第4話 その3
「……?」
私はゆっくりと目を開いた。
頭が痛い、
何があったんだっけ……?
私はなんで学校の屋上で寝てるの……?
昨日と同じだ。
なんか、靄がかかったみたいに何も思い出せない。
私は起き上がり屋上からフェンス越しに教室を見る。
……授業中だ、
「……あれ?」
私は教室に戻ろうかと振り返ると、床に私のケータイが転がっていることに気がついた。
「なんでこんなとこに………」
落としたってことなんだろうか、
壊れてないといいんだけど
「………進ッ!?」
ケータイを開き、画面に表示された文面。
そっけないメールを見た瞬間、今なぜ私がここにいるのか、そして……何が起こったのかを思い出した。
私はフェンスにもたれかかり下を覗く。
「……居ない」
「というか、なんでフェンスが……床も」
わけわかんない……
思い出してみると、
耳にあの爆発音が、そして……
『いや、俺やっぱり明子のこと好きなんだなって思ってさ』
突拍子のない彼の声が、残っていた。
「ッ〜〜///!」
私はあまりの照れくささにフェンスに何度も頭を打ちつける。
ていうか、ほんと突拍子無さすぎ。
昨日はなんか素っ気なかったクセに……
「ほんと……わけわかんない」
そう呟いたときだった
「うわ!?」
手に持っていたケータイが、突如震える。
発信者は……
「進!?」
画面に表示された名前に驚きながらも、私はすぐさま電話に出た。
「進、進なの!?」
「ねぇ、どうなってんの!?何処にいるの!?無事なの!?何がどうなのか私には……!」
私はつい、わからないことを矢継ぎ早に彼に聞いてしまう。
しかし、
『明子』
彼に名前を呼ばれただけで、何故か言葉が止まってしまった。
気が動転しているからだろうか、鼓動が速い、体が暑い。
それでも、やっぱり聞かないわけには……そう思い、口を再び開くが
『助けてくれ』
「−−−−わかった」
彼の口にした言葉は、私の口にしようとした言葉を変えるには十分だった。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
『………』
廃ビル、倒産からの夜逃げでもしたのか、そのまま放置された電話とファイルだけが置かれた大量のビジネスデスクとチェアが放置された部屋が並ぶ人の気配の無いその建物の屋上。
そこで怪鳥は愉快そうに、遠くを見つめていた。
『ま、また…移動、したな……』
『ねね、狙いは、B2…… か、かな?』
怪鳥は自身の緑の瞳を通して、進の位置、そして自身の放った自立砲台の位置をリアルタイムで把握する。
『ひっ……ひひ、あ、あいつ、気が…ついてるのかなァ』
『ぼ、ボクが、何処にい、いるのか……』
進に破壊されたせいか、いつの間にか背中に再生したミサイルの詰まった装甲を、再びドローンとして飛ばしながら、ニヤリと笑って彼は言う。
『ぼ、ボクはもう学園のち、近くに…戻、ってるこ、ことにさぁ…!』
そう、ここは進がいる廃ビル街から十数キロ
元いた学園に隣接する場所だった。
『ど、どうせバカなあいつのことだ……ぼ、ボクが背中の装甲しか飛ばせないとお、思っているんだろうな……』
『あ、あいつはボクの…この田場勇斗のて、手のひらの上ッ!』
『せ、背中がそうなら胸部もそうにき、決まってんだろ……へへッ!』
『頭の出来が、出来がッ!違うんだぁよッ!』
誰もいない空間で、
まるで誰かに自慢するように、笑いながらそんな言葉を怪鳥は口にする。
『よ、4機編成であ、相手を爆撃する……』
『で、でも…れ、連続で撃つのは3機だけ』
『相手にほ、2つの砲台とボクしかいないようにみ、見せかける……!』
『ほ、砲台のどれかを…ボクと、ま…まぬけにもあたりをつけて……動いたところを、4機目でふ、不意打ち…!』
『う、動けなくなったところを……腕のお、大弾で……ど、ヒヒッ、ドッカーン……ハハッ!』
『ほ、本郷進は……こっぱ、こっぱ微塵ッ!』
間抜けなあいつだ、バカなあいつだ、
気がつくはずがない
気が付かず殺せる、
明子ちゃんを弄んで、運命で結ばれたボクらの邪魔をするからだ、
