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第6話 その4

「!」


「ッ!?」


獄卒との戦いは振り下ろされた棍棒を、進が盾で受け止めたところから始まった。


「吠えろッ!」


凄まじい腕力のゴリ押し、

このままでは足が折り砕かれて殺される。

進はそう判断し、盾に溜め込んだ衝撃と炎をやむを得ず放出する。

積み重ねた衝撃が棍棒を弾き、怯んだ獄卒に対して錆色の炎が襲いかかる。


『させない』


「!?」


が、その最中、

進の目の前を太い光線が通り抜ける。

鈴瀬の左手から放たれたその光、

気がつけば、進の盾と左腕は塩となって崩れだしていた。


『ほうけていいのか?』


(2発目!?)


痛みもなく手が崩れ落ちたことに驚愕する暇もなく、

今度は進自身めがけて光は放たれる。


それに彼は反応できなかった……が、


「うぉ!?」


彼は突如腰に巻き付けられた帯によって引っ張られた。


「ありがと」


「気にしないでください」


「明子は?」


「花笑の加護が守っています」

「十数分はどんな害からも守られます」


引き寄せた進を受け止め、輝照は言う。


「そう、ありがとう……じゃ、この帯さっさと解いてくれない?」


腰に巻きつけられた帯は螺旋模様で、徐々に赤と青に光り始めていた。

進の方から輝照へと徐々に色が変わっていくその様は、なにかを奪われているように思え、

彼はそう言う。


「彼女の光はおそらく花笑が使う奇跡の一種です」

「正体は発光する微細な粒子の集合体、なので速度はそこまでありません」


「そうなんだ」

「ねぇ、これすごく戦いにくいんだけど」


「人が作ったあらゆるものを塩へ変える力があります」


「そうなんだ……ねぇ、いいかげん解いてよ」


「あれを防ぐには自然物、もしくは花笑やこの獄卒達に盾になってもらうしかありません」


「ちぎるぞ…ッ!?」


しかし輝照に完全に無視され、

怒った進が巻きつけられた帯を掴む。

そんなことをしながらでも2人は互いを引っ張り合いながら、戦闘を続け、

やがて帯は赤と青に染まりきった。


「よし、解析完了……ッ!」


「ちょ!?」


その帯を見て輝照が呟くと同時に、

獄卒が棍棒を振り上げ襲いかかる。

輝照は咄嗟に進をモーニングスターみたいに振り回し、獄卒にぶつける。

その頃には帯は色を失っており、今度は輝照の方から徐々に染まり始めた。


「生態変容(セル・カスタム)」


一瞬の出来事。

すべてが赤と青に染まった瞬間、

進の塩と化していた彼の腕が再生する。


「どうなってんの!?」


再生した手で獄卒の角を掴み、

顔面に膝蹴りを入れながら進が問うと、


「世の中には手足を再生できる生き物はいくらでもいます、そういう生物の遺伝子を先輩に打ち込みました」

「貴方の遺伝子と怪物としての能力を再現するのに少し時間がかかってしまいましたが」


「そりゃ……すごいなッ!」


獄卒を蹴った勢いで距離を取った直後、

獄卒は身を守るように足元から炎を吹き出させた。


「生態変容(セル・カスタム)」


輝照が指の間に挟んだ4つの種を地面に打ち込む。

次の瞬間、それはヤシの木のように大きく成長し、ホウセンカのような花を咲かせ、枯れて……巨大な果実が成る。


「爆ぜろ、砲千花」


そして果実は弾け、

30センチメートルをゆうに超える種子が何十個も散弾のように撃ち放たれる。


『!?』


その種は炎ごと獄卒を撃ち抜く。


そしてその、錆色に燃える植物製の弾丸は……発芽する!


