第3話 その3
明子へ
話がしたい。
悪いんだけど放課後、屋上に来てくれないか?
進
「こんなシンプルなのでいいのかな……まぁ、いいか」
屋上、フェンスにもたれかかって俺はケータイの画面を見つめていた。
時刻は13時55分。
5限のチャイムはすでに鳴り終えた。
先生が遅れてきたのか、窓から急いで席に座る生徒達の様子が見える。
その様子を見おろしながら、授業をサボると決めた俺はため息をついた。
「何やってんだろ俺」
「明子に好きな奴ができたら……盛大に祝ってやろうって決めてたのに」
「……やっぱ、好きなのかなぁ」
俺はもう一度メールの文面を見る。
どれだけ考えても、これ以上思いつかなかったたった2行のメール。
今頃、田場は熱烈なメールを考えていることだろう。
というかこれ、デートの誘いじゃないよな。
どっちが放課後デートに誘えるかって勝負なのに……
「勝てねぇんだろうなぁこんなんじゃ……」
「あいつは3度も明子を守ったのに俺は、あんな力がないと明子を守れない」
俺はポケットから銀のカードを、そして金のカードを取り出す。
太陽の光を反射する2つにはあのとき感じた不思議な魅力が、何故か今は全く感じられない。
「……もう1回、試してみようかな」
憂鬱な気分になりながらも、怪人の姿に成ることができるようになったという史実が、
俺のニチアサによって形作られた少年心をくすぶる。
変身ができるようになって、嬉しくないやつはそういないだろう。
自由に行き来できるようになるために練習が必要だろうし……どうせここに人はこないだろう。
そう思い、俺は金のカードをポッケにしまって銀のカードを見つめる。
使い方は……簡単だ。
俺は緊張しながらカードを……
「あ、時間!」
口元に運ぶ手を止めた。
ケータイで時間を確認する。
14時02分
「やっべ、過ぎてる!?」
「まだ送信先も入れてねぇのにッ!」
まずいまずいまずいと、俺は焦って連絡帳から明子のアドレスを確認しながら入力。
結局、送信が完了したのは14時04分だった。
「はぁ、ほんと俺って……」
ケータイを閉じ、
またもフェンスにもたれかかる。
あいつの性格上、先に申し出てきた人との約束を優先するだろう。
つまり、まぁ……負けということだ。
「まぁ……幸せならいいんだけどさ」
そうなっても、あの猿を倒すまでは彼女を守らなきゃな……いや、これはさすがにストーカーすぎるか?
「はぁ……」
ため息をついた……瞬間
バン!
「進!」
扉が勢いよく開き、現れたのは……
「明子……?」
クソ真面目で、
授業なんてサボるはずがない、
ここに絶対、いるはずがない……
緑川明子、本人だった。
「何で……?」
「……ッ!」
困惑する俺は一歩下がろうとしてフェンスに背をぶつける。
そんな俺との距離を、明子はどんどんと詰めてくる。
そして
「馬鹿ッ!」
俺の頬を叩いた。
「……話があるってんなら、今すぐしなさいよ」
「呼び出してんじゃないわよ」
「放課後まで待とうとしてんじゃないわよ!」
「なんなの、何なのよあんた、昨日から!」
「またあとでって言ったのに、また明日って言うし!」
「今朝からなんか避けてくるし!」
「私達幼馴染でしょ!?ちゃんと言葉にして教えてよ!」
「わかんないじゃない!」
「こっちが困惑してたら……何よこのメール!バカにしてんの!?」
彼女は俺を指さし、胸を刺し、ケータイの画面を突き出す。
「い、いや……これは、その、勝負で……」
「勝負!?誰とのよ!」
「田場……との」
「はァ?何で田場君と勝負になんのよ、それがメールと何の関係があんのよ、どういう勝負よ!」
「メール、俺より先にあいつからメール……来てないのか?」
それを見ていればわかるはずだ
「メール……あぁ、これ?」
そう言って彼女が見せたメールは
……なんだ、これ?
ろくに改行もされてない何十行もの文章、文字の塊のようなものだった。
「読んでる途中にあんたからのメールが来たのよ……だから先にそっち読んでみたら、ずいぶん舐めたこと書いてるじゃない?」
「だから私、あんたより先に屋上で待ち伏せてやろうって思ったのよ」
彼女はケータイをしまいながらそう告げる。
強気な目で、しかし少し潤んだ目で。
それを見て俺は
「……プッ、フハハハ」
つい、笑ってしまった。
放課後まで待つ気で彼女はここに来た。
田場のデートの誘いに乗ることは無いだろう。
それが、彼の書いた長々としたメールのおかげか、俺の昨日からの情けない行動のせいかわかんない。
けど、そのおかげで俺は勝負に勝った。
「何、笑ってんのよ……あんた」
それを見て、明子は怪訝そうな顔をする。
「いや、俺やっぱり明子のこと好きなんだなって思ってさ」
あー笑える。
笑いすぎて、今まで気を張ってたのがバカみたいだと、自然と言葉が………ん?
「え?」
自然と、こぼしてはいけない言葉が、溢れた。
「あんた……今、なんて…?」
目を大きく見開く明子、
その顔を見る俺の顔は、どんどんと熱くなる。
「いや、えっと……さっきのは、違くて」
明子から目線をそらす、
ごまかすように少し上へ向ける。
「………ん?」
青い空に影が見えた。
無数の玉……いや、弾?
……不可思議な軌道を描き、その軌道に白い煙が残る。
これは………まずい!?
「ごめん!」
俺はその正体がわからぬまま、明子を突き飛ばす。
次の瞬間、屋上に……いや、俺に振り注いだその物体達が次々と連鎖するように爆発する。
炎と黒煙、そして爆風を引き起こして。
「ッ……ぁ!?」
爆風によってフェンスが折れる。
もたれかかっていた俺もろとも、
「進!」
黒煙の向こうから明子の声がする。
しかし、俺はそれに言葉を返すことができなかった。
校舎の屋上から自身が、落下しているという事実を、理解するのに精一杯だったのだから。