途切れ途切れで、詰まりに詰まった声で、
廃ビルに響く大声でそう言う怪鳥
確かにその背中にも、その胸にも、あのミサイルを詰め込んだアーマーは見当たらない。
床を、猛禽類の鋭い爪でカツカツと鳴らしながら、踊るように言う彼の姿は、
ただ、見る人に恐怖を与え……腰を抜かせ、震えさせるには十分だった。
しかし
「………ねぇ、今のってどういう意味?」
そんな彼に、背後から声をかける存在がいた。
「進を……どうするって、言ったの?」
『み、緑川ちゃん!』
その聞き覚えのある声に、嬉しそうに振り返り、怪鳥は両手を広げ歓喜し、振り返る。
そこに立つ、1人の少女へ。
『き、聞いてくれ緑川ちゃん!』
『ぼ、ボクらの邪魔をする…あ、アイツ!』
『本郷進を、け、消してあげる……君にへばりつく、アイツを、アイツを!アイツをッ!』
ぽすん
『………へ?』
喜びを共有しようと歩み寄った田場の、羽毛に包まれた腹に軽い衝撃がした。
それは本当に、軽い、何か当たったなってことがかろうじてわかる衝撃。
「……田場君、貴方私に何をしたの?」
怪鳥に目を向けず、彼女は問う。
「なんでなんとなく、貴方の位置がわかるの?」
「恋だとか、運命だとか、そんなんじゃ説明できない」
「だって……」
そしてキッと、怪鳥を、田場勇斗を睨み、
「私が好きなのは、進よ!」
「貴方、進に何をしたのッ!?」
そうはっきりと告げた瞬間だった。
「きゃっ!?」
分厚い羽毛に包まれた拳が、彼女の腹にめり込んだ。
高速で飛翔するためか、けして重い拳では無かったが、ただの少女を倒れさせるには十二分だった。
『………』
そして、その拳を放った本人である田場は、
ただ自分の手を信じられないといった様子で見つめ……そして、それと同じ様子で彼女を見る。
『ご、ごめんよぉ……で、でもき、気味が悪いだからね、きゅ…急に変なことを言うから……』
ふらつきながら怪鳥は明子にじりじりと寄っていく。
「ッ……何なの、どうしたの!?」
「貴方変よ、変になってる!」
「そんな人じゃなかったじゃない!」
そんな彼に明子がそういった瞬間、
怪鳥の全身の羽毛が突如膨らみ、
震え始める。
『ひ、ひどい!ひどいひどいひどいッ!』
『君だけがボクを理解してくれていると思ってたのに』
『ボクがッ、ボクがボクが!こんな化け物になってしまうほど……君が好きなんだってことをッ!』
怒りに任せた言葉が、途切れることなく怪鳥の口から放たれる。
『ボクを好きと言えッ!』
「そんな……ことを、言うの……?」
「そんな、そんな貴方なんて……」
「……私は!とってもッ!嫌いよッ!!」
しかし、それに負けず劣らず、はっきりとした口調で明子は告げる。
『うぅああぁあぁあ"あぁああッ!!』
『汚れている、呪われているッ!』
『緑川さんはボクが好きなんだ、ボクを見てくれるんだッ、緑川さんだけがボクを想ってくれていますんだッ!』
『わかってるわかってるわかってる!』
『本郷進ッ……君は呪われているんだ!アイツに!』
羽に埋もれていた猛禽類の爪が彼女の首を絞める。
『ぼ、ぼぼ、ボクの真実の愛が君の呪いを解いてあげる……ッ!』
『ボクを好きと言ってくれッ!』
『じゃないと、じゃないと、じゃないとッ!』
腕に取り付けられたミサイルが動く、
標準が彼女へと定められる。
「ッ……うぅ…」
首にかかる力が増す。
意識が朦朧としていく。
その苦しみが、首筋を爪がなぞる感覚が、
何かを思い出させる。
迫るトラック
猿の怪物
守れなかった少女
痛み、
苦しみ、
今と同じ……恐怖
そして……
彼女は笑う。
首に負荷がかかり、
今、この瞬間死んだっておかしくない状況で、まるで何かを確信しているかのように……
「……嫌い、よ…貴方なんて、怖くもない」
「そうやって、力で人の心を操ろうなんて人なんか!」
「貴方自身の力でもないくせにッ!」
『ぐっ……あぁぁぁぁあッ!』
怪鳥は明子をデスクへと投げ、左腕のミサイルを放つ。
その瞬間、彼女の脳裏に屋上での爆撃が浮かぶ………だが、
彼女に恐怖は無かった。
彼が、助けてくれると確信しているのだから。