『ぐっ……がっ!?』


植物はまたたく間に獄卒の全身へ絡みつくようにツルを伸ばし、根は分厚い皮膚を突き破って体内へと侵入していく。


しかし、次の瞬間にはいつの間にか駆け出していた鈴瀬の放った光が、輝照の手が加わっているせいか、

その植物たちを体内に入り込んだものも含めて全て、簡単に塩に変え、

それと同時に進に殴りかかる。


そんな彼女に進は、咄嗟に盾を投げつけるが、

彼女は左手でその勢いを無にし、

圧倒的筋力を誇る右手でキャッチしてすぐさま投げ返す。


「ッ!」


進は咄嗟にそれを受け止めようと、新たな盾を生成する……と、


(消えた!?)


炎や花畑を吹き飛ばし、音速を超える速度で飛来していた盾は、なんと進が2つ目の盾を生成すると同時に消滅した。


「1つしか出せないのか」


進は自分の能力の全容を未だ把握していないのだと理解し、そうこぼすが、


「それは先輩の頭が硬いせいですよ」


輝照はそれを嘲った。


「自分の願いが叶う力ですよ……なら、もっと自由に!」


彼がばらまいた種は小さな種から生えてきたとは思えないほど太い木の根に育ち、それがまるで触手のように鈴瀬を襲う。


それを鈴瀬は錆色の炎で燃やし尽くし、

獄卒はその炎を突っ切って輝照に襲いかかり、

進はその後頭部に盾で殴りかかる。


「ッ!」


それを読んでいたかのような獄卒のまわし蹴り、

吹き飛ばされる進は、背後に突如生えだした木を蹴ってもう一度攻撃を仕掛ける。


「生態変容(セル・カスタム)・改体(リバース)」


その奇襲で鈴瀬、獄卒の意識が進へ向く。

その隙に輝照は、自身の能力を、自分自身の体に発動する。

すると彼の全身の螺旋模様は光りはじめ、

そしてそれはその両腕に流れ込み


「猩猩大腕(コングゴング)」


その枯れ枝のような腕は膨れ上がり、先程までとは比べ物にならない暴の力が、

隙を見せた獄卒を殴り飛ばす。


『――』


その瞬間、獄卒の無数の口から恐ろしい声が漏れ出す。

今までと違う反応、明らかにダメージが入っている。


そして、そんな拳を……輝照は倒れゆく獄卒にどんどんと打ち込んでいく。


「すげぇ」


その様に呆気にとられながら、

僅かに吸収できていたまわし蹴りの衝撃で自身を打ち上げた進は、

空中で自身の光を避けられ、動揺する鈴瀬の金の鎧に包まれた左半身を掴み、

その血色の右半身に膝蹴りを入れる。


『ッ…!』


もろにダメージを受け、明らかに動揺した鈴瀬は右半身、肉を引き裂いて現れた口から炎を吹き出させる。


進はやむなく距離を取ろうとするが、左足を鈴瀬の燃え上がる右手に掴まれる。


「あぁッ、ぐっ……が!?」


足を伝い、金属製のはずの鎧にすら燃え移る、地獄の炎による責苦。

焼かれるだけではない、刻まれるような、破裂するような痛み。


「ッう!」


彼は咄嗟に盾を生成する。


―――鈴瀬の上に。


『ッ!!?』


光の粒子のようなものが盾の形を完成させた瞬間、

それはまるでギロチンの刃のように鈴瀬の頭を狙い落ちてくる。


それを寸前で鈴瀬は避けようとするが、

よほど焦ったのだろう。

右に避けるべきところを左に避けてしまった。


結果、

盾は頭こそギリギリで避けられてしまったものの、

相手の体をえぐり、切り裂いた。


盾は花畑に突き刺さり、そこから大地が流血したのかと思うほどの炎が噴き出す。


それと同じ炎を全身で燃やしながら、

埋め込まれた眼球達が荒ぶり、口達は絶叫を上げ、右半身から紫の血が撒き散らされ、

鈴瀬はその激痛でもがき、のたうち回る。


その隙に逃れた進の左足は、まだ錆色の炎で燃えている。

耐えることなく激痛が続く。


そんな最中でも、彼はついに相手を倒す糸口を見つけていた。


「……やるっきゃない」


そして彼はその激痛と共に駆け出すのだった。



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