第6話 その2
「ッ!」
戦いは占い師の右手から放たれた光を、
避けたことから始まった。
しかし、
「!」
その隙を狙って白い騎士、天界の兵士を思わせる怪物が切りかかってくる。
「盾よ吠えろ!」
砂煙を吹き飛ばした炎を盾から放出し、天兵を焼き飛ばす。
しかし天兵は焼かれながらも構わずこちらに切りかかってくる。
「!?」
噴き出した炎に押され、少し後ろへ下がる。
そんな俺の眼前を剣が通り過ぎる。
―――盾を構えていたはずなのにだ。
(盾が……真っ二つ!?)
降り注ぐミサイルにも、あの炎にも耐えた頑強な盾が、
まるで豆腐でも切るみたいに、
ヌっ……という音がしそうなほど滑らかに、抵抗なく。
「なんで……!?」
俺は未だ信じることができず、盾の断面を見る……と、
「砂……?」
白く染まり、崩れ始めていた。
そうか、占い師が放った光、盾を砂に変えたあの光と同じ力が剣にあるのか。
……なら、こいつの盾は?
俺は切り離された盾の上部を相手に投げつける。
天兵は咄嗟に、自身の盾でそれを弾く。
砂には……ならなかった。
なら、普通の盾か……いや、
「占い師の体と同じ感じか?」
俺の投げつけた盾を喰らって、天兵が若干怯む。
それを見て確信する。
あの突進を受け止めた金と白の鎧。
俺の込めた力を全部無にして見せたあの左半身と同じ力。
それがこの天兵の鎧にはなく、盾にはある。
……と、思う。
天国とか地獄とか急に言われても、
天兵とか獄卒とか急に現れても、
正直、どう対処したらいいのかわからない。
だから相手の特徴を観察し、考察していくしかない。
だって、そこら辺詳しくないし、
そもそも俺、神道の息子だぞ。
よくよく考えたら俺、今先祖代々伝え聞いてきた教えを否定されてないか?
そんなことを考えながら着地した瞬間だった。
「――ッ!?」
獄卒の棍棒が、地面をえぐりながら俺の腹を殴り飛ばす。
さらに巻き付けていた茨を鞭みたいに振り回し、巻き付けて俺を拘束する。
そしてそのまま……
(切られるッ!)
剣を振り上げる天兵へ投げつけられる。
俺は咄嗟に盾を生成し、投げつける。
それを天兵は、振り下ろした剣で真っ二つに切り裂く。
結果、飛んでくる俺に剣が間に合わず、
天兵は盾で俺を受ける。
「止めてくれてどうも!」
投擲された威力は全て盾によって消え、
停止した俺は、天兵の盾を掴んでどかしてその腹を蹴る。
(盾に触れてても盾以外への攻撃は効くのか)
俺は怯んだ天兵を両足で蹴って今度は獄卒に襲いかかる。
あんだけの攻防ができるほどの跳躍を見せた、この脚力。
獄卒は茨を巻き付けようとするが間に合わない。
ならばとあの錆色の炎を放ってくるが、
「こっちには盾があんだよッ!」
それをまた作り出した盾で吸収しながら、俺は今度こそ突進を相手に決める。
しかし、
「うぉ!?」
まるで痛みになど慣れていると言わんばかりに怯まず、
俺の頭を掴んで地面に叩きつける。
「ッ……!?」
その衝撃は凄まじく、
一瞬、視界が真っ白に染まり、意識がとびかける。
さらに獄卒が地面を踏み鳴らした瞬間、花畑を焼き払う錆色の炎が噴き出し俺を焼く。
その温度は凄まじく、
俺のくすんだ銀色の鎧は熱され、赤く光り、歪み始める。
その熱は体を容赦なく炙り、激痛が全身を駆け巡る。
いや、それだけじゃない。
地獄の業火だからなのだろうか、
まるで体を切り刻まれているような、
突き刺されているような、
引きちぎられるような、
炎から与えられるはずのない痛みが、
俺の精神を、蝕む。
(ッ……やむをえない!)
相手を放置する危険性、
相手が追ってくる可能性。
そして何より、あいつのトラウマを刺激しかねない以上、あまり使いたくはなかったけど……
(転移!)
俺は明子の影への転移を実行する。
「え?」
その次の瞬間、俺は空にいた。
見下ろす景色はモールの屋上じゃない、
至る所から炎が上がり、そんな中でも生き生きと美しい花畑が咲き乱れるこの世ならざる……さっきも見た景色。
「「何で?」」
状況が理解できない俺に声が重なる。
その声の主は……輝照君。
「あぁ、彼女の影から出てきたのか」
その姿はすでにあの、螺旋模様だらけの悪魔の姿。
「突然体から生えだしてくるからびっくりしました」
そして俺の背後には、真っ白な天使の姿になって空を飛ぶ花笑さん。
そしてその腕には気を失っている明子の姿が!
「おい、どういう状況だ!?」
「祭祈……先輩が言うところの猿野郎から助けたんですよ」
「彼から逃れるために、貴方が消えた要因であろう水晶玉を使わせてもらいました……あぁ、貴方にとって重要なのはそっちじゃありませんね」
「安心してください、彼女は僕が再現した毒で気を失っているだけですよ」
「毒って……!」
「大丈夫、植物由来のオーガニックな奴です」
「毒にオーガニックも何もあるかよ!?」
律儀にも落下していく俺と並列しながら状況を説明する輝照君のシュールさに、
つい気が緩んでしまい、言い合いになるが、
「まぁ、一旦それはいいじゃない進君」
それを花笑さんが仲裁し
「そんなことよりも……この子たち、どうにかしたほうがいいんじゃない?」
俺に切りかかってきた天兵の剣を、その背に映える巨大な翼で受け、そのまま花畑へと叩き落とす。
「あら……珍しい、本物なんですねあの子達」
「本物……やはり天国と地獄は実在するのか」
興味深い、そんな感想を見せながら2人は俺に続いて静かに大地に降り立つ。
「……逃げてきたところすいませんお2人、手伝ってください」
そして俺がそう言うと、
「えぇ、えぇ、構いません……そうですね、あちらの下位天使さんは私が担当しましょう」
「……僕、正直あの獄卒の相手できる気がしないんだけど」
「なら、どうせあの占い師……半分こ野郎は仲間撃ちが怖くて手を出してこないだろうし……一緒にやるか」
『……見くびってくれる』
『多勢に無勢は悪いと思っただけだと、示してやる』
花笑さんが、まるで赤子を入れる籠のようなものを光で作りながら、明子を中に寝かす。
それを3体の怪物は、まるで礼儀と言わんばかりに手を出さない。
そして明子を守る結界が完成した次の瞬間、
戦いは再開された。




