第5話 その4
「……あんたが、二面性の魔女さん?」
俺は口元にカードを近づけながら問う。
「……そうね、最近はよくそう呼ばれているわ」
「俺達としちゃ、嬉しくない呼び名だがね」
花畑に座る女性と、炎の中に立つ女性。
全く異なる口調で話す2人の姿は……同じ。
髪型も輪郭も一切違わぬ2人が俺の問いに答えた。
「……他に誰も居ねぇな、やっぱりあんたら人気無いのか?」
周囲を見回しそう言うと、
「悩ましいほどに、私達は現在人気絶好調ですよ」
「今は外してもらってるがな」
当たり前の事実を、ただ伝えるように2人は言う。
「……つまり」
「貴方等が怪物の本体で」
「俺や観客を閉じ込めたのはお前らってことでいいんだよなァッ!」
「鎧ッ……戦!」
そう怒鳴ると、俺の姿はまた怪物へと変わる。
それを見ても、2人は決して怯えたりしなかった。
まるで、この姿を知っているかのように頷いていた。
「……なるほど、私が占った不幸は貴方ですか」
「俺が占った幸運にも、お前は出ていたな」
そう2人は相反する言葉を口にし、互いの目を見つめ合う。
「そうか……なら貴方の話も聞こう」
「そうだな、こいつの意見も聞こう」
「貴方は何をもって不幸と感じますか?」
「お前は何をもって幸福と感じる?」
「「聞かせてくれ」」
2人の中心に黒い穴が開く。
それはブラックホールのように周囲の炎を、花々を吸い込み、
その力に思わず閉じてしまった目を開くと、
そこには2体の怪物が立っていた。
右に立つ地獄の悪鬼のような怪物。
暗色に骨を纏い、
血色の肉体に無数の口や、目を生やす。
鎖を巻きつけたその姿は人に恐怖を与える。
左に立つ天国の神官のような怪物。
純白を黄金で彩った鎧。
無数の十字架を身に纏い、
機械仕掛けの黄金の翼が人に神聖さを覚えさせる。
その2体が……重なる。
1つになる。
吸い込んだものの分だけ大きさを増す穴に呑まれた2体は、
それを内から破り、砕いて、1体となって現れる。
『私が俺を理解するために』
天国と地獄
天使と悪魔の一心同体。
あの猿野郎にも似た、神々しさと威圧感を見る者にぶち込んで狂わせるその外見。
「……うおおおッ!」
俺はその不快感を振り払い、雄叫びとともに敵へ突進する。
ゲームでシールドタックルとよく呼ばれているような、盾を前に構えての突撃だ。
怪物化で跳ね上がった筋力任せの攻撃は昨日の大型トラックの比じゃない威力。
……の、はずだった。
「!?」
占い師の左半身、
その無防備に突っ立っている怪物の、
金と白の鎧に触れる……そう思ったときだった。
―――進めない。
まるで鉄塊に体当りしているみたいに、それ以上前へ行けない……いや、
衝突した反動が無い、俺が立ち止まった……?
違う、突進の衝撃全てを吸収された……?
「ッ!」
俺はまわし蹴りを打ち込むが、
「やっぱり効いてない…!?」
『半身だけだけど』
左半身で蹴りを受け止められ、動きを止めた俺に、血色の右手がめり込む。
そしてさらに
「!」
後ろに跳んだ瞬間、
拳から錆のような色をした不気味な炎が噴き出した。
それを必死に盾で吸収する。
しかし、
「!?」
盾に吸い込まれていく炎の向こう側、
占い師が変じた怪物がその左の手のひらから、眩い光を俺めがけて放ってきた。
俺はそれもそのまま盾で受けようとするが、刹那……昨日、花笑が自身に放った光を思い出し、盾を捨ててもう一度跳ぶ。
重い盾を捨てた全力の跳躍は、先ほどの数倍と言えるほど高く、
見下ろした景色に映る捨て置いた盾が、花笑の光を受けたときと同じように消されていくのを見て息を呑む暇があった。
……それと同時に
「弱点みっけたッ!」
好機を見出す時間もあった。
燃える大地に萌える花畑。
それらに隕石のように進が着地する。
その瞬間、炎を吹き飛ばし、葉や花びらを散らす勢いの砂煙が巻き起こる。
『!』
もちろん、その砂煙でダメージを受ける者などここには居ない。
しかし、視界は奪われる。
だがこの程度、あの光で全部かき消してしまえばいいはずだが……相手はそうしてこない、というかできない。
その確信があった……なぜなら、
「消せるんなら地面に大穴が開いてるはずだもんなァ!」
再生成した盾でぶん殴る。
そんな単純な攻撃が怪物の右半身に抉りこまれる。
『……』
「うぉ!?」
カウンターと言わんばかりに噴き出す炎、
俺は咄嗟にまた距離を取る。
占い師は砂埃をその炎の熱が引き起こした風で空に吹き飛ばし、
左の手のひらを俺に向ける。
動けば撃つ、警告とも思えるその手のひらに俺は動きを止めざるを得なかった。
『……機転が利く、隙を見つけ出してから動き出すまでが速い』
『なるほど、貴方なら戦えるのだろう』
「……?」
何だこいつ、急に褒めてきたぞ。
『攻撃を一旦止めて』
『言ったはず、話がしたいと』
「……わかった」
俺は一旦、怪物の足元に転がっていた盾を手元に呼び戻し、
臨戦態勢は取りつつも、聞く姿勢になる。
正直、このままやってても勝てる気がしないし、明子も輝照君達が保護してくれてるだろうと考えたからだ。
『……まずは改めて名乗る』
『私…そして俺は鈴瀬武ゞ』
『知っての通り、未来を占う占い師』
『君に、未来の話をしよう』
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