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第1話 その2

俺は走りながらケータイを確認する。

時刻は7時23分。


(いつも通り、7時40分の約束だと思ったんだけどな……なんか言ってたっけな?)


そんなことを考えながら教会の隣にある、待ち合わせ場所の公園へ駆け込み、ベンチに座る制服姿の少女の元へようやくたどり着いた。


「ご、ごめん……お、お待たせ……っ」


肩で息をしながら俺は彼女に声をかけると、


「進!?どうしたのそんな息を切らして……!」


驚愕しながらそう言って、明子は立ち上がった。


「いや……俺さ約束の時間、勘違いしてたみたいで」


「え?7時40分……だよね?」

「まだ時間あるよ?」


ブロンドの髪を耳にかけ直しながら、彼女は首を傾げる。


「えっ……いや、でも…斗陸さんがもう家を出たって言うから……」


「え?……あ、それは、その……ほら!今日朝練の日だと勘違いしちゃってさ!」


「え、それだと家出るの遅いだろ」


「うっさい!」


明子は俺のスネに重い鞄をぶつけてくる。


その急な痛みに俺は、思わず情けない声が漏れる。


「ほら、ちょっと早いけどもう行こ」


悶える俺を置いて、明子は歩き出してしまう。


「ちょ、待ってよ!」


そんな彼女を追って俺は数秒遅れて公園を出る……と、


「あれ?」


明子は目の前からいなくなっていた。


左右を見回すと、


「おばあちゃん、大丈夫?」


すぐそこの横断歩道を、おばあちゃんをおぶって渡っているのが見えた。


「いつの間に……」


俺は明子が放り投げた鞄を拾い上げ、彼女達を追って横断歩道を渡ろうとすると


「うわ!?」


目の前を通り過ぎた自転車が、

ポイッと、空き缶を投げ捨てた。


マナーの悪い奴だ。

俺はそう、内心で批判するだけでスルーしようとするが、


「コラーッ!そこの自転車!」

「空き缶を捨てるなァ!」


そんな自転車乗りへ、明子は缶を拾いながら怒る……いや、それどころか自転車を追い始める。


「あ、おい!」


無鉄砲に走り出す明子、それを俺は追う。


「待てよ明子、危ないぞ!」


一応言ってはみるが、どうせ彼女の耳には届かない。

いつものことだ、

一緒に出かけても、隣を歩けた試しがない。


そんな事を考えながら、明子を追いかけて曲がり角を曲がろうとした……そのときだった。


キィィィイッ!!


車が急ブレーキをかけたとき特有の、あの甲高い耳に響く音が突如、聞こえた。


「明子!?」


嫌な想像をしながら曲がり角の向こう、道路を見る。


そこに居たのは明子と、それにギュッと抱きしめられている1人の黒に近い茶髪の少女。

そしてその寸前で止まっているロボトラック。


「何やってんの!危ないじゃない!!」


明子がほうけている少女の体を揺すっている。

少女が道路に飛び出したのだろうか?


「死んじゃうところだったのよ?!」


明子に揺され、

正気を取り戻した少女は、視界にトラックを捉えた瞬間、異常なほど震え始めた。


「ど、どうしたの……?」


そんな彼女を明子は、なんとか落ち着かせようとまた、少女をぎゅっと抱きしめた……次の瞬間。


ゴン!


異音がした。


ゴンッ!


トラックからだ。


ヴェゴンッ!


トラックのコンテナが、内側からボコッと持ち上がる。


べゴンッ!バゴンッ!!


金属製のコンテナは謎の衝撃により、ありえないほど変形し、


……バキンッ!!メキメキメキッ!


引き裂かれる。


そして……


バンッ!


