第7話 その5
「片手は辛いな……」
ビルに侵入してすぐ、
剣を持った不審者としてガードマンを呼ばれた俺は、
結局、怪物に姿を変えて、
使用不能にしてやったエレベーターのワイヤーや壁を、片手と両足でなんとかよじ登って最上階にたどり着いていた。
「鞘くらいあってもいいだろ、ほんと……」
右手に握る剥き出しの剣は、刃に触れたものを塩に変えて切り裂いてしまう。
おかげで布や紐で体にくくりつけることが、
怖くてできず、
片手で登る羽目になってしまった。
「ま……じゃぁ、ここから役に立ってもらいましょうかねッ!」
最上階、
右手に盾を、左手に剣を強く握る。
そして、閉められたドアを切り裂き、飛び出す。
「うぉ!?」
その直後、俺に無数の人影が襲いかかってきていた。
白い丈の長いフード付きローブを前後逆に着たような、顔の見えない……敵。
下には丈の長いスカートのようなものを履いており、頭の上から足の先まで何一つ肌を見せない姿をしていた。
「邪魔だぁッ!」
俺は思ったより細い通路では両方扱うのはキツイと、
咄嗟に盾を投げ捨て、剣でその人影を切り裂き前へ進む。
上下半身に真っ二つにされた敵から散るのは塩、血でないことに安堵しながら突き進む。
目指すはこの廊下の先、
金の装飾が施された大きな黒い扉。
「邪魔、邪魔!邪魔ぁッ!!」
今切り裂いたものも含めて8体ほどの、白衣の敵達はそのどれもが自分よりやや小さく、全員が同じ身長。
一切の躊躇なく俺に襲いかかってくるそいつらを、
俺は斬って、斬って、突き刺して、動かなくなった物を蹴りどかして押し通る。
塩を振り払い、もう一度それが血ではないことを確認する。
ロボット……いや、能力で作り出した分身か?
刃が触れたそばから塩に変えていく剣は、
どんなものでも豆腐のように一切の抵抗無く、怪物を、人工物を切り裂いていく。
それでも、手に持つ剣は……
「……重ッ!?」
錯覚……いや、違う。
本当に重い、全身が、指先まで全部。
「猿野郎ッ……じゃ、ない……ッ?」
けど、昨日祭祈から受けたのとも少し違う。
あれは上から押し付けられるような重みだったが、
今回のは骨や肉、鎧の重量が数十倍になったような感覚。
言葉にすれば同じに感じるだろうけれど、
実際に身体で体感すると……こっちのほうが全然辛い!
「うッ……!?」
あまりの重みに膝をつき、杖にしようとした剣は抵抗なく床を塩に変えて沈んでいく。
それでも必死に顔を上げて睨んだ相手は、外から見えた気配の主。
先程なぎ倒した8体の服を、黒く染めたような姿で、紫色の刺繍が全身に縫い込まれていた。
その黒衣の人影が、こちらへゆっくりと歩み寄ってくる度に、体の重みが増していく。
そして、もう手を伸ばせばとどく距離に迫られたときにはもう、
人間の姿だったら潰れているのではないかと思えるほど、
怪物の筋力をしても、頭を上げておくのすらしんどいほどの重さとなっていた。
「……こっちがハズレ?」
「いや、そもそも祭祈が怪物の姿になってるとは限らない……んだ、もんな」
「下で事を起こしても降りてこなかったってことは……こいつは、」
俺は必死に顔を上げながら吠えるが、目の前の黒衣の怪物には一切反応がない。
まるで敵意すら抱かず、己の役割をただ果たしているかのような、
静寂。
「……ははッ、こんなクソカルトに入って、門番なんかしてるやつァ、口も回んねぇ陰キャかよ……ッ!」
「黒に紫とか、中二病こじらせまくっててクソキモいんだよ、妄想厨がッ!」
俺はなんとかこいつから声を出させてやると、思いつく限りの罵詈雑言で相手の信仰を侮辱するが、
『………』
無反応。
なんだこいつ……最上階で護衛なんてしてるからには、ここの熱心な信者かと思ったのに………もしかしてこいつ、信者じゃない?
操られてる……とか?
つまり……話しても、無駄か。
「……よし、倒すか」
俺は背中に盾を召喚する。
ただでさえ重い体に、さらに盾の重さが足されるが……これでいい。
「吠えろッ!」
なぜならこの盾には、この20階を超える超高層ビルの最上階から、
エレベーターの吹き抜けへ放り投げ、落とした衝撃が、蓄積されているからだ!
『?!』
その衝撃に背中を押され、
動けなかった身体は怪物に向けて、まるでビリヤードの玉のように打ち放たれる。
その突如の加速に怪物は初めて、反応らしい反応を示す。
しかし、その反応が抵抗になる前に、
「ハァッ!」
床を塩に変えながら振り上げられた剣が、
怪物の体を斜めに、真っ二つに切り裂く。
『!!?』
上下に分かれた怪物の身体は砕け散り、
光の粒子となって散り、1人の女性の形へ戻る。
残された黒い服は頭上を舞い、
ようやっと軽くなった体で俺は、一気に廊下を駆け抜ける。
振り返らず、止まらず、
怪物が守る扉の先を確かめるために、
俺はただ、前に進むのだった。
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