第77話
スリアドの町に着いた。
「結局可愛い盗賊は1匹しか捕まえられなかったか……」
「チッ、残念だぉ。しかもよその子だし、手を付けられんのも業腹だぉ」
「とりあえず相手がPKプレイヤーじゃないといいっすけどねー」
そんなわけで、捕まえた盗賊……サンを門で引き渡し、どうせ予定もないのでと一旦商人君と分かれて迎えに来るプレイヤーを待ってみることにした。
ミーティちゃんには商人君と一緒に行ってもらった。……一応仲良くはなれたのかな? ということで、その賭けは俺とペンペンの勝利……
「いやアレはまだまだだぉ! 敗北を認めないぉ!」
「往生際が悪いっすよアルト氏!」
「そうだぞ、あれはちゃんと好感度上がってるし! 10段階で0から3くらいには!」
なにせ身を挺して商人君を守ってたしな! 分かっててギリギリまで庇わないマッチポンプだけど!
と、そこに一人の女性がやってきた。
なかなかの美女である。切れ目でタイトスカートが良く似合う、大人な女性だ。有能な雰囲気が漂っている。
「あらあら。騒がしいじゃないの。あなたたちがウチのサンを捕まえてくれちゃった精霊憑き、かしら?」
「むぉ? あ、精霊憑き。今度こそプレイヤーだぉね? 初めましてだぉー」
「初めまして。ぷるぷる、俺悪いスライムじゃないよ」
「初めましてっすー」
「……ぁー……どうやら本物みたいね。初めまして、私は『何でも屋』社長。マハリクよ」
ぺこ、と会釈するマハリク。礼儀正しいな。
「事情を説明すると、盗賊の潜入調査だったのよ。迷惑かけたわ、ごめんなさいね?」
「なるほど把握だぉ」
「オッケー。んじゃ仕方ないね」
「サンちゃんって子も道中そう言ってたし、大体わかってるっす!」
「話が早くて助かるわねホント」
サンちゃんもそもそも抵抗しなかったし、敵対したくないのは分かってたよ。うん。ちょっとPvPしてみたかった気もしなくもないけどさ。
「他のプレイヤーと会うのは初めてだわ。そういえばこれ、ネトゲだったわね」
「アルル氏だぉね? あの子、Wikiで見たぉ!」
「その特徴的で古めかしい語尾。もしかしなくてもマゼルさんね? その子もWikiの『うちの子自慢』ページで見たわ」
「だぉ! いやぁ、普段Wikiで会う人と実際に会うの、変な感じだぉねぇ!」
マハリクと握手してブンブンと手を振り回すアルト。
実際、というか、まぁゲーム上だけども。
「……名前がややこしい問題が再燃してきたな……名前が覚えきれん」
「ちなみにボクらは基本1人目キャラの名前で呼び合ってるぉ」
「それなら私はマハリクでいいわ。Wikiにも書いたけど、実際はまだ『2人目』じゃないみたいだし」
「じゃ、俺はトリアで。このボディは『2人目』のミーティちゃん」
「ペンペンっす。身体は『2人目の』ギンちゃんっす」
「3人ともプレイヤーなのね。……イチ、ニィ、ヨン、出てきていいわ。彼女らは本物よ」
マハリクが声をかけると、隠れていた3人が出てきた。まぁマップで一応見えてたけどね。
関係者なのかそうじゃない人なのかまでは分からなかったので放置していた。
……おや、それぞれハンドガンを持ってるな。SP装備か?
「1、2、4。そして残りが3……なんとも安直な名前だぉ!」
「あなたも歳を取ると分かるわ、この名前の素晴らしさが。……名前って覚えきれないのよ。ちなみに既にあなたたちの名前が分からないわ、間違えたらごめんなさいね!」
「あー、分かるっす。人付き合い多いと顔と名前が膨大な組み合わせになって一致しなくなるんすよね」
「それなー。鈴木さんA、鈴木さんB、鈴木さんCとか被ってくるし」
人間の記憶力には限りがあるのだ。
リアルでそうなんだから、ゲームで同じ苦労を味わいたくない。とても納得できるネーミングだ。
「名前表示あると良いのに、と初めて思ったわ」
「確かにだぉね。ちなみにマハリク氏は名前の由来とかあるのかぉ? 由来絡めると覚えやすいぉ、いにしえの魔法少女の呪文かぉ?」
「ああ、私は本名が久里浜……あ、やば言っちゃった。まぁいいわ、本名の逆読みよ」
「……知人と同じ名前だぉ。その、口調とかからもしかして、リアル知り合いかもしれんからフレチャで聞いてみていいかぉ?」
「ええいいわよ。……私も結構気になってたから、もしかするわね」
おいおいリアルの詮索はご法度だろ、と思いつつもお互いがそれぞれ気になっていて確認したいというなら止めるほどでもない程度のマナーである。
あれ、でもこのゲーム謎フィルターで身バレ防止対策がかなりされているんじゃなかったっけ?
ともあれフレンドチャットで気密性の高い会話を始める2人。声は一切漏れ聞こえない。
「……?」
「……、……?」
「!? !!」
「……っ!?……~~~ッ!」
あ、二人の皺寄ってるしかめっ面を見るに上司っぽい。ってことは俺の上司でもあるのかもしれない。
でも久里浜という名前に聞き覚えは無いので営業の方かな? 直属ではないはずだ。
「……ま、まぁこのゲームでは対等のプレイヤーとして扱うぉ! よろしくおねがいしますだぉ!」
そう言いながらビシッと90度の角度で頭を下げるアルト。
「そ、そうね。ええ、あ、そっちの2人もリアル知り合いだったりする?」
「私は違うと思うっす」
「俺は部署違いかなー。もしかしたら顔見たことあるかも、くらいの可能性なのでこのまま知らないテイで行かせてください」
「それがいいぉ! 絶対そうするべきだぉ!」
なんだよアルト、そこまで力強く言われると逆に気になってくるじゃないか。
ま、でも上司とネトゲとか絶対に気まずいのは間違いない。社員リストとか絶対に調べないようにしよっと。