その穴を押し広げて、何かが中から飛び出してきた。


「ヒッ……」


俺はその何かを見て息が詰まる。


それは……生物だった。


茨の巻き付いた冠を被る怪異。

猿や翁を思わせる硬質な面。

その姿には、見る者すべてに恐怖を与える獰猛さがあった。

だがしかし、それと同時に、聖者のような服を纏っているせいか、一瞬だけ神様のようにも見えた。


『………』


その生物……いや、怪(・)物(・)は、這い出たトラックのコンテナの上から、

じっと、明子を……いや、震える少女を、その無事を、意外そうに見下ろしていた。


「あ…っ、ぁ……」


その目に怯える少女。


「……そこのあんた!」

「何考えてんの、危ないじゃない!」


少女を庇いながらキッと怪物を睨む明子。

すると、


『……お前、願ったか?』

『いや……まだ、か』


気味が悪いほどに低く、しかし耳心地のよい声色が、怪物の口から漏れ出した。


「……そう、喋れるの」

「なら答えなさいよ、あんたがそのトラックでこの子をひこうとしたの!?」


『……見てわからないのか』

『どう考えてもそうであろう』


本当に理解できないという様子で怪物は言う。


「ッ……!」

「人を殺そうとしてんじゃないわよあんた!」


『……否、それは人ではない』

『我が手にすべき、物だ』

『奪おうというのならば……罪人として処分する』


意外にも明子の問いに答えた怪物はトラックから飛び上がり、彼女の目の前に凄まじい音と、衝撃波と、土煙と共に着地する。


処分


その言葉を聞いた瞬間、嫌な想像が頭を支配する。



あの引き裂かれたコンテナを思うと、狙われていない俺すらも恐怖で縛り上げられる。


なのに、なのにだ、

彼女は立ち向かう。


「処分……人を物として扱うんじゃないわよッ!」

「それに……罪人?」

「バカ言ってんじゃないわよ、人が人を守って何が悪いのよ!」

「それを邪魔する奴のほうが悪いに決まってるじゃない!」


『そうだ、そのとおりだ』

『故に、我が人類救済、その邪魔をする貴様を罪人と言っている』


怪物は拳を振り上げる。


俺は咄嗟に目を閉じてしまう。





(何故動かない?)


頭に声が響く。

暗い視界に星のような一つの光が見える。


(怖いのか?)


俺の心の代弁者なのか、声はそう聞いてくる。


(あの娘(こ)を失うのとどちらが怖い?)


……俺はあいつみたいにはなれない。


(……盲信だな)

(彼女を信じ過ぎだ、現実を見ろ、あの娘をしっかりと)


俺は恐る恐る目を開き、目の前を見る。

いつも見てきたあの娘の姿を。


まるでコマ送りのようにゆっくりと見える世界。


鋭い爪を鎌のように振り下ろしていく怪物。


それに立ち向かう明子の背中は……震えていた。




「うぅ……うああああぁッ!!」


気がつけば足を、踏み出していた。


怖い、怖いよ、怖いさ!


それでも、それでも……!


「あいつを失いたくないんだッ!」


そう宣言した瞬間、ポケットが光ったかと思うと、そこからあの銀色のプレートが飛び出した。


ひらひらと眼前に飛び出したプレートは

光に変わり、赤く光る門を作り出す。


あの怪物と同じ未知の何か。


しかしその向こうにいる明子のもとへ行くために、俺はその門をくぐる。


その瞬間、俺は猛獣に変わる。


鼓動が加速し、

体が、生え出した金のたてがみが揺らめくほどの熱を帯び始める。


骨が重みを増し、筋肉が膨張し、

その体を、かろうじて人型に止めようと鎧が全身を包む。


瞬きするほどの一瞬で起こったその変容は、

平々凡々な俺を……騎士へと変えた。


銀の鎧が朝の太陽の光を白く反射し、全身に毛並みのような赤い装飾を施した人外。


相手と同じ怪物へ。


明子を守る……そのために!


「うぉぉぉッ!!」


『……ッ!?』


俺の白銀の拳が怪物を殴り飛ばした。


「ぇ…!?」


背後から突如現れ、怪物を殴り飛ばした2体目の怪物に、明子は驚きの声を漏らす。


俺はそんな彼女の前に立つ。


怪物は、立ち上がり俺を睨む。


『……貴様、何者だ?』


「……ただのお前の、敵だッ!」




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