第7話 その4
「……ここか」
灰色のビルが並ぶ街並みに、
一際目立つ異様に白いビル。
公民館のようなものを想像していたけれど、
なんと言うか、色以外は普通のビジネスビルという感じだ。
「ここに明子が……」
「いるかいないか、わかんないでしょう?」
「!?」
突如、背後から声を掛けられて、俺は咄嗟に振り向く……と、
「まったく、16時まで待てないもんですかね、先輩?」
「でも、輝照だって捕まったのがわたしだったらすぐ来てくれるでしょう?」
輝照と花笑さんがそこに立っていた。
腕時計が指す時間はまだ13時半。
まだ16時までにはだいぶ時間があるのに、彼らがここにいるということは、
「あんたら、家からつけてきてたってことはないだろ?」
「明子の居場所はここで合ってるのか?」
「えぇそうですよ、あのあとこっそり後をつけましたから」
「それに、感じるでしょう怪物の気配を」
怪物の気配……そういえば昨日、そんなことを言っていたな。
「俺、それできないんだけど」
「目を閉じてみてください」
「何度も怪物と戦った貴方なら、彼らの放つ異様なオーラを感じ取れるはずです」
目を……閉じる…
言われたとおりにしてみると、暗い視界の端。
本来目に見えない場所に、
「……これか?」
紫に揺らめく、
炎のような、
しかしまったく暖かさを感じない何かが見えるような気がした。
たしかに、これは……怪物達が放つ、あの威圧感に似てる。
……が、
「なんか、2つあるんだけど」
20階くらいありそうな高層ビルの最上階と、
そこまで掘るの、法律が許してくれんの?と思うほど地下の2つ。
「……そうなんですよね」
「しかも昨日から見張っていましたけど、常に見えるんですよね」
ん?
……あぁ、そうか、
今俺は、隣にいる輝照のオーラは感じられなかった。
昨日、輝照が田場のオーラに気がついたのもおそらく俺の位置を割り出そうとあいつが能力を使ったであろう一瞬だった。
怪物の姿になっている……もとい、能力を使っている状態の相手しか位置を感知できないわけか。
「常に怪物の姿でいたり、人間の姿で能力を使うのは危険なんです」
「徐々に理性を失い、願望に狂ってしまうんです」
そう言われると、田場はそれが顕著だった気がする。
普段は大人しいというか、
明子に話しかけることすらできない感じだったもんな。
「俺も気をつけよ」
「お願いしますよ」
「輝照もですよ?」
「……それで、どうしますか」
花笑さんに言われ、ムッとしながらも輝照は話を続ける。
「二手に分かれるか、全員で1体ずつ倒すか」
「私としては後者が良いと思うのですが」
「……明子を救出できた後ならいいよ」
「言うと思いましたよ」
「はぁ……どうぞ」
呆れた様子で、輝照は俺にカードを返してくれる。
「これを使えば位置くらいわかるでしょう?」
「……勝手に転移しないでくださいね?」
「ははは、鎧戦」
俺ははっきりと返事をせず、自身の姿を怪物へと変える。
そして……
「あれ?」
「どうしました?」
「明子のもとに転移できない……」
「するなと言ったよなぁッ!?」
「……はぁ、で?」
「転移できない可能性って、どんなことが考えられるんです?」
一瞬キレかけたが、何とか持ち直した輝照に気圧されながら俺は考える。
金色の方のカードに何も変化がないってことは、明子は生きているはず。
そもそも、俺の能力は明子を守ることに特化しているはず。
今何も感じないってことは、あいつの身に危険が迫っている……ということもとりあえずは無さそうだ。
となると……
「――影が出て無いのかな、たぶん」
「影……影からしか出られないんですか?」
「……まぁ」
陰ながら見守る……なんて都合よく解釈もできるけど、
いつも眩しい日に当たり、照らされながら、駆け抜けていく彼女の前に立っている自分が、
イメージできなかったってのが実際だろう。
「……コンプレックス丸出しだな」
コンプレックスさえなければすぐに助けに行けたと思うと、歯がゆくてしょうがない。
「やっぱり二手に分かれよう」
「俺は上に行く、輝照君達は下で」
「……まぁ、いいですよ」
「緑川先輩を救出次第すぐに合流でいいですね?」
「そうでないと手を組んだ意味ないですから」
「了解」
俺は一度換装を解き、人の姿でビルに侵入しようとする。
位置がバレると困るからだ。
すると、
「……あ!そうだ、本郷さんこれをどうぞ」
花笑さんが自身の姿を天使に変え、突如虚空に開いた白い穴から剣を抜き手渡してきた。
「え、これって……天使みたいなのが使ってたやつ?」
その白銀の剣の美しさと、手に持って感じるその重さで、俺はその正体に気がつく。
あの切り裂いたものを塩に変える剣だ。
「消えてなかったんだ……」
「これは本物ですからね、危ないので預かってました」
「お貸しします」
貸すなんだ
「刃の部分に触れた人工物を塩に変えてしまって、どこにも隠せないので気をつけてくださいね」
「それと、輝照の提案ですでに刃引きをしてあるので、変な使い方はしないでくださいね?」
刃引き……つまり、切れないようにしてるってことか。
「了解、気をつける」
「………で、侵入って何処からすればいいのかな?」
「わたしが開けてあげますよ……ほい!」
尋ねた俺に、信じられないほど軽い口調でそう言った彼女は、
マンホール直径ほどの太さの光がビルの地下に向けて斜めに放たれる。
その瞬間、アスファルトやコンクリートは塩に変わり、まるで滑り台みたいな穴に変わる。
「無茶苦茶するなぁ……」
俺と輝照のペアと花笑さんで別れたほうがいいんじゃないか……?
なんて思ったが口には出さない。
「ていうか、これ地下には行けるけど上には行けなくない?」
「いえいえ、大丈夫ですよ〜、だって……」
『おい、なんか急に穴が空いたぞ!?』
『う、上からだ!斜めにシャーって!?』
『なら、上の奴らに見に行かせろよ!』
『何が起こったんだ!?』
地下の穴から声が響いたかと思うと、ぞろぞろとビルから人があふれ出してくる。
「ではでは、おまけにもう一発!」
天を指さした彼女の人差し指から、
先程と同じ……いや、むしろ少し太い、
昼間でもはっきりと見えるほど眩しい光が放たれる。
「ではぁ……やってみましょい!」
こいつやべぇよ
俺は内心でそう呟きながら、
周囲の注意がここに向いているうちに侵入すべく、
こっそりと裏口に回るのだった。




