るすばん組の影響
「……んん? なんか、変わった?」
「ふぇ? ど、どうかした、? トリアちゃん……トリアちゃんも何か感じた?」
その日、ペンペンの牧場で留守番をしていたトリアとペンペンが、何かを感じた。それは、小さな衝撃波だった。水の中で波が身体を通り過ぎて行ったような。そんな感覚だった。
別室でゆっくり体を休めていたニカもホームのリビングにやってきた。
「トリアちゃん、ペンペンちゃん……なにかあった、よね?」
「うん、ニカも感じた?」
「感じた。何今の?」
「知らないけど、精霊様たちが何かしたのかも」
だいたい何かあるとすれば、精霊達の関連だ。
特に何もしていなかったとき、となれば他に考えられることも無い。
……たとえ恐怖の大魔王が現れた、とかだとしても、それはやっぱり全てを捧げた彼女たちは「精霊様の敵になるかどうか」という点でしか考えることは無いので、精霊達の関連で間違いないわけだが。
「な、何かをされたのか、精霊様に話を聞けない、かしら?」
「夜にはホームに戻ってくると言っていた。その時に聞けると思う。待つ?」
「ううん、精霊様の話を聞く前に、確認してみよ?」
ニカが積極的に検証をする構えだ。精霊様に休んで気力を回復しろと言われているが、それはつまりすることがないという事でもある。精霊に全てを捧げた精霊憑きにとって、精霊達になにもできない状況は落ち着かないのだ。
たとえそれが、精霊様に言いつけられた休養であっても。……休むべきだと頭では理解しているのだが。ニカはそれに耐えられなかった。
「ニカは休養しろと言われているけど、大丈夫?」
「もうHPもMPも満タンだから、むしろ少し体を動かした方が良いと思うの」
「そ、そういう、ことなら、しかたないね? へへ、じゃあ、検証……ふひひ」
というわけで3人は、何が起きたのか調べてみることにした。
「せ、精霊様がなにかして私達に影響があったなら、えと、何か、大きなことが変わったんだ、と、思う」
「大きなことなのに気付かないような、って事かな?」
「い、いままでできなかったことが、できるようになった、とか。そういう感じかな」
「なるほど。じゃあトリア達は何かできるようになったことが増えたのか調べればいい?……んー」
とりあえず身体を動かしてみるトリア。ストレッチ、可動域変化なし。パンチ速度、変化なし。ジャンプ力、変化なし……
「トリアちゃんやペンペンちゃんが『穢れ』を食べられるようになったとか?」
「それだとニカには影響がなかったはず。違うと思う」
「そ、そうだね、なにか、共通? なんだろう?」
首をかしげるペンペン。
「トリアちゃん。むしろ今までできなかった事を試してみたらいいんじゃない?」
「今までできなかったこと。……ステーキの食べる量が増えたとか?」
「胃袋の、サイズが大きくなった、ような、感じはない、ね?」
「逆立ちは前からできたし、うーん? 足が速くなった、とか?」
牧場の外を一周走ってみるが、記録は誤差の範囲内。変わっていないといっていい。
「と、トレーニングの、効率が、上がってたり、とか?」
「ありうる。ステータスしっかり見ながらトレーニングやってみる」
「あ、じゃあ私もやる。精霊様仕込みのブートキャンプだよー」
「……あれは流石に休養しろという命令に反すると思う」
休養を言いつけられているのに肉体の限界を攻めるような筋トレは流石にダメだと思う。とトリアはニカを止める。
「だ、だめかな? やっぱり」
「やっぱり、という時点で語るに落ちてる。……ブートキャンプまでやらなければいいとは思う」
「き、器具もあ、あるよ? ダンベル、マルチアブベンチ、ランニングマシーン、エアロバイク……」
ペンペンは筋トレ道具もクラフトしている。シムに置かれるような本格的なものはまだ少ないが、そういう器具も置いてある。
トリアは自分たちのホームにもこれらの器具を是非おきたいと考えており、精霊様にそれとなく提案を上げてみる予定だ。特に足を鍛えるやつ。
そして筋トレもしたものの、これもやはりいつもと大差はなかった。
結局なにが変わったのだろう。と首をかしげる。
「……このくらいにしておこう。ちょっとお風呂入ってくる。精霊様達が戻ってくる前に、身体を清めておきたい」
「あ、じゃあわた、私も入る」
「ご一緒するね」
ペンペンのホームにあるお風呂は広い。いずれ自分がゆったり入るため、とかなり大きい湯船を確保しているのだ。今でも服を着たまま入ったりしているが。
そして、精霊憑き達だけであれば、そのお風呂は使うことができる。精霊達はお風呂に入ろうとすると眠ってしまう呪いがあるようだが……
「……ふー。……んむ」
「お風呂、お風呂……はふ」
「綺麗なお湯につかるの、気持ちいいねー」
大きな湯船に贅沢にお湯を張り、良い香りのハーブを入れた袋と共に湯船に入る。もちろん先に汗は流した後だ。
「……ところで。身体をしっかり洗えた気がする?」
「あうん。それ、私、も、気づいた」
「まさか、身体をしっかり洗えるようになったなんて……とてもうれしいね?」
そして、何が変わったのかを見つけることができた。
まさか体の手入れについて、だ。一部、直接触ることができなくなっていた場所があったのだが……その制限が解除されていたのだ。
「ペンペン、触るね」
「ひゃい!?……あ、こ、こっちはだめ、なんだね」
「自分の身体だけ、みたいだね」
ペンペンの身体を触ろうとしたところ、謎のバリアが出て触ることができなかった。ふーむ。
「あ。そうだ。マッサージ」
「ふぁ? な、なに、ニカちゃん?」
「マッサージしてあげる。いい? 私、マッサージのスキルもってるから」
「……うん? お、おねがい?」
「えい!」
そして、ニカは掴んだ。実りを。
「みひゃっ!……ぁ、さ、触られてる?」
「触れてるね! ペンペンちゃんお肌すべすべだね」
「な、なんでぇ?」
「医療行為はハンテーが緩い、って精霊様が言ってたの!」
「……な、なるほど。……あ、気持ちいい。重いんだよねぇコレ……」
心地よさそうに目を細めるペンペン。
マッサージでしばらく揉んだのち、ニカは手を離した。
トリアもそれを見て頷いた。
「マッサージならいい……ふむ。これはつまり、精霊様のためにもっとしっかり身体をメンテナンスしろという事」
「せ、精霊様に報告した方が良い、のかなぁ?」
「分からない時はとりあえず報告するのが正解、だねー? シャカイ人の常識だって」
「シャカイって、精霊様の国の名前?」
「じゃないかな?」
「精霊様、の、常識なら、従う、べきだね!」
そんなわけで、今夜にでも報告しようかな、と、そういう事になった。
尚、精霊様達の場合は本人以外の身体についてはなぜか今まで通りの触り判定で、「チクショーーー!!」「ウゾダドンドコドーーーン!」と嘆いていた。
たぶんそういう考えだから触れないんじゃないっすかね。とペンペンの精霊は思った。




