第5話 その2
「苺スペシャル・ルビークレープください」
「あいよー」
リオン中庭広場、キッチンカーの赤髪のお兄さんが慣れた手つきで苺とジャム、そしてゼリーをふんだんに詰め込んだクレープを作り出していく。
「お待たせしましたー」
「お兄さんはいかがします?」
「えっと……じゃぁ、モカ・ビタークリームで」
俺はサイフからお金を出そうとした手を、明子にはたき落とされながら注文する。
「あいよー」
「……うへぇ、クレープを食べに来てまで苦いのを食べることなくない?」
「別にいいだろ、好きなんだから」
好きという言葉を明子にもう一度口にして、頬が熱くなる。
そういえば明子は俺が好きだと言ったことを覚えているのだろうか?
聞くのが怖いが……
「……なぁ、明子「お待たせしましたー」
……タイミング悪い。
口を開いた瞬間、店員さんに割り込まれてしまった。
「何?」
「……一旦なんでも無い」
「えぇ〜」
何とか勇気を振り絞ったのにタイミングを逃してしまい、何も言えず俺は歩き出し、
妙にニヤニヤした表情で明子はついてくる。
「……ん?」
俺は周りから変な目で見られてないかなんて、傲慢なことを考えながら周囲を見回していると、広場中心の鏡で作られた水晶のような巨大なモニュメントが目に入った。
「なんだこれ」
俺はモニュメントに近づいて見上げる。
……が、よくわからない。
「よくある現代アートじゃないの?」
「ならもっとわけわからない形してそうだけど」
先のとがった俺の二倍くらいある一本の根元に、無数に小さい水晶が生えている。
よく本とかで見る水晶の塊を巨大化させたって感じだ。
そして、その表面全ては周囲の景色と太陽光を反射する、綺麗な銀色の鏡面となっている。
「ん〜?」
俺はモニュメントを見上げたまま、また一歩踏み出す……と、
「うぉ!?」
足元を見ていなかったせいで何かに躓いてしまった。
俺は咄嗟にモニュメントに手をついて体を支えた……すると、
「ん?」
モニュメントが内部から光り始めた。
その青白いぼんやりとした光は、モニュメントの全体を光らせ、
その瞬間、鏡張りだったモニュメントはその内側をあらわにする。
マジックミラーってやつだ。
「なにこれ……枯れ木?」
モニュメントにへばりついて中身を覗き込むと、そこにあったのは折れた木だった。
葉も枝もほとんど無く、幹を上部で力任せに折られたようになっており、所々黒ずんでいる。
「進、表面見て表面」
明子にそう言われ、俺はモニュメントの透明になった表面を見る。
すると、そこには先ほどまでは見えなかった文字が、数え切れないほど浮かび上がっていた。
「なにこれ……名前?」
あ行から順に刻まれた男性女性、さまざまな名前達。
おそらく家族であろう同名字の名前も無数にある。
「なんの?」
俺が首を捻り、俺の体越しに覗き込んでいた明子もわからないと首を横に振っていると、
「……事故の犠牲者だよ」
背後から男性の声がした。
振り返ると、そこにいたのは杖をつく白髪と黒髪が混ざった初老の男性だった。
年齢としては60くらいだろうか?
左足を引きずるようにしてこちらに歩み寄ってくる。
「すまないがそこから降りてくれないか、足元にあるのが悪いんだがそれは追悼碑なんだ」
「「え、あ……すみません!」」
俺達は咄嗟にただの石畳だと思っていたものから降りる。
見れば確かに追悼碑であることが書かれていた。
モニュメントに目を取られていて全く気がつけなかった、罰当たりが過ぎるぞ。
「すみません、気がつかなくて」
「すみません!」
「………」
俺と明子は申し訳なさからもう一度、男性に今度は頭を下げて謝罪する。
しかし、男性は無言。
だが、怒っているという様子ではなく、
俺達の顔を見て、少し驚いたような顔をしていた。
「あの?」
俺はどうしていいのかわからず声をかけると、男性は意識をこっちに引っ張り戻されたかのように
「ん、あぁ……いいんだよ、気が付きにくく作ったやつが悪いんだ、気にすることはない」
そう優しく、それでいて悲しそうな笑みを浮かべながら言った。
その顔を見て、
「あの……もし、問題なければこれが何の追悼碑なのか教えていただいてもいいですか?」
明子がそう尋ねると、
「……君達は確か18歳と17歳だったね」
「もう知らない世代がいるのだな……」
「これは15年ほど前に起こった大規模なガス爆発事故の追悼碑だよ」
「中の木はかつてこの場所にあったショッピングモールの広場にあった木が、爆風で焼け折れたものだ」
「15年前……このニュータウンを作るきっかけになった事故ですね」
「地下のガス管から漏れ出したガスが、溜まり、ふとした拍子に引火して街の大部分が吹き飛んだっていう……」
「おや、事故自体は知っていたのかね?」
「これが追悼碑だとは、思いもしませんでした」
「……そうだろうね、店としても楽しく買い物をしてもらいたい施設に、暗いものを分かりやすく置きたくはなかったのだろうな」
「忘れられないために作られたはずなのにな……と、すまない、暗い話をしてしまったね」
「君達に知っておいてほしいと思ってしまってね」
「い、いえ……むしろ教えてくださりありがとうございました」
俺と明子は頭を下げると、男性は数秒黙祷した後、また杖をついて歩き始める。
「……今日はこれから風が強くなる、早く帰りなさい」
すれ違いざま彼はそう言って俺達の前から立ち去っていく。
「……風?」
俺が首を捻ると、まるで狙ったように強い風が吹いた。
しかし朝の天気予報じゃそんなこと一度も……そんなことを考えていると、
「ん、何?」
明子に背を突かれた。
「進、見て」
そして振り返った俺に、彼女が差し出したのは風で飛んできた一枚のチラシ。
「今話題の占い師【二面性の魔女】の占いショーだって!」
「見に行かない?」
男性の話で少し暗くなった心を明るく照らす彼女の笑みに苦笑いをし、
「行こっか」
俺は手に持ちっぱだったクレープを食べきって、そう答えた。




