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異世界で超ブサイク(超イケメン)な男たちに懐かれてしまったが、愛猫が待っているので現世に帰らせてください  作者: ふぁんたず
第九章 異世界でとうとう人外になります、そろそろ本当に帰りたいです
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8.公務員はいつでもどこでも大変そうです




 それからというもの、その日暮らしの日々が続いている。


(主さま、その日暮らしという言い方はどうかと思いやすぜ)

(ほかに言いようある?)


 そう、まったくもってその日暮らしなのだ。都と阿止里さんの牢の中間くらいにある、いい感じの木の()()を寝床にして、朝起きたら川の水を飲んで、都のほうへ降りていく。


 その途中にあるさくらんぼや木の実が地面に落ちているのを食べつつ、そのままにぎやかな都をほのぼの散歩したり、阿止里さんの牢を遠巻きに見に行ったり。


(……隠居したおじいちゃんでももうちょっと生活に張りがあるよ)

(主さま、ヒナの様子でも見に行きやしょうか)


 通り道の茂みで見つけた鳥の巣の卵が二日前に孵ったのだ。母鳥は餌探しでしょっちゅう不在にしていて、私と拓斗はその隙にヒナたちの成長を見るのを楽しみしている。


 ……って、だからこれじゃだめなんだってば。


(ねえ拓斗! ほんとになんでここに飛ばされたのよ。何をしたら帰れるわけ?)

(さてそれは。前にも申し上げたとおり、すべきことがあるのでしょうよ)

(たぬきの身体で毎日のんべんだらりとすごしてごはん漁ってヒナ観察日記をつける以外に?)


 いたたまれない間のあとで、拓斗はぼそぼそと答えた。


(術というのは想いの濃さも大きく影響するもんでさ。じっさい、いままで転移したのも主さまがかかわりを深く持っていた人たちのまわりだったでしょう)


 想いの濃さ?


(重ねた時間、話した会話、合わせた目線。関わり合いの密度。時間をかけて凝縮されたそれらは術を扱う際の熱量になり得るということです)

(……まあ、言われてみれば。確かにククルージャですごした四人の近くに飛ばされてはいるね)


 ギィという例外はあるけど。

 でもそれはたしかたまが言っていた。この世界の人と関わりあう、腹をくくらせるきっかけのための転移、だったか。傍観者をやめさせるための。


(つまり、ここでの鍵は阿止里さん?)

(そう考えるのが妥当でさ)


 とはいえ、彼にはもうシャットアウトされてしまっている。ここへは来るな、という声には明確な拒絶しかなかった。さすがにああまで言われてのこのこ会いに行くほどメンタル強くない。とはいえ彼がこの転移の中心にいるとするなら、やむなしか。


(しょうがない、その線からのほかを当たることにするわ)

(あてがあるので?)


 前脚を伸ばして全身をぶるりと振るわせる。意外そうにさえずりながら拓斗が頭に乗ってくる。


(お父さんのところ)


 なるほど、と拓斗がうなずいた。


(娘さんをぼくにください、というやつですな。あのシーンはなんともいえない緊迫感があって好きですよ)


 私の部屋で暇つぶししてたときの偏った知識、ちょいちょい出してくるのやめてほしい。







 というわけで王宮だ。


 王宮は碁盤の目のように整えられた道の突き当たり、大きな門の先にある。教科書の平安京をいくらか小規模にした感じに見える。


(主さま、皇の住まいをご存知だったのですな)

(ふふん。市場に毎日通っていたのはこのように役に立つ情報を集めるためだったってわけよ)

(そうでしたかね……)


 断じて道ばたに落ちた食べ物を漁るためではなかったのだとこれで証明できた。


 さて、門のところには剣を提げた警備兵が目を光らせて出入りする人を検める……ということはなく、いちおう長い棒(槍ですらない)を持った役人があくまでお飾りのように立っているだけだ。


 これならギィたちのビエチアマンのほうが出入りを念入りに検査していた。あそこは雪国の要塞の都市国家ふうで、食料の自給自足はしていなかったから、奪い奪われるのが日常だったのだろう。


 対してここは比較的のんびりとした農耕のクニだ。基本的に農耕ができれば飢えない。飢えないならよそから奪う必要はない。近隣の那も同じような発達なのだろう。警戒心が違って当然だ。


