第9話 その5
「人間のすることじゃない……ずいぶん強い言葉を使うな」
自身が引き起こした爆発で姿勢を正した史壊は言う。
「しかしよォ?オレの行いの何が駄目なんだァ?」
「少なくとも【天使】の計画はこの力を手に入れる前、純然の人間なオレのしたことだ」
「それに賛同し、受精卵を提供した人間も、その手段を提供した人間もいた」
「人間のすることだよこれは」
「オレがすることも、お前がすることも!全ては人間のやることだろう?」
「貴方にはッ!行動を起こす前にッ!」
「これはやってはいけないことだとッ!許されることではないとッ!」
「思い、立ち止まることは無いんですかッ!?」
互いに、理解できない相手の考えに自分の考えをぶつけ、
それとともに史壊はまた全方位へ弾丸をばら撒く。
輝照はその触れるものを爆弾にする弾丸をかいくぐりながら自身の腕を、猛禽類の鉤爪を生やした異形のものへ作り変えて攻撃を仕掛ける。
「ん〜〜〜無いな!」
「なんで他人のために自分のやりたいことを心の内に隠さなければならないんだよ」
「人生は短いんだぜ?」
史壊は右腕で輝照の振り下ろした片腕を掴んで、すぐさま蹴りを繰り出す。
足裏から噴出された爆煙が輝照を襲う、その寸前。
なんと輝照は、自身の腕をまるでエビやカニのように自切した。
突然相手の腕が千切れたことには、さすがに不意を突かれた。
結果反応が遅れ、史壊は腹を輝照の爪によって突き刺された。
「ッ……、どいつもこいつも道徳観だの、倫理観だのと」
「くだらないものにその短い時間を無駄にする……!」
体に纏う布が貫かれれば肉体はただの人間。
彼は口から血を溢すが、それでも弁は止まらない。
「そんなものは、他人から教え込まれたものでしかない!」
「オレには理解できないんだ……!」
「駄目だから駄目だと言われて、何故納得ができる!?」
「理由も理解できず、考えず……流されて、自分のやりたいことをやろうとしない奴らなんてクソだ!」
「そういうのを……無責任って言うんじゃないのか?」
史壊は自身の手に握られた、自切された輝照の腕、その鉤爪を輝照の背に突き刺す。
「そんな奴ら、この世界を回すためのただの部品!」
「何も成せず、なんとなく社会を回して消える!」
「自分にしか出来ないことなんて、何一つ見つけられずに!」
さらに男が突き刺した輝照の腕が爆発する。
「オレは違う!」
「オレはいつだって自分のやりたいことをやってきた!」
「そのために全てを費やしてきた!」
「教祖とか、嫌悪感しか抱かねぇ奴らを導くなんてやりたくねぇこともやった!」
「したくねぇ勉強も、読みたくねぇ本も、地道なことも積み上げてきた!」
「それができるからオレはスゲェことができるのさ!」
「15年前のように!」
「あんなことがオレ以外に誰が出来た!?」
史壊の膝蹴りが輝照の腹を襲う。
足裏から噴出した推進力を乗せた蹴りは、彼を数メートル吹き飛ばした。
しかし、それは同時に史壊もまた、腹に突き刺された鉤爪によって腹の肉をえぐり取られたことを意味する。
それでも、史壊はアドレナリンで酔っ払っているかのように笑い、
輝照もまた、立ち上がる。
しかし輝照は今、すさまじい痛みと怒りを超える困惑が脳を支配されていた。
「…………15年前?」
その言葉は、聞き流すには無理があった。
「そう、あの街1個飲み込む大爆発!」
「いやァ〜、あれは楽しかったなァ」
「………いや、いやいやいやいやいや」
ありえない
輝照はただ、男の言葉を否定することしか出来なかった。
だって……
「貴方、どう見たって30くらいでしょう!?」
「だから?」
「15年前って中学生くらいじゃないですか、爆破テロなんて起こせるわけ……」
「そりゃァ、実行したのはオレじゃないぜ?」
「でも計画を立てたのはオレ」
「校外学習で地下探検をして、興味を持って調べてたらさ……思ったんだよ、これが崩落したらどうなるんだろうって」
「気になって、調べた」
「そんなことはありえないのかどうか……」
「同級生が虫取りだの何だのと時間を無駄にしている中、オレは図書館で本を漁った、現地を足でも調べ続けた」
「辞書片手、電卓片手でだ!」
「そして……見つけたんだ、方法を」
「4か所だ、4か所もあったんだ、センサーも監視カメラも、両方ろくに効果を成さない場所が!」
「そこならガス漏れが発生しても、12時間は検知されない」
「そしてその付近に発火装置を仕込むだけで、構造上の問題から街の一区画が崩落!」
「それによって発生するさらなるガス漏れにより連鎖するように爆発!」
「街1つが飲み込まれる完璧な計画さ!」
男は大量の血液を腹と口から撒き散らしながら笑う。
「3ヶ月かけて作り出した計画!」
「それを見てたら……実際にこれを行ったらどうなるのか、見たくなるよなァ?」
史壊は笑う。
「だから探した……実行できるやつを」
「探して、探して、探して見つけ出した」
「異国から来た、テロリスト様だ」
失血でふらついているのか、踊っているのか、分からない足取りで彼は膝をつく輝照に近寄る。
「奴らはオレの提供したアイデアを採用し、実際にやってみせた!」
「正気じゃねェよなァ"!ガキの犯罪計画書だぜ!?大の大人が、しかもテロやろうって奴らがそれを実践したんだ!」
「ハハッ、笑えたよ」
「その事実と、爆炎に包まれる街の絶景っぷりはよォ!」
彼は輝照の首を掴み、持ち上げる。
「またやりたいと思った」
「次はもっと大規模で」
「そのためにこの宗教組織を作った」
「あいつらスゲェよな、爆弾なんて大切な存在を奪ったものでしかなかったのによ?」
「今や爆発を神聖視している」
「自分の中に確固たる意思が無いから、心が簡単に折れる」
「だから折れないために、理不尽に大げさな理由をいちいち求めているのさ」
「ッ……!」
輝照は自身の首を掴む手を掴み返し、史壊を睨みつける。
「いちいち物事に大した理由なんてあるわけ無いのにな」
「理由なんていつだって何だってやりたかったのたった6文字しかないのになァ?」
そんなことを笑いながら言う史壊。
彼を睨む輝照は、
「あんた……は、悪……だ!」
そう吠えた。
「ほ〜う?」
それを聞いて史壊は輝照を自身の顔の寸前、鼻先が触れるほどの距離まで引き寄せる。
「オレが悪ならお前は正義か」
「人間のやっちゃいけないことをやらない……そうお前は言いたいのかァ?」
「なら……この血は何だァ?」
そう言うと男は口に溜まった血を輝照に吹き付けた。
「テメェに突き刺されたから、オレァ今、こんなにも血まみれだ」
「正義の味方さんよォ、あんた人間を傷つけていいのかよ?」
「そ、それは……」
自身の視界が赤く染まったことに、史壊の腕を掴む自分の手が血糊でベッタリと汚れていることに、輝照は今更気がつく。
「あんたら怪物は倒されても人間に戻るらしいなァ?」
「でも、オレは違う」
「オレは負けたら死ぬ」
「怪物の力を失うのはオレが死んだときだ」
男は皮肉を言うかのように、それでいて攻めるように輝照に言う。
「おい中坊……テメェ、オレを殺せるのか?」
それは命乞いではない。
男はただその答えを知りたいと自身の命すら賭けて見せるのだった。




