第4話 その2
(………)
全身から痛みが走る。
(…きろ)
徐々に思考を再開した脳に声が聞こえる。
(起きろ!)
(起きろと言っているんだ、死ぬぞ本郷進ッ!)
「は、はいッ!」
頭に響いた大きな声で意識が完全に覚醒する。
「だ、誰だ……?」
俺は頭に響いた声に周囲を見回す。
しかし当然誰もいない。
状況がよくわからないまま起き上がると、
身体から落ちた、花江さんの羽根に気がついた。
「黒ずんでる……?」
さっきまで白鳥よりも白かった羽根が、焦げたような、滲んだような暗い色をしていた。
(貴方のダメージを肩代わりしたんだよ)
落ちた羽根を拾い上げると、呆れたような、苛ついたような、
俺の意識を覚醒させた声が頭に響いた。
「……輝照君?」
(えぇ、そうですよ)
(まじめに授業を受けてたら、突然脳内に痛い熱い辛いだの、悲惨な絶叫をぶち込まれてクラスメイトの前で顔真っ青にして倒れてしまった、赤っ恥かきの華家来輝照ですよ、せ・ん・ぱ・い?)
「あ、はい、すいません……」
明らかに怒りをはらんだ、仰々しく、説明口調な彼の声に、俺は思わず目の前に相手がいないのに頭を下げる。
(花笑も花笑だ、不用意に羽根を渡すべきでは無いと言ったはずだ!)
(あはは……緊急事態でしたので)
(ハァ……それで?)
「それで?」
(状況だよ、状況!)
(貴方の状況、相手は誰で、能力は何かって聞いてだよ!)
それはつまり……手伝ってくれるということだろうか?
いやしかし、
「……男としてあいつとは一対一で」
(バカなのか?)
俺の男としての覚悟を、輝照君はバッサリと切り捨てた。
(大方、田場とかいう先輩と緑川先輩を取り合ってるんだろうけど)
(その勝負はもう貴方の負け、大負けでしょ)
「いや、俺は……!」
(手に握ってる黒焦げになった羽を見てもそう言えます?)
「……」
確かに、その通りだ。
(そして、貴方を倒したとなれば田場先輩はますます調子に乗るだろうね)
(力で気に入らない相手をねじ伏せた経験は後に尾を引く)
……彼は今後変わらず明子に言い寄り続けるだろう。
彼からしたらもう両思いのつもりなのだから。
そして、明子と田場の性格は……致命的に合わない。
必ず彼は激昂する。
(彼はいつか、緑川先輩を殺すよ)
「……俺も、そう思うよ」
「助けてくれ、輝照君、花笑さん」
俺はここに居ない2人に、せめてもの誠意として頭を下げる。
「相手は空を飛ぶことができる他、レーダーで俺の位置を正確に捕捉し、ミサイルで攻撃してくる」
「現在、ドローンを使って三手に分かれており本体の位置は不明」
「ミサイルをかき分けて発射地点に攻撃を仕掛けることは可能だけど、もし本体じゃなかったら背中を大量のミサイルに襲われることになる」
(なるほどな)
俺は可能な限り短く、それでいて余すことなく情報を共有する……と、
「何か本体の位置を見つける方法はないかな?」
(……わからないな)
「そっか……」
(あぁ、わからないな)
(他でもない貴方が、何故そんなことで悩んでいるのか)
(死ぬほど簡単な方法があるだろ、何故思いつかないんだ?)
「……え?」
(緑川先輩を頼れよ)
「いやそれは…ッ!」
俺は輝照君が淡々と告げる言葉に口を挟もうとするが、彼は構わず言葉を続ける。
(大方、巻き込みたくないとか思ってんだろうが……違うぞ)
(あんたが巻き込まれたんだ)
(本来、渦中にあるべき人間なんだよ緑川先輩は)
そんなことはない。
(遅かれ早かれ、彼女は絶対にこの異常な戦いに巻き込まれる)
(どうせ巻き込まれるなら、今であるべきだと僕は思う)
「そうかもしれないけど……」
「でも、彼女の安全を考えると……」
俺はもごもごとそう言うと
(違うな)
彼はそれをバッサリと切り捨てた。
(貴方はただ、怖いだけだ)
(自分の怪物としての姿を見られるのが)
「………」
図星を刺された、
(でも、そんなんで緑川先輩を助けられるのか?)
(好きな人を守ることはできるのか?)
(騎士なんだろ、心だって傷つく覚悟を見せろよ!)
痛烈な言葉が俺を襲う。
俺は、俺はその言葉に何も言えず唇を噛む。
自分の手を見る。
ガントレット越しにもわかる鋭い爪を生やした異形の手。
人の手を握れば傷を負わせてしまいそうな、武器のような手を。
自分が傷つかないことと、
明子が傷つくこと、
どちらが大事なのかなんて……
『な、なんだ……ま、まだ生きてた、のか』
「!?」
考えるまでもない結論に、たどり着いた俺の目の前に、あの怪鳥の声が聞こえた。
見るとそこにいたのは背面アーマーの1基、しかもさっき壊したのと同じ左側。
『動か、動かない…から、しし、死んだのかと思って、く…悔しそう、悔しそうな顔を見てやろうと……!』
蓋を開き、内に詰められたミサイルが顔を出した
気がつけば俺はそれを盾で押し潰していた。
誘爆するミサイル達、
俺はそれをもろに喰らうが、その痛みがむしろ……覚悟を決めるきっかけとなった。
――もし、万が一にでも明子にこれが向けられうるのなら、
「俺は、あいつに嫌われたって構わない」




