第8話 その5
「やめてぇッ!」
ホールに響く声。
祭祈は後方へ振り返り、進もまたその背中越しに声の主を見る。
ステージを飛び降り、
薄暗いガラクタだらけの道を、転びそうになりながら、
「やめて……もうやめてよ!」
緑川明子は2人の間に割り込む。
「もういいじゃん進!」
「もう渡しちゃおうよ、そんなわけわかんない力なんて!」
そして、ボロボロな進を、その異形の体を抱きしめる。
「渡したって……どうせ殺される」
「こいつらの目的を、聞いてた……だろ?」
好意を向けている相手に抱きしめられてなお、
進は祭祈を睨むのをやめない。
「だとしても!だとしてもそんな痛い思いする必要無いじゃん!」
「見てらんないよ……」
進の耳元で聞こえるすすり泣く声、
ここでようやく彼は彼女を見た。
「いいじゃん、世界は平和になるってんなら……幸せになれるなら」
「私の幸せには絶対進がいるから……だから!」
2人で今、安らかな死を。
決して彼女はそう口にすることはしない。
しかし、このままでは、きっと事切れるまで、どれだけ痛く苦しい思いをしても立ち上がるであろう進に、
彼女はもういいと言わずにはいられなかった。
「………」
そんな彼女を、進もまた抱きしめ返す。
『……君の正義はこう言っているが?』
そんな2人を見て、祭祈は明子こそ自分の正義と告げた進に、手刀を下ろして尋ねる。
先程までの殺気は驚くほどなく、慈悲をかけるような問い。
しかし、
「悪いが俺の明子は、そんなことを言わねぇ……」
進は、まったく殺気を抑えない。
むしろ、強まっている。
『……理解不能だ』
『目の前にいる彼女自身を否定するのか?』
「こちとら、物心ついたときからこいつの背中を追ってきてんだ」
「俺は、緑川明子って奴を……よく知っている」
「俺の中の緑川明子が、立ち上がれと言っている!」
『ついに……いや、もともと狂っていたか』
進の言葉、まだ戦おうとする姿に、
困惑し、抱きしめる力を緩めた彼女を置いて騎士は立ち上がる。
「自分のせいで何百人も死ぬって言われてビビったんだろ」
「爆破事件が、あの惨劇に意味が欲しくなったんだろ」
「この爺さんの境遇に、同情でもしたんだろ……?」
ボロボロの体で、彼はまた剣を取る。
「それでも明子、お前はお前の正義を貫いて良いんだ」
「もし、今見失ってしまっているんなら……俺が思い出させるまで一緒にいる!」
「思い出せるまで……戦い続ける!」
明子を残して進は駆け出す。
先程までのふらつきが嘘だったかのように、真っ直ぐ祭祈へ斬りかかる。
しかし
『理解した』
そんな真っ直ぐな攻撃の対処など、祭祈にとって時を巻き戻す必要すら無い。
真っ直ぐな拳が彼の顔面を打ち抜く。
『貴様はここの信者共と同じだ』
『自分の中で拡大解釈した偶像に命を捧げる……妄信者め』
それでも踏み込むことをやめず、剣を振り下ろそうとする進へ、祭祈は蹴りを放つ。
進はそれを盾で受け止め、吸収した衝撃で祭祈を数メートルほど弾き飛ばす。
『私が最も嫌悪する人種だ!』
『貴様のような奴らのせいで……私はッ』
『………いいや、違う』
『この思考は、我が捨てたものだ!』
祭祈は苛立ちを飲み込むように、深く息を吸った。
『つくづく貴様は、我の行く手を阻む試練らしい』
『我が全ての力を持って殺してやろう』
祭祈の左薬指にはめられた指輪が光る。
『フェイズ3……変身』
その指輪を、ベルトに埋め込まれた水晶に静かにかざす……と、
《Prologue》
また、機械音声が響き始める。
左のバックルから赤紫色の魔法陣が展開され、
《Administration》
右のバックルから黄色の魔法陣が展開され、
《Engine》
水晶から浅葱色の魔法陣が展開され、
《Perfect Eternal Amazing……》
そして……合わさる。
3色の円陣は交わり、廻り、混ざり、黒く染まる。
その残像はまるで繭のようになり、
《我こそは……P/E/Aッ!》
その残像を12基の機械が突き破り、
そして、怪物は再誕した。
青い炎を吐きながら高速でホールを飛び回る12の機械は様々な形状、種類の銀色の推進機。
それらは怪物の背後に円陣のように、仏の後光のように装着される。
その怪物の姿は……黒。
形状はフェイズ2とまったく変わっていない。
しかし人類の歴史を凝縮した混沌のような姿は、まるで頭から墨をかけられたような純黒へ変わっていた。
そして、その体に背中から炎を流し込まれたかのような、青白い模様が浮かび上がる。
『さぁ……盾を構えろ』
祭祈は構える。
クラウチングスタートの構えだ。
両手両足の爪を地面に突き刺し、
背の後光のように、推進機は青い炎を吐き出す。
その輝きは、薄暗い部屋を明るく照らし、
その熱が生み出した陽炎が、彼の像を揺らす。
『何も知らぬまま新世界で幸せに暮らすがいい』
「―――ぁ?」
気がつけば進は外にいた。
目の前に見えるのは青い空。
ビルの最上階は遠ざかっていく。
何が起こったのか、
数秒してようやく彼は理解する。
走り出した……そう思った瞬間、
既に打ち込まれていた祭祈の蹴りは、構えた盾をひん曲げながら突き進み、
彼を壁に叩きつけた。
その衝撃に壁は耐えられず、容易くぶち壊され、
突き落とされ、
今、自分が重力に引かれて落ちているのだということを。
お読みくださり、誠にありがとうございました。
大変励みとなりますので、
ぜひ、感想やアドバイス、高評価などよろしくお願いいたします。
……すっかり打ち込んでおくのを忘れてました。
定期的にピクシブにもイメージイラストを投稿しておりますのでぜひ見に来ていただけると嬉しいです。




