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第7話 その2

「……ここは?」


俺は重いまぶたを開く。

ぼやける視界に映る、木目調の天井。


「――知ってる天井だ……じゃないんだよッ!」


飛び起きた俺は左右を見回す。

見慣れた本棚、見慣れた机、見慣れた破れた障子!


「何で俺、自分の部屋にいるんだ……?」


たしか、猿野郎と戦おうとしていたはず……


「そうだ、明子がッ!」


布団から飛び出た俺は、急いで明子のもとへ転移すべく、カードを探す。

……が、


「無い……?」


カードが無い。

いや、正しく言うと1枚はある。

金色の方だ。

そっちだけが制服のポケットに突っ込まれていた。

……手紙と一緒に。


『銀色の方は16時まで預かる、ゆっくり休め』


「……輝照か」


俺はその手紙を見て、ある程度状況を理解した。


「あの野郎ッ……!」


正直、彼の行動は理解できる。

あの錆色の炎のせいで俺は、身も精神もボロボロだった。

猿野郎……祭祈と戦ったところで勝てはしなかっただろう。


だけどだ、


「連れて逃げるなら明子だろッ……!」


俺は、自分が無事なことを許すことができなかった。


「明子に何かあったらどうしてくれんだッ…!」


背中から毒を流し込まれて、意識を失いかけていたであろう最中、

おぼろげな記憶の中で、

遠ざかっていく明子の姿だけは、はっきりと覚えていたからだ。


「早く助けにいかねぇと……」

「クソッ……でも、騎士の力がねぇと明子の居場所に行けねぇ!」

「いや、祭祈が教祖ってんなら調べりゃ本拠地くらい出てくるんじゃないか?」


俺は部屋を飛び出し、リビングに駆け下りる。

そして、そこに設置されているパソコンを起動すると、


「おう進、起きたか」

「ならさっさと風呂入れ、どんだけ疲れてたのか知らんが、階段登りきって寝落ちしてちゃ、全身汚れだらけだろ」


父さんに見つかった。

格好は紺の作務衣、朝拝が終わったあとのいつもの格好だ。


……朝拝が終わった?


「父さん、今何時!?」


「ん?10時半だが」

「あぁ、学校は大丈夫だぞ、昨日一際ひどい爆破事件があってな」

「学校も狙われる可能性があるからしばらく休校らしい」


「爆破事件……」


俺はようやく画面が映ったパソコンで、ニュースを開く。


するとトップ記事はやはり、リオンの爆発事件に関するニュースだ。


「作り直したばかりのモールでまた事件とは、まったく不幸なものだ……ようやくあの事故から立ち直れたと思ったのだがな」


そう言われて俺は、モールの広場に設置されていた追悼碑を思い出す。


「……」


俺は15年前にあったという爆発事故を調べてみた。


するとwikiや古い記事など、数え切れないほどの記事がヒットした。


「父さん、爆発事故って?」


俺はwikiを見ながら父さんに問うと、


「ん?」

「あぁ……たしか、地下のガス管の亀裂だったかな?」

「それが数カ所同時にできちまって、地下にガスが溜まってたとかでな」

「街一つが吹き飛ぶほどの爆発が起こったんだ」

「うちの氏子さんにも何十人もの被害者が出てな」

「鈴木さんや里中さんにゴンザレオさん……家族を失った方々の抜け殻のような顔が今でも覚えているよ」


父さんは少し悲しそうな顔をしながら、そう答え、


「元気でいてくれるといいが……」


少し呟くように言う。

それを聞き逃さなかった俺は、首を捻る。


「その人達は最近、お参りに来てないの?」


「事件から数年したあとに、氏子を辞めてしまったんだ」

「うちでは助けになれなかったようでな……改宗をなされたらしい」


「改宗……」


そう言われて俺は自分の家が、神社であることを改めて自覚する。


「なんだ、改宗に興味でもあるのか?」


力なく呟いた言葉に父さんが反応する。


「いや、別にそんなわけじゃないけど……」


俺は咄嗟に口ごもると、


「別に構わんぞ」


父さんはあっけらかんと言う。


「へ……?」


想定外の反応に俺はパソコンを見るのをやめて、父さんに向き直る。


「やっぱりな……そうなんじゃないかと思っていたんだ」

「やはり……」


「やはり…?」


「緑川の婿養子に入るんだな!」


なんでだよ


「神父になる道を進むってんなら止める気はない、むしろ応援するぞ!」

「斗陸とは前から話していたんだ、そろそろ決めどきだと……一昨日だって」


「いや、ちょっ、待って、待ってよ!」

「宗教って、そんな気軽に変えていいもんなの!?」


「何かだめな理由があるのか?」


「いや、だって宗教ってこう……なんか、神聖で、潔癖っていうか、真っ直ぐさが重要なんじゃないの?」

「こう、一つのことを信じ抜くみたいな……」


「そうか?俺はそう思わないが」


まじかよ


俺は父さんの神職とは思えない発言に唖然とする。

そして、それと同時に知りたくなった。


祭祈は、全人類を虐殺しようとしている。

彼は教祖。

ならば、その虐殺には彼なりの宗教的意味があるはず。


それは、本来断じて許されない行為だ。

というか、できるはずがない、正気じゃない。


もし、その正気というのを狂わせられるのが宗教なのだとしたら、


宗教とはどれだけ恐ろしいものだろう?


そして、父さんは……


「ねぇ、父さんは宗教って何のためにあると思う?」


それを、どう考えているのだろうか。



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