第5話 その3
「占いショーの会場は?」
「屋上遊園地近くのステージみたい」
「もう始まってるみたいだけど間に合うのか?」
「ちょろっとでも観れれば儲けもんでしょ!」
一目見れるという事実だけで、今日一にこにこしている彼女と、苦笑いする俺を乗せてエレベーターは屋上を目指す。
「そんなすごい人なの、その占い師さん」
「え、知らないの!?」
「って、そうか、そういや、進はテレビあんま見ないもんね」
「最近話題だよ、2つの机に2つの水晶、2つの人格で未来を占う占い師って」
「2つの人格……それで二面性の魔女なのね」
「……魔女なんだ、母とかで良くない?」
「いや、マジで魔女っぽいんだって!」
「特に立ってるときの、人の幸福を占う【俺人格】のときは特に!」
「何その【俺人格】って、胡散臭……」
そう口にしたときだった、
エレベーターが到着を知らせるチャイムを鳴らし、ドアが開き始めた。
「ほらせっかくの機会なんだから、とにかく見に行こうよ!」
また彼女は俺の手を引く。
……まぁ、それほど話題の人物だというのなら、イベントは大盛況だろう。
そういう人波は嫌いじゃない、どうせなら楽しもう。
そんなことを考えながら屋上遊園地を駆け抜ける。
「………?」
よほど占いショーが見たいのか、
他のことが気にならない明子と違い、
俺はその空間に違和感を感じた。
静かすぎる。
アトラクションの楽しげな音がするだけで、
人の声がしない遊園地。
人が皆、ステージへ行ってしまったにしても声がしないのはおかしい。
「……あれ?」
そして、その不安は明子が立ち止まった瞬間確信に変わった。
「誰も……いない?」
そう、誰もいない。
観覧席にも、ステージにも、ステージ裏にも。
客も主役も裏方も、俺と明子を除いて誰もいない。
幕の上がったステージには【二面性の魔女の占いショー!】とデカデカと書かれた看板が吊るされてこそいるが、ステージ上にあるのは一つの椅子と高さの違う二つの机、そしてうっすら光る二つの水晶玉。
「あれぇ……もう終わっちゃったのかな?」
いや、それはない。
看板に書かれた終了予定時刻にはまだ30分はある。
明らかな異常事態。
しかし、それを今ここで口にするわけにはいかない。
正義感の強い彼女が、首を突っ込もうとしないはずがないからだ。
だから
「……もしかしたら中止になったのかもよ」
俺はまず、そう口にする。
「あ、そうかも」
「明子、悪いんだけどインフォメーションにイベントについて聞いてきてくれない?」
「俺は一旦ここで待ってみるから」
「ん、わかった!」
俺は少々無理のあるお願いをして、彼女を立ち去らせてからステージに上がる。
こういう常識ではありえない出来事は、今日だけでも二度目だったからだ。
俺はポケットから携帯を取り出し、
教えてもらったばかりの番号にかける。
『……もしもし』
何度かのコール音と共に聞こえるやや生意気さをはらむ声。
「もしもし、輝照君?」
「本郷だけど……ちょっとリオンに来てもらえないかな」
「……うん、そう、たぶん怪物退治だ」
そう言い、俺は銀色のカードを取り出す。
――その瞬間だった。
「!!?」
モールが揺れた。
田場の巻き起こしたものとは比べ物にならないほど大きな爆発音。
目の前に立ち上ってくる黒い煙に、
俺は最近頻発しているという爆破事件、
そして何より……
「明子ッ!」
下へ向かわせた彼女のことを思い出す。
『本郷先輩、先輩!?』
「爆発だ、猿野郎かもしれないッ!」
「早く来てくれ!」
俺は輝照に怒鳴るようにそれだけ伝え、電話を切った。
そして、急いで明子を探しに行こうとしたとき、
「ッ!?」
もう一度……いや、何度も。
爆発が起こり、モールが揺れる。
そして、俺のすぐ近く。
特に変哲もないスピーカーが突如として、凄まじい爆発を引き起こした。
「………!」
吹き出す赤い炎と黒煙、
そして、立っていることもままならない爆風。
それを受けて机も椅子も倒れ、
置かれていた2つの水晶玉が転がり、床に落ちた。
割れるかと思った次の瞬間、
それは眩しく輝きだし、
溢れ出した光が俺を飲み込む。
光でくらんだ目が、再び視力を取り戻したとき、
「………ぁ?」
目の前に広がっているのは、
モールでも、爆発現場でもない。
燃える炎と、萌える花々の共存する。
現実ではありえない、あの世のような世界だった。




