第8話 その4
自由落下するなか、伸ばした進のもう一方の手が、空中で停止する盾の持ち手を掴む。
(下を……くぐる!)
腕力に物を言わせて、
落下の勢いも利用しての盾の下をくぐった進による奇襲、
祭祈の両足を狙う白銀の剣による一撃が、
――突如上へ跳ばれ、回避される。
「なっ!?」
進は困惑しながらも、
咄嗟に相手から距離を取ろうとした。
そのおかげもあり、振り下ろされた祭祈の足を、ギリギリで回避することができた。
『避けた?』
「こっちのセリフだよッ!」
睨み合う2人、
2秒ほどの静寂。
ようやく再構築を終えた盾が床に落ちて、鈍い音が響いた瞬間、進が攻撃を仕掛ける。
振り上げるような剣撃を祭祈は右に軽く体を捻って軽々と避ける。
即座に進はさらに一歩踏み込み、両手で剣を高速で振り下ろす。
これも祭祈はスレスレで回避。
その直後、
燕返し
振り下ろされていた剣が地面に触れる寸前で突如、跳ね上がるように切り返される。
それは筋力に物を言わせた高速の追撃。
しかしそれすらも祭祈は軽く回避した。
「ッ……なんで当たらない!?」
誰かを守るための力を望み、騎士としてその身で戦う力を手にした進の怪人態の反射神経や動体視力、身体能力などは他を圧倒するものであった。
それ故に、とっさの動きでは誰にも負けない。
素人であっても、彼の振るう剣には力強さと速度乗っている。
それだけで敵を倒すには十二分。
それにあの白銀の剣なら、防御力も意味を成さない。
距離を詰めれば、基本勝ちを取れる。
……本来ならば、
「当たらねぇッ!」
しかし、彼の攻撃は祭祈に当たらない。
数十回、攻撃を仕掛けているのに、
右に避けられ、左に避けられ、後ろに跳ばれ、ときにはガラクタによって妨害され、
もはや掠りもしない。
「避けんなッ!」
横薙ぎの攻撃、パターンのように後方に跳んで避けようとした祭祈の背後に盾が出現。
後ろに下がれなかった祭祈は剣を回避することができない……が、
『はッ!』
剣の腹を蹴り上げ、自身が切断されることを防いだ。
「クソっ……」
『どうした、スタミナ切れか?』
―――当たる気がしない。
一瞬、そんな言葉が脳裏に浮かんでしまった進の僅かな隙を狙って、
祭祈は彼を蹴り飛ばした。
「ッ――なめんな!」
一瞬、腹が消し飛んだかと思うほどの衝撃を受けながらも、進は足の爪を床に食い込ませて踏ん張って無理やりその場に留まり、
今度こそ相手の腹に剣を突き刺さんと攻撃を仕掛けるが……
『舐めてなどいない!』
クロスカウンターというのだろうか、
剣を紙一重で躱すだけではなく、懐に飛び込んできた祭祈の拳、アッパーが、進の腹にクレーターを刻むほどえぐりこまれる。
「カッ……ァ!?」
その衝撃は彼の体を貫き、進の体内で何かがちぎれ砕けるような嫌な音が響く。
進は腹の底から空気を絞り出されるような声を漏らして膝から崩れ落ち、
彼の手を離れた剣が床に突き刺さった。
『……決着だな』
即座に起き上がれない進に、祭祈は冷たくそう言い、
数秒考えた後、
『……Administrationの物体操作は我が扱う範疇を逸脱しない』
『物体を浮遊させられる高さは自身がそれを掲げた際の高さまで』
『重すぎれば動かすことすらままならん』
『飛ばす速度も我が投擲速度を上回ることはない』
淡々と言葉を発し始めた。
「………ぁ?」
あらゆる音がくぐもって聞こえる中、進の耳に祭祈の声が届く。
「とち…狂っ、たか……?」
突如の能力開示に、進は怒りの籠もった言葉を吐く。
『……能力を開示すると言ったからな、先程のはあまりに不十分だった』
『故に、今更だが詳細を明かそう』
『何故、我が貴様の攻撃をすべて躱すことができるのか』
膝を突き、それでも倒れない進に尊敬のような念を抱きながら祭祈は言う。
『我は……やり直したのだ』
『敗北という終わりから、戦闘の開始地点まで巻き戻す力』
『攻撃を受け、覚え、巻き戻し、避ける』
『Prologueの力の骨頂である』
「巻き、戻す……」
意識が朦朧としているのか、口が動かないのか、掠れた声で、うわ言のように呟く進に、
祭祈は淡々と告げる。
『計21回だ』
『貴様が我に致命傷を与え、やり直させられた回数は』
甲虫のような硬い面に浮かび上がる4つの目が、彼を見下ろす。
『決着が見えてから明かすこと、卑劣と嘲笑するがいい』
『しかし我は貴様に勝たねばならぬ』
『貴様に勝つことこそ我が正義』
『他の思想を踏み潰し、我が道を行くための通過儀礼だ』
勝利宣言と誓いを合わせたような言葉が、
祭祈1人のペースで紡がれる。
しかし、
「わかっ、てた……さ」
『……何?』
進がこぼした言葉に、そのよく回る口が止まる。
「お前が、時間を……巻き戻してることくらい」
「どんだけ……俺を、馬鹿だと…思ってるんだ…」
うまく動かない足を震わせながら、
「でも、よぉ…どんぐらい巻き戻しッ、てんのか……わかんなかったから」
「…速度を重視…して避けにくくして、避け方を覚えきれないほど攻撃も、繰り返し……て、テメェに対抗しようとしんんだろうがッ!」
震える腕の力でなんとか立ち上がろうとして、また姿勢を崩し、倒れながら進は、
うわ言のような言葉を呟く。
「馬鹿に…するな、俺は……ッ!」
彼は自身の顔を殴りつけ、
遠ざかりかける意識を無理やり呼び戻す。
「俺は、勝つために…戦ってるんだ……考えて、考えて……考えながら……戦ってんだよッ、必死に!」
それでも腕の力のみでは立ち上がれなかった進は、
盾を召喚し、杖のようにして立ち上がる。
「馬鹿にするなッ!」
震えながらも鋭く睨む進に、
祭祈は息を呑み、
『……そうだな、では我が能力の開示を冥土の土産とし、死ぬが良い』
そして冷徹に手刀を振り上げ、
一切の迷いなく振り下ろす、
避けることは……できない。
鎧を割り砕き、肉も断つ手刀は
「……やめてぇッ!」
突如ホールに響いた声によって、
鎧へ触れる寸前で、静止した。