 なので王宮という一国の心臓部に、頭に小鳥を乗せたたぬきが忍び込むのも、拍子抜けするほど簡単だった。


 門の先には石畳の通路が続いている。都の通路はただの砂利や踏み固められた土だったけど、わざわざ石畳にしているあたりコストかかってる。


 建物のサイズ感はといえば小さめの市役所って感じ。二階建てにする技術はないのか平屋で、それこそ古代中国のような丸くて高い柱、かざりの施された屋根と天井。あくまで華美さはなく、役人たちの仕事をする実用的な建物っぽい。周りは縁側のようなつくりの回廊になっていて、建物をとりかこむ林がすぐそこにある。誰かと出くわす前にさっと茂みに逃げ込めそうで便利だ。


 その縁側、つまり廊下を目立たないようにしながら右回りに奥へと進んでみる。たくさんの部屋を通り過ぎる。どの部屋でも膨大な木簡の巻物が棚に整理され、役人たちが静かにそれを処理していた。


 この時代の公務員の仕事ってどんな感じかな。戸籍課、税務課、……情報課とこども課はなさそうだ。


(主さま、入り口に戻ってきやしたぜ)


 頭の上の拓斗の声に、えっと私は声を上げる。さっき見たやる気のない役人があくびをしながら立っている。

 そうか、二回三回と角を曲がってきて、四角い建物を一周してきたってことね。

 ただの社会見学だ。


(おうさまの部屋を目指してたんだけど。ここただの役場だったね)

(皇のすまいは建物の奥、渡り廊下でつながっている先にありそうでしたぜ)


 さすが拓斗、社会見学の間にもちゃんと見つけてたらしい。


(それっぽいのがあったなら見つけたときに教えてくれてもいいじゃない)

(由伊津の官吏の仕組みを眺めたかったもんでして)


 まじでただの社会見学じゃん。魔術師たちの知識欲、付き合ってられないわ。







 渡り廊下の向こうは一気に空気が変わった。


 役場の中のそわそわとした喧騒や話し声が遮断され、ひっそりとした空気が満ちていた。私が通るだけで空気を揺らしてしまうかのような。


(……こっちはこっちでそこそこ部屋数ありそうだね)


 なんとなく抜き足差し足になりながら、たいして用もないのに拓斗に話しかける。そうしないと静か過ぎて落ち着かないのだ。


(いちおう皇の住まう宮ですしな。世話をする侍女たちの待機する部屋や貴賓室、会合のための部屋。それに祭事や儀式につかうものの倉庫、衣裳部屋などあまた必要でしょうな)


 役場のほうと同じく建物自体は柱にしろ廊下にしろ大きな樹をそのまま使っている。ただ役場のほうは部屋の入り口に扉はなかったのだが、この宮では部屋ひとつひとつにドアがつけられていて、何の部屋だか確かめられない。皇の部屋を見つけるのは難儀しそうだった。スライド式の扉はたぬきには開ける手段はない。


(どのへんにおうさまいると思う?)

(さて、だいたいは奥まったところにおわすものですが)


 奥ねえ。とてとてと足を進めると、ちょうどひとつの扉が開いた。大きな敷布を小脇に抱えた女性が出てきた。ワンピース風の法服で、やっぱり髪の毛はみずらっぽく結い上げている。


 ん? なんかすごい焦っているっぽい?


 出てきた部屋のほうへ向けてひざをつき、両腕を組むようにして平伏して、廊下を走っていこうと立ち上がる。


 私は急いでいる彼女が再び立ち上って扉を閉める隙に、全速力で駆け抜けた。丸めた敷布を再び腕に抱えた彼女は、私がその影になったのか気づかなかった。


(あ、主さまよ……ほんに、ときに大胆に動かれる人ですな)

(いや閉められたらアウトだと思ってさ。ばれなくてよかった)


 心臓がばくばくしている。だってあの侍女の動作は偉い人にするようなやつだったから。

 急いで走っていったけど、どうしたのだろう。


「―――これは、珍しい客人だな」


 たぬきの毛穴がぶるりと締まる。大きくはないのに内臓まで響いてくるような声。


 そっと部屋の奥を眺める。部屋が薄暗いのに加えて、このたぬきのモノクロの視界でとても見えずらい。


 それでも寝台に横たわっている男の顔は見ることができた。白髪の混じる長髪。精悍な頬。なんといっても切れ長の力ある瞳。


「なんのもてなしもできないが、ゆっくりしていってくれ。楽しい時間にしよう」


 阿止里さんにそっくりな皇はそう言って、目じりのしわを深くした。


(そういえば、この場合娘さんではなく息子さんでは? 新しいパターンですぜ、主さま)


 あんたはほんと、黙ってなさいよ!




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