第9話 その3
一際巨大な揺れのすぐ後から続く、
余震のような断続的な揺れ。
割れて、あちこち崩れたアスファルトは、
その隙間から黒煙を漏れ出させている。
その下から、
「フフッ、フハハハハハハッ!」
不気味な笑い声が響く。
人々が逃げ惑う中、
アスファルトを巨大な爆発と共に突き破ってそれは現れた。
それは……1人の男だった。
そんな現れ方をしたとは思えないほど、朗らかで若々しい顔をした男。
どこかタロットの愚者を思わせる、黒紫色の布に花柄の刺繍を細かく施された衣装には、
その花たちの中心に、キラキラ光るビー玉のようなものが埋め込まれていた。
そしてそのキラキラとした装飾は、ボロボロの三角帽子にも施されている。
だが、そんな姿をしていても彼に道化師のような印象は抱けない。
風になびく火のついたドレッドヘアーが、
肩の少し下から千切られたかのように無くなっている左腕が、
右手に装着した鈍く光るガントレットが、
目の前にいる存在は恐ろしい存在なのだと、本能が警告を発していた。
「………ふむ?」
そんな男は地面に着地すると同時に振り返る。
そこにあるのはビル。
他のビルに比べて妙に白い、何かの宗教施設の本拠地だとか噂されている奴だ。
先程起こった大きな揺れとともに、
至る所で爆発が起こり、この建物の至る所から今もなお黒煙が昇っている。
それを見上げていた男が突如飛ぶ。
ブーツの底が突如爆発し、建物から立ち上る煙とは比べ物にならないほどの煙を噴き出して、
ロケットみたいにだ。
地面の揺れ、爆発。
ロケットみたいに飛ぶ男。
理解できない状況の連続。
どこか安全なところへと逃げる人々がいる中、
危機感が麻痺しているのかある何人かがケータイのカメラを男に向けた。
「うぁ!?」
そのカメラが何か光るものを捉えた瞬間、ケータイが爆発した。
全員の端末が、ほぼ同時にだ。
手に伝わる熱と痛み。
これには麻痺してた彼らも恐怖を思い出し、逃げ出していった。
「……すさまじい景色だ」
ビルの屋上に降り立った男はその愚者のような衣装を風にあおられながら街を見回す。
学校、病院、住宅街、至る所から昇る黒煙と、赤い炎。
至る所から救急車だろうか、消防車だろうか、うるさいほどのサイレン音が聞こえてくる。
崩落したアスファルトに、崩れた建物の数々。
安全な場所を探して走る人々が見える。
「なんて惨劇ッ……!」
「こんなッ、こんな……!」
一体どれだけの死者が……
どれだけの被害が……
「なんて、もったいないッ!」
「あの爆風を!熱を!音を!この肌で、この耳で、直接感じたかったなァ……」
「てかせめて、こんだけ同時に起爆する瞬間くらい見たかったなァ……」
「……貴方、いったい何を言っているんだ?」
心の底から悔しそうに叫ぶ男に、灰色の翼を広げて困惑しながら見下ろす輝照。
「何が起こっているんですか……?」
その隣で白い翼を広げる花笑もまた、ほんの僅かな時間で起こったこの惨劇に困惑を隠せず問う。
すると、
「ん〜、端的に言えば……誤爆?」
「「……は?」」
「いやァ、爆弾を仕込んだのはオレなんだけどさァ?」
「起爆するつもりはなかったんだぜ?」
「目覚めた瞬間、反射的に起爆しちまったのは……たぶんあのジジィがそう仕込んでたんだろうなァ」
「オレが目ェ覚めたら、全部の爆弾を起爆するようにな」
「そんな……貴方、なんでこんな街の至る所に爆弾なんて!?」
「いやいや、そんな言われても困るよ」
「あいつらにも日常生活があるわけで、いくら教祖だからって生活範囲を制限なんてできないって」
「………あいつら?」
輝照はその言葉に一瞬、頭が真っ白になる。
そして、花笑は
「あ、貴方が……人を、信者を……爆弾に変えていたのですか!?」
理解できないものを見るような目をしながら問う。
「そうだよ?」
「なんだ知らなかったの?」
それに対してあっけらかんと彼は答えた。
「祭祈が持っているんじゃなかったのか……?」
輝照が問うと、
「ん?」
「あぁ、祭祈って、爺さんのほうね」
「ややこしいなァ……でも、奪われちゃった名前を名乗り続けんのもダサいか……」
「質問に答えろッ……!」
「うるさッ、やめてくれよ怒鳴んの……俺寝起きだぜ?」
「で何?爆発の能力の持ち主?見りゃ分かんだろオレだよ」
「ついでに言うと爺さんの作った自助グループ?を宗教団体にしたのもオレ」
「結構頑張ったんだぜ?」
「オレみたいな若いのが教祖ってのは説得力無いから、逃げてった爺さんの顔と名前を使ってさ……バレないようにすんの大変だったんだよ、顔を出さない適当な言い訳作ってさ?」
イライラとした口調が、グラデーションのように徐々に楽しげに変わっていく。
「いやぁ、しかし悪いことをしちゃったね信者にも」
「自らの意思で起爆できるはずが誤爆だなんて可哀想に……」
「でも、まぁつまり爆発で死ぬのは皆が望んでたわけだし?」
「………まァ、望むように仕向けたのはオレなんだけど、オレごときの言葉で望んじゃうのが悪いっていうか?」
男はクスクスと笑う。
肩を震わせ、楽しそうに……
「……っとと」
そんな最中、彼は突如左によろけた。
体勢を変えようとして失敗したらしい。
「ありゃ……治ってると思ってたけど見せかけだけか」
「そりゃそうだよな、焼かれたんだもんな………う〜ん、時間無さげか?」
彼は右手で左足をなぞり、そしてニヤリと笑う。
「そんならじゃ、最後の最後もやりたいことやりますか!」
彼の服から玉が分離する。
まるで種のような、ビー玉のようなそれが……弾丸として放たれる。
花笑、輝照は咄嗟に回避行動を取ろうとするが、
弾の狙いはもともと彼らに向いてなどいなかった。
全方位へ放たれた弾丸は、街の至る所、家屋へ、人へ、道へと打ち込まれる。
「とりあえずもういっちょ、惨劇と行こうかァッ!」
「なッ……!?」
「やめろぉッ!」
その言葉の意味に気づき、花笑と輝照は動き出すも……もう遅い。
「イグニッショォオン!」
彼が吠えた瞬間、また爆発が巻き起こる。
鼓膜を揺らす音、肌を押す爆風、嫌な匂いと視界に入る黒煙。
10を超える爆発が、また同時に引き起こされる。
「アハッ、アハハハハハハッ!!」
「良い!イイッ!素晴らしいッ!」
「やっぱいいなァ爆発は、芸術とイコールなのもわかるぜッ!!」
人の悲鳴が街中で響く中、一際大きく響く楽しそうな声。
パペットのように、人間とは思えない動きで踊り笑う男。
「あぁ……そうだぁ………シカイにしよう」
その踊りを、不気味なほどピタッと止めた男は呟く。
「オレはシカイだ、今日からシカイ……漢字はそうだなァ………歴史の史に、壊すでどうだァ……?」
「うん……厨二臭すぎてイイッ!」
「オレらしくてイイッ!」
「オレは史壊!」
「さァ、始めようぜ!」
「リベンジしたかったんだよ、異能力バトルってやつをよォ!」
そして、2人に、
既に彼へ攻撃を仕掛けている輝照と花笑に、
災厄は笑いながらそう告げるのだった。




