて無理やり塞いだ腹から未だに煙を漏らしながら、
彼は吹き飛ばされた史壊を睨む。
「あんた……人間じゃないッ!」
「そうさッ……人間だってんなら、この世にいちゃいけない存在だッ!」
「僕が……僕があんたを倒すッ!」




